夜明けの光
この時…人族軍右翼側に居たカインズは違和感を覚えていた。
「戦争しているにも拘らず、これほどまでに静かなのか…逆に不気味だな」
カインズは既に魔族軍が停滞して居ると踏んでいた箇所まで移動していたのだが、一切魔族軍の形跡がえられなかったのだ。
「いや…それにしても魔族軍に全く合わないのはおかしくないか…。まぁ僕はあまりで会いたくないんだけど」
同じようにジャスも以前とは違う違和感を覚えていた。
――なんだか異様な圧力を感じる…魔族軍は動いていないはずなのに…。どうしてだ、獣人たちとはまた違う…上手く説明できないけど、何か凄く嫌な圧力だ…。
ケイジュは不気味な笑みを浮かべる。
それを見上げるようにして、1体の魔族兵がこと切れた。
「やはり…おかしい。いや…面白い。他の魔族兵がいないのであれば…別に魔族達で遊ぶ必要もないか…明日が楽しみだな…ジャス…」
ケイジュの周りには数10体の魔族兵が無残な姿になり倒れている…。
焼かれ、吊られ、切られ、潰され、捩じられ、…あらゆる方法でケイジュは魔族兵と遊んだ。
「た…頼む、俺だけは…助けてくれ…」
「ああ、いいぞ…」
「ほ、本当か、俺はまた家族に会えるのか…」
「ああ、あわせてやる…。お前が面白い鳴き声でも聞かせてくれたらな…」
「え……」
ケイジュは命乞いする魔族1体の頭部を足で踏みつぶし…笑みを浮かべる。
「あ…間違えた…頭潰しちゃったら鳴けないや…面白くないな…」
魔族の潰れた頭部は地面に叩きつけたトマトの如く飛散し、靴、服全てに黒い鮮血が滴る。
ケイジュはそのまま空を見上げ、何かを思いついたように口角を吊り上げた。
星が燦燦と煌めき、夜の空を彩っている…その光を見つめるケイジュの瞳には星など微塵も映っていなかった。
ケイジュの服は黒く…魔族の血が目立つことは無いが彼自身の顔には既に大量の血が付着しており…瞳の黒さと相まり、全てを呑み込む森の闇に消えた。
「リチア様!どうかお願いします!王の命令に従ってください!」
兵士がリチアに王の作戦を伝える。
「私…人族を信じられないんだよね…貴方だって私のこと嫌いでしょ」
「決してそんなことは…」
「まぁ、でも仕方ないよね。人族と獣人族はそれほど仲が良くないし…」
リチアは上空に飛んで行く。
「リチア様!よろしくお願いします!」
この時の兵は何を言われたとしてもリチアにお願いするしかなかった。
「あんた達に言われなくても私は元々、協力するつもりだったし…」
リチアは前線に戻りアランの話を思い出す。
「良いかリチア、お前は陽動だ。魔族軍に顔が知られているのはお前と勇者の2人。そして今最も警戒されているのは、前線を崩壊させたリチア、お前だ!警戒しているのであればそこを突き、敵を欺く。お前は無理して突っ込むのではなく、ギリギリ魔族から見える範囲で行動するんだ。そうすれば、魔族の意識が少なからずお前に向かうはずだ。そうすれば突破口が開けるチャンスは十分ある。良いかリチア、決して魔族軍に近づいてはダメだ。分かったか」
――あんなに言わなくても分かってますよ…ただ上空を飛んでればいいんでしょ。それくらいなんてことないのに…まだ私の事を子ども扱いしているのかしら。
大地の裂け目から、全てを告げるべく明るく眩しい光が森…空…大地を照らし始める。
現地点は後方に退避した為王国付近である…。
前線よりもだいぶ後ろの方に位置していた。
王の作戦はこうだ…。
比較的多くの兵たちを動かすことによって、魔族軍に何か仕掛けてくると思わせる。
前線を突破し意表を突く、この際運よく敵の大将の首を取れるならばそれに越したことは無いが…王はそれほど甘い物ではないと心得ている。
この作戦…王は言わば魔族軍の囮役、王自ら囮になる事で敵を欺くという決死の作戦なのだ。
