Sランク冒険者:カインズ3
「今の位置は…なるほど、ここまで来ていたか…」
カインズはまたもや停止した。
停止した位置は一歩横に移動すれば、地面が没落し、谷となっている。
「また止まった…全く奴の…考えていることが…分からん…」
「1、2、3、4、5、…」
「何を数えている…」
「30…まぁ、そこそこ居ますね…これなら」
そう言ってカインズは2つ目の魔石を谷口へ投げ込む。
斜面を転がり落ちていき、丁度地面に着地した瞬間…爆発起こした。
爆発に巻き込まれ、数体の魔族が吹き飛ぶ。
しかし、魔族指揮官はその爆発を起こした張本人を見ており、多くの兵をカインズの方に回した。
「来ましたね…それじゃあ、逃げます!!」
カインズは来た道を全力で戻っていく。
弓を持っていた魔族はその行動を見て、不快に感じる…。
「逃げた…いや、逃げている…。今俺が追うべきではないな…雑魚にでも追わせれば、奴が何をしようとしているのかが…分かるだろう」
――矢はもう飛んでこない…諦めたのか…。いや、僕にそれほど危険を冒したくなかったのか。僕と同じタイプだな…厄介だ。ただ…今の僕は結構、冒険者らしい事をやってるよ。
カインズは少し前に魔石をセットした位置にまで戻ってきていた。
数10名ほどだった魔族兵がいつの間にか100名を超える魔族がカインズを追っていたのだ…。
――結構増えたな…なら、爆破しがいがあるってものさ。
カインズは最後の1個を投げ込んだ。
投げ込まれた魔石は、地面に着地しても爆発することなく淡い光を放っている。
魔石のすぐ隣には魔石を埋め込んだ木が並んでいる。
カインズは急いで魔石から離れ、タイミングを見計らい、起爆させた。
爆発が爆発を誘発し、威力も拡大する。
その振動は反対側にいるジャスでさえ感じることが出来た。
なぜ今このタイミングで使ったのか…カインズには明確な理由があった。
1つ目、魔族軍が右側に逃げられる可能性があると、考えていたが…この爆発を見て多くの魔族兵はまだ爆発する可能性がある中を通ってこようとはしないはずと考え、けん制目的で使用したこと。
2つ目、本命に設置した魔石のカモフラージュの為。
3つ目、自身の生存を知らせるため。
4つ目、戦闘不能になったリチアの代わりに爆発物を警戒しなければならないという魔族軍の意思を分散させるため。
このような点を踏まえ総合的に考えた結果。
罠を残しておくよりも、作動させ警戒させた方が短期決戦には、効果的だと判断したのだ。
カインズの仕掛けた魔石の爆発により、多くの魔族兵が森の肥料となった。
「なるほど…あのまま追っていたら…俺までバラバラになってた所だ…」
先ほどまでカインズを狙っていた魔族兵は、離れた木の上から爆発していく森を眺める。
「すみません…王様、ちょっと僕はここら辺で休ませてもらいます…『ドーム』」
カインズは地面から自身がギリギリ入れるほどの小さなドーム状のテントを比較的バレにくい位置に設置し、中に潜る。
――右翼側の爆発により、魔族は少なからず爆発を意識するようになったはずだ…。さっきからずっと足裏に魔力を流していたから、魔力がだいぶ減ってしまった。ちょっと魔力を回復させるために…少し休みますね…。
☆☆☆
先頭で未だ魔族兵と戦闘している王の先遣隊は悪天候により足止めを食らっていた。
――魔族の意識がそれておる…しかしこの強風と豪雨では攻めたくても攻められん。どうにかしてこの天候さえ元に戻れば…。
「王様!敵兵、徐々にこちらに接近しております!」
「少しずつ下がりながら、体制を整えよ!奴らとてこの状況下で上手く動けまい!」
「了解!」
☆☆☆
その頃、左翼側にいるメルザードは不可解な現象に見舞われていた。
「何だこいつ!どうなってる!すべて攻撃がすり抜けてるぞ!」
「そいつは本体じゃない!魔法だ、きっとどこかに本体がいるはず!」
魔族兵の前には、ゆらゆらとたたずむ黒い人影、魔族兵はそれを目掛けて様々な攻撃を繰り出す。
しかし…その人影が消えることは無く、次第に近づいて来る。
メルザードはその光景を見て何か不信感を覚えた。
「お前ら!何してる!そこには誰もいないぞ!ただの木陰だ!」
「メルザード様お下がりください!敵に囲まれております!!」
「何を言っている!どこにも敵などいない!」
――明らかに様子がおかしい、こいつらの眼には何かが見えているのか…それとも俺の方がおかしいのか…。
魔法の類を疑い、自身の拳に魔力を纏わせ顔を思いっきり殴り、魔法を解こうとする。
「やはり、俺には何も見えん、おい!こっちに来い!」
「は、はい!」
『ドガン!』
という大きな音が暴風雨の中でも響くほど強い力で、メルザードは魔族兵の顔面を思いっきり殴った。
「な…何をするんですか!!」
「どうだ、周りに敵はいるか?」
「え…敵ですか…そう言われれば、居なくなりました…」
――やはり…何者かに幻覚を見せられている。ここら一帯の魔族兵に幻覚を見せられている可能性があるな…しかし、これほどの数に幻覚を見せるなんてどんな奴だ…。
メルザードを遠くから観察する黒い影が森の中でたたずむ。
「あいつ…効きにくいタイプか…面白い。効きにくいなら効きにくいだけ、この後の戦いが楽しくなるからな…」
その人影は不気味に笑う。
「ウオォ!」
「魔族軍の敵!!!」
魔族兵がいきなりメルザードを襲い始めた。
「ふっ!」
襲ってくる魔族兵2人の頭を握ると、一気に魔力を流し込む。
「お前ら、何をしている」
「あ…あれ、メルザード様、我々は人族を襲っていたはずでは…」
そして次々に魔族兵はメルザードに襲い掛かっていく。
2体から4体…8体16体とメルザードを襲う魔族兵が増えていく。
――チッ!これじゃらちが明かねえ…こいつらに魔法を掛けている奴をぶ殺さねえと。
数十人の魔族兵をメルザードは自身の魔力で吹き飛ばす。
吹き飛んだ多くの魔族兵は木々に衝突し皆意識を失ってしまった。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます!
もし少しでも、面白い、続きが読みたいと思って頂けましたら、差支えなければブックマークや高評価、いいねを頂ければ幸いです。
毎日更新できるように頑張っていきます。
よろしければ、他の作品も読んでいただけると嬉しいです。
これからもどうぞよろしくお願いします。




