Sランク冒険者:ケイジュ2
「根だと!こんなもの…いったい何時から!」
「教えてあげるよ…俺は親切なんだ!」
黒ローブは段々と近づいて来る。
地面の草木を踏んでいるように見えるが…枝が折れる音、枯れ草が潰される音が全くしない…。
「クッソ!!グゥ!」
メルザードは全身に籠められるだけ力を入れるが、根は巨木の如く動かない。
――ちくしょう!ただの根じゃねえな…。魔力で数段階耐久力が上がってやがる。さっき俺が切っていた根とは話が違うな…。
「メルザード君は…いつの間にか…捕まっていたような顔をしたけど…本当は、最初っから捕まってたんだよ~」
「何…」
黒ローブは漆黒の瞳を俺の瞳へ被せるように、顔前に接近する…。距離にして数㎝…。
――何だこいつの眼…俺の顔が見えねーぞ…。
「僕が、この木枝を木に刺した時から、君は根に縛り付けられていた。抵抗すらせず、完璧に縛り込むまでずっとその場で立っていたんだよ…」
黒ローブの顔は人顔をしておらず…歪み切っている。
――俺は、これほど歪んだ顔を今まで見たことが無い、こいつは本当に人間なのか…。魔族でもそんな顔したやつは見たことが無い…。ここまで、行くと神話に出てくる悪魔…じゃないか…。
「俺は、別に…魔族を切って食おうってわけじゃないんだ…。ただ…人と獣人…魔族と亜人族、エルフとドワーフ…そしてドラゴン…どの種族が1番面白いかを…知りたいだけなんだよ~。メルザード君は…見込みがある、有るよね…。――魔族の中でも面白い奴だなぁ…どうしようか。…このまま殺しても良いけど…それじゃぁ…つまんないよな…」
――こいつ…俺をいつでも殺せるみたいに…言いやがって。しかし…このままだとホントに殺される可能性があるな…仕方ねえ。
『グウオォォォオオオオ!!!!』
「何だ…いきなり叫びやがって……。面白くねえ奴だな…もういいや殺そ~」
いきなり根のしまりが強くなる
「グッゥ!!」
――全身に力を入れろ!!少しでいい、時間を稼げ!全身に力を入れ、根にひねりつぶされるのをギリギリで耐えろ!!
「これに対抗できるなんて…中々のパワーだな…。最初っから魔法を掛けてなければきつかったか…!!」
黒ローブは反応しやがった、後方から音もなく凄まじい速度で一直線に飛ぶその1矢に…。
紫電流をまといながら黒ローブの後頭部を貫通する。
貫通したにも拘らず、矢は勢いよく俺の体に巻き付いている根を焼き払う。
「よくやった!シモンズ!!」
先ほどの咆哮はとある魔族兵への信号だった。
――『グウオォォォオオオオ!!!!』
「!…メルザード…その方角か…」
シモンズは渾身の魔力を1矢に込める。
紫電流が暗く闇の深い森一帯を包み、1本の矢へと凝縮されていく。
魔力で作られた弓を、咆哮のした方向へ構え、1矢を放った!
メルザードとシモンズ間、距離にして約3㎞。
強風がやみ、遮るものが何もなくなったため、放たれた矢は一直線の軌跡を描きメルザードへ飛んで行く。
直視し、凝視していなければ、誰もその矢に気づくことは無いだろう。
矢の通った軌跡には空気を震わす紫電がチリチリと流れている…。
矢は完璧な位置を捉え、メルザードを救った。
「もう…油断はしねえ!!」
倒れ込む黒ローブに向い、大剣を薙ぎ払った。
黒ローブの頭部から足先まで真っ二つに切れると…その体は地面へと解けていく。
「く!!逃がすかよ!!」
大剣を覆う魔力が増大し、漆黒の大剣は2.5倍ほど巨大化した。
「オラァァァァ!!」
メルザードの振るった大剣は地面をえぐり取るように振り払い、地響きと共に大きな亀裂が生まれる。
森の木々が振動し、強風が吹いたと勘違いさせるほどの合唱を始める。
「クソ!」
しかし、黒ローブをやった手ごたえは無し…
「逃げられたか…」
先ほどまであった薄気味悪い気配が消えて無くなる。
「面倒な魔法を使いやがって…」
合唱が止みその場に戦争中とは思えないほどの沈黙が流れた。
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