王は初め、たった1人でも行くつもりであった。
このような危険な作戦、王は他の兵にやらせたくなかったのである。
しかし、兵たちは王の言葉を無視し、兵自ら王の作戦に参加している。
誰1人として、王の命令でこの場に立っているわけではない。
今現在…兵士の心に灯るのは国を…そして家族を守りたいという思い。
そして今まで散っていった仲間に対する誇り。
最も大きかったのは己を己たら占める兵士自ら王に使えたいという忠誠心の気持ちである。
兵士たちは逃げ出そうと思えば、容易に逃げ出すことが出来た。
王は、たとえ兵士が逃げ出してたとしても、何も言うつもりはなかったのだ。
昨日まで退避して居た地点は、王国に近くそのまま他の国に逃げることさえ不可能ではない。
自分の命が大事ならば、そうするべきだ、逃げるべきなのだ、だが…
「我々は逃げません!人族の兵士たるもの最後まで戦い抜きます!将来…人族の子供たちがこの戦いを学ぶとき、逃げ出した兵士がいるなんて教えられてしまったら…それこそ我が人生一生の恥になります!」
1人の兵士がそう答えた。
「我々も同じ考えです。王様、我々もお供いたします」
そこに居る騎馬兵たちが軒並み揃ってそう口にする。
王はその時…皆の顔を見た。
この時…王は決死の覚悟で向かう戦士たちの顔を見たのだ。
真夜中…すべてが闇に飲まれる時間であったにも拘らず、その目に映る光は王にとって希望の光だったのだ。
――目に光など灯らぬであろうこの状況で、兵士たちは目を輝かせている…。何故だ…
王はそれが分からないわけではなかった。
ただ、この状況に陥らせてしまった自分のことが許せないのだ。
「良いか!決死の覚悟をお主たち戦士に問う!我の答えはただ1つ!魔族軍を撃ち滅ぼし!決意の証明を果たすのだ!」
王は派手に装飾された馬に乗り、輝く剣を引き抜く。
「皆の者!儂が先頭を走る、その後ろについてくるのだ!逃げることは許されぬ、己の決意を証明するため、最後の力を振り絞り決死の覚悟で挑もうぞ!」
「ウオオオオオオオオ!!」
王を乗せた馬が走り出す。
王に続いて数基の騎馬兵たちも王の後を走る。
騎馬兵に続き、数100の歩兵たちが続く。
朝の光…そして希望の光達と共に王は進行を開始した。
「ブロード様!人族の軍が侵攻を始めました!」
「そうか…やはり長期戦を嫌ってきたな。どれほどの数がいる」
「は!騎馬が10騎ほど、歩兵が200から300だと想定されます!」
「少ないな…何を考えている。その数で乗り込んでくるということは自殺行為に等しい…。何か裏があるはずだ…」
ブロードは慎重になっていた。
リチアの件があり安直な判断をしないよう、最悪の想定を考え答えを導き出す。
「万が一この突進攻撃が囮だとするのならば…そうか…。皆!戦闘態勢に入れ!そして『天候操作魔法』を発動せよ!」
ブロードの考えが頭でまとまった、最悪の結末それは自分自身が死に魔族軍が負けること…。
この状況下からどのようにしたら自身が打ち取られるかを考えた際、自身よりも強い敵が攻めてくること…。
それが勇逸魔族軍が負ける原因になると予想したのだ。
自身より強いであろう敵…それは『Sランク冒険者達』ブロードは、二度と人族を甘く見たりなどしない。
全身全霊の力を持って潰しにかかることにしたのだ。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます!
もし少しでも、面白い、続きが読みたいと思って頂けましたら、差支えなければブックマークや高評価、いいねを頂ければ幸いです。
毎日更新できるように頑張っていきます。
よろしければ、他の作品も読んでいただけると嬉しいです。
これからもどうぞよろしくお願いします。




