Sランク冒険者:カインズ
弧を放した瞬間、魔力で出来た紫電色の矢はリチアの心臓目掛けて放たれる。
矢が放つ光は一直線となりリチアの心臓へ軌跡を描き、空気中に電流が流れ、矢が通った後を表すかのように空中を彩る。
「ん…肌が痺れ…」
リチアは目線を後ろにやると…意識が追い付く間もなく左翼を貫通していく攻撃が視界に移るとともに、焼けつくような痛みが体を襲った…
「今度は右翼を…体が、痺れて…」
右翼は黒く焼け焦げ、黒煙が発生している。
「――やっぱり心臓はやめにするよ…、簡単に殺したら…、一瞬で終わらせてしまったら…同胞の苦しみを…味合わせてやれなくなるだろ…だから、殺さないよ…」
矢を持った魔族は森の闇に身を潜め…その姿を消した。
――まさか…狙われてた。あれだけの距離があったのに。しかもこの感じ、わざと左翼を狙ったわね。『お前はいつでも殺せる」と言っているみたいに…
そんなことを考えていたが…体は動かない。
動かない体は重力に逆らうことが出来ず、華奢なリチアであっても速度を上げながら垂直に落下していく。
「クッ!さっきの攻撃で…体が…動かない…」
リチアは静かに目を閉じる。
―ああ…私もここまでか。
そう思った時リチアの体は浮いた。
閉じていた瞼を静かに開けると、そこには灰色の髪と傷を負った耳、黒い瞳を持つ獣人の姿だった。
「だ…誰…」
「大丈夫だったすか?リチアさん」
「あなた…アランさんの近くに居た」
「はい、ショウっす。アランさんにリチアさんを助けてこいと言われたんっす」
「そう…アランさんが」
「リチアさんを今から安全なところまで運ぶっす、全速力で行くんでちょっと我慢しといてくださいっす!」
リチアを抱き、地面へと着地する。
強靭な足のばねを使い衝撃を殺すと、そのままの勢いで走り始める。
ショウの走るスピードはリチアが空中を飛んでいる速度と同じ又はそれ以上の速度で走ることが出来る。
障害物がある場合は避けるためにスピードを落とす必要があるが、それでも通常の速度ではない。
リチアはすぐ、後方の医療班のもとへと運ばれた。
「それじゃあ、俺はまだやらなきゃいけないことがあるんで」
そう言い残し、ショウは来た道を同じ速さで戻っていく。
リチアが見上げる空は先ほど日が上ってきたにもかかわらず、既に快晴の空ではなくどす黒く澱んだ空になっていた。
「王様…すみません。後をよろしくお願いします」
医療班に運ばれたもののリチアは意識を失った。
「ショウ!リチアを運び終えたか?」
「はい!ギリギリ間に合いました」
「そうか…1番早いお前を行かせたのは正解だったな。しかし…これほど天候を変えてしまうとは…」
『天候操作魔法』が発動し、その場一帯が強風轟雷大雨を発生させており足で地面の上に立つ事さえ難しい。
「こうなっては…普通の飛び道具も爆発物も使用できん。並みの魔法さえ相殺されるだろう。しかし、条件は魔族軍とて同じことだ!」
――こうなってしまっては、気合いと体力だけが勝負になる、気合いと体力だけならば獣人族に敵う者はいない。
「良し!皆、この状況だからこそ多くの命を救う時だ、我々は救出を継続する。心して係れ!」
「は!」
――ジャス君…君が頼りだ。
数刻前。
人族軍右翼にてカインズ達がいる森の中に動きがあった。
――何で僕がこんな目に合わなければならないんだ…て、そんなこと言っても仕方ないじゃないか。
今できることは僕が出来るだけ引き付けること。
その間に誰かがやってくれるだろう。
「オラァ!ちょこまかと逃げ回ってたって俺達をやれないぞ!」
魔族軍の兵士が剣を持ち接近してくる。
「別に逃げてるわけじゃないんだ。…頼むからくたばってくれ」
カインズは1つの魔石を魔族兵の足もとへと投げ込む。
「何だこれは…」
魔石は光を放ち輝いている…そう思ったのもつかの間、魔石に亀裂が入り爆発が起こる。
魔族兵はあっけなく木っ端みじんに吹き飛んだ。
「君だけのために、仕掛けた罠をすべて発動させるにはいかないんだ…」
――それにしても…こちら側に来る魔族が増えてきたな。でも、ここを通すわけにはいかない。
次から次に魔族兵がカインズのいる右翼側の森に流れ込んでくる。
既に50体の魔族が侵入してきており、カインズは引くに引けなくなってしまった。
――ここを通したら、すぐ挟まれて戦争が終わってしまう。それだけは防がないと。でも守ってるだけじゃダメなんだよな…。
そう、守っているだけでは人族の勝利は難しい。
今回の作戦は王率いる先発部隊、を囮として左翼、右翼の2つの部隊が魔族軍の行動を抑制し、敵の行える選択を減らさせることが重要なのである。
万が一、3つの部隊どれか1つにでも問題が起きた場合、作戦は失敗に終わる可能性が高い。
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