Sランク冒険者:ケイジュ
「こいつらは魔法によって何らかの幻覚を見せられている。俺は、魔法を放っている本体を探す。お前らはこいつらに魔力を流せ、そうすれば魔法による幻覚は収まるはずだ!」
メルザードは他の魔族兵に自身の行った解除法を教えた。
「は!了解いたしました」
メルザードによって魔法が解除された魔族兵たちは、未だに魔法にかかっている魔族兵たちを取り押さえながら何とか魔法の解除を行っていく。
☆☆☆
「はぁ、はぁ、はぁ…何かがおかしい。どうなっているんだ」
ジャスは、魔族兵とは違うものと戦っていた。
「魔族!ぶっ殺す!」
「落ち着け!僕は仲間だ!」
「喋るな!!」
「ぐ!」
――明らかに様子がおかしい…何故皆は僕を魔族だと言って攻撃してくるんだ…。
「ウオォォォ!」
吹き荒れる天候の中、額に血管が浮き上がるほどの力を込めた剣を振りかざす兵士たち。
――く…やむおえない。
ジャスは、兵士たちのみぞおちを殴り、意識を失わせる。
触れることのできる、兵士にはジャスの魔力を流し込む。
「あれ…勇者様、どうしてここに」
――やはり…幻覚を見ているのか…これだけの広範囲しかも、1人1人…的確に幻覚を見せている。こんな芸当ができるのは…僕が知る中であいつしかいない。ケイジュ…お前はまた!
「ふ…あっちの方も、盛り上がってきたみたいだな…!」
黒い影が木の陰に隠れ、その見苦しい笑みを浮かべる…。
「フ!!」
黒い影の上空からいきなり現れた大剣が振りかざされる。
黒い影は大剣をギリギリの所で回避し、後方へ跳躍しながら移動する。
移動する際に音もなく、振動も感じさせない。
強風の影響もなく、ただの陰のように漂っていた。
大剣を振りかざされた位置は大木が倒れ、地面には巨大なクレーターが出現している。
「驚いたな…俺を見つけるなんて…。その大剣…その風貌から予想するに、魔族軍副長のメルザードとお見受けするが…違うか?」
黒い影は笑う…唯々笑う。
「お前のような人間に名乗る名は無い、さっさと死んでろ」
「そのような大剣、この森中では不便だろ…。どうせならもっと使いやすい小さな武器にしておくんだったな」
「問題ない、お前を殺すただそれだけだ。それに、この大剣は俺の中で最小サイズだ、悪かったなお前を殺しやすい武器を持ってきちまって」
「やってみなよ…。あ…それよりも…。もうすぐ、この『天候魔法』…効果が切れるけど、そっちの方は見に行かなくても良いの?もしかしたら大切なお仲間が大変な目に合ってるかもしれないのに…」
「何…。きさま…何かしたのか…」
メルザードは影の言っていることが気になり『天候魔法』が発動されている方向を向く。
すると、天に伸びる淡い光にほころびが生じていた。
チラチラと光が分散しているようにも見える。
「これだけ天候を変えているんだ…。魔族の膨大な魔力を使ったとしても、数十人で数分が限界だろ…。そろそろ魔力切れで死ぬか…だが、お前らの警戒していたリチアはもう戦場に出てくることは無いからな…。切れたところで問題は無いか」
黒い影は笑う…口角を上げながら、まるで魔族兵を馬鹿にしているように嘲笑う。
「お前が何かしたのか…」
「何かって何さ…?俺はただ、後ろから人に刺されたら面白いかなって思ったから…。魔族兵を数体、人族兵に見えるようにしただけさ…」
「べらべらと喋りやがって…。お前は俺を舐めてるのか…いや、舐めてるんだよな…。ワザと俺を怒らせるような発言しやがって…、そんなに死に急ぎたいなら、すぐさまあの世に送ってやる!」
次第に風、雨共に弱まっていく。
メルザードの体からは漆黒の魔力がにじみ出る…。
魔力は右手に持っている大剣に流れていき銀色に輝いていた大剣が赤黒く染まる。
「それは…だるいな…」
黒い影が初めて笑顔を失い、その場から動く。
「ふ!!」
大剣を薙ぎ払うと、そこら一帯の木々が小枝のように切り裂かれ、同時に吹き飛ばされていく。
「よく切れる大剣だな…魔法力で強化してるのか…。なら…こっちも面白いのもを見せてやるか…」
奴は黒いローブから木の枝を取り出し、近くの木に突き刺した。
「何をしている…」
「まぁ、待てよ。面白いものを見せてやるから…」
そう奴が言った瞬間。
地面から木の根が勢いよく這い出してきた。
空を埋め尽くすほどの根がメルザードの頭上へ集められている。
1本や2本ではない10本20本という数の太い根が一斉にメルザードを襲い始めた。
「面倒だな…」
自身の身長ほど有ろうかという大剣をメルザードは片手で持ち、襲い掛かる木の根を悠々と切り伏せていく。
しかし、いくら切り込もうが一向に攻撃してくる根の数が減らない…。
減るどころか、次第にメルザードを襲う根の数は増えていく。
四方八方を囲むように大木の根が出現し、上下左右からメルザードへと攻撃してくる。
「らちが明かねえな…」
大剣を振るうのをやめ、根の隙間を練って黒服のもとへと走り始める。
地面を強く蹴り、足の形に抉られた土が宙を舞う。
当たるか当たらないかの瀬戸際で何とか、根を回避しながら着々と黒ローブまでの距離を縮めていく。
「ほう…やるな…」
常人には一瞬に見えるその動きで、黒ローブとの間合いを詰める。
メルザードは大剣を黒ローブの左側から横腹に薙ぎ払う。
黒ローブの体は大剣を切り込んだ部分から綺麗に分かれ、上半身が地面に『ボトッ』と落ちた。
「何だこいつ…切った感覚が全くねえぞ」
あまりの呆気なさに戸惑いを感じ、あたりを見渡すが…そこには誰もいない。
黒ローブの男は地面に倒れたまま…。
「何だったんだこいつは…」
黒ローブの体を起こそうとした瞬間だった。
「グ…体が…動かない。どういうことだ…」
「やぁ、やっと起きたかい」
切ったはずの黒服はいつの間にか導体が繋がり、起き上がった。
「なぜだ…。体が動かない」
「そうか…君には見えていないんだね」
『パチン!』
黒ローブが指を鳴らすと、メルザードの四肢と胴体を8本の根が体の自由を奪うようにしっかりと巻き付いている。
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