停滞の夜。
「やはり…リチア・ストレに対してはこちらの、『天候操作魔法』が有効かと…」
魔族兵が提案した『天候操作魔法』その名の通り、天候を操ることが可能な魔法である。
「しかし…あまりにも多くの兵をそちらに回し過ぎるのは‥‥」
「我々にやらせてください!」
「!!」
そう言うのは、前線に出動していった第一魔法部隊、第二魔法部隊に次ぐ、第三魔法部隊の魔族兵だった。
第三魔法部隊は後方で待機という命令が出ていた為、前線の戦いに参加できなかった魔族兵たちだ。
先に死んでいった第一第二魔法部隊の同胞経ちの無念を晴らしたいのであろう。
「我々が何としてでも、『天候操作魔法』を使用してみせます。あいつを倒せるならば…我々は全ての魔力を使ってでも、かならず成功させて見せます!」
魔力をすべて使い切るという行為は魔族にとって死を意味する言葉と同じだった。
「何を言っている…ともらい合戦のつもりか?いいか、私はお前に命令する。決して死ぬな、それが守れるのであれば私はお前に託そう」
――魔族とて同胞の命を無駄にするほど廃れていない。一部の魔族を除けば、だが…。
「は…はい!必ずや成功させて見せます。それに絶対に死にません!」
その魔族兵は決意を込めた言葉を言い残し、退出していった。
「よし…では皆、配置に戻ってくれ。それぞれの力を最大限発揮してもらう」
「は!」×魔族兵、指揮官、管理者
ブロードは作戦会議を終え、それぞれの魔族兵に作戦を伝えに回った。
ただの魔族兵が伝達を行えばいいのだが、ブロードは自身で説明することを選び、各箇所に魔馬を走らせる。
簡単に魔族の作戦を説明するのであれば、持久戦であった。
人族の体力がなくなるまで粘り続けるというのがブロードたちの出した結論である。
「さぁ人族よ、そちらはどう出る…」
「王様!報告します!Sランク冒険者リチア・ストレ様によって、前線の魔族兵数万が壊滅。前線を押し上げた模様でございます!」
今回の戦争で人族初の白星で合った。
「誠か!良し…いい調子だ、さすがSランク冒険者と言ったところか…」
「しかし、未だに魔族軍の本陣は無傷にございます。魔族軍は前線を撤退し、後方付近に停滞しているとのこと」
「なるほど…罠じゃな。攻め入れば包囲され負ける。しかし、このまま持久戦に持ち込まれても我が兵たちの体力が削られていき、敵を打ち滅ぼすことが出来んだろう。何とかしてSランク冒険者たちに伝えてくれ…」
王は兵士に用件を伝えると、勇逸連絡が付くジャスにのみ、王自ら連絡を試みる。
「ジャスよ、聞こえるか!」
伝達魔法の効果により、特定の人物と一定時間通話できる。
ジャスは、連絡を受け取り王の問いに答える。
「はい!王様聞こえます!」
「今からの作戦を伝える。良いか」
「はい、分かりました。その作戦とは何なのでしょう?」
「うむ、では伝えるぞ。もし他のSランク冒険者に合うことがあったらお主からも伝えてくれ、作戦はこうだ…」
王はジャスに作戦のほどを伝える。
「いや…その作戦では王様が危険です!僕が敵陣に突っ込んだほうが確実なのでは?」
「それでは敵軍を欺くことが出来ん、何より先日と同じ方法では敵に致命傷を与えることは不可能であろう」
「いや…しかし…」
「人族の王は別に儂意外にでも務まる。今最も危険なのは国民、そして戦っている兵なのだ。儂は国民を守る義務がある。その為に死ぬのなら本坊…」
その声質から、王が覚悟を決めていることをジャスは肌で感じ取った。
「分かりました…王様がそこまで言うのでしたら、僕はその作戦に従います。でも、消して王様を死なせたりなんてしません。僕が守り通して見せます。僕は殺すことは苦手ですが、守ることは得意なので」
「そうか、では頼んだぞ…作戦の開始は明日、早朝に仕掛ける」
「了解しました。他の兵たちにも伝えておきます」
「ああ、よろしく頼む」
その声を最後に王の声が聞こえなくなった。
「王様…王様がその気なら僕は王様の意志を汲み取るまで、何があっても作戦を成功させなくては…」
そしてその作戦は運よく、ジャスを含めるSランク冒険者4人全員に伝えられたのである。
「王様がそんなことを!いや…でも、僕にそんなことできるのな…」
カインズはこの時、前線を迂回しながら魔族軍を包囲する形で罠を仕掛けていた。
「フーン…なるほどね」
ケイジュはカインズと全く反対側の森に待機していた。
カインズは魔族軍側から見て左側方向、ケイジュは魔族軍側から見て右側方向、リチアはアランと離れ、兵から作戦を聞いた後即座に上空へ、王とジャスは魔族から見て正面、前線を挟んだ位置に滞在している。
嬉しい誤算として、魔族軍はSランク冒険者達によって後方以外、すべての方向を包囲されていたのだ。
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