魔族軍の作戦会議
「よし!後方に戻るぞ、前線に居た獣人族、人族をもとの前線に戻させろ。ただし、あの黒い羽には決して触れるな。あの黒い羽を次の前線の目印とする」
「は!」
☆☆☆☆
「前線はどうなっている…全く連絡がないが」
「は!ブロード総司令…言いにくいのですが…壊滅したそうです…」
ブロードはその場に立ち上がり、訳が分からないといった表情だ。
「壊滅だと…バカな!魔法部隊をも出陣させたのだぞ!いったい誰にやられた、勇者か!」
「いえ…報告によれば…Sランク冒険者『リチア・ストレ』だと思われます…」
「リチア・ストレ…そうか…。人族の王は冒険者を使用してきたのか…。私の見立てが甘かったのだな…すまない同志たちよ…」
ブロードは負の懸念に押しつぶされそうになるも、そんな暇な時間など自分には無い事を言い聞かせ感情を一瞬で冷静に戻す。
「同志たちの戦いは決して無駄にはせん…。指揮官を集めろ、再度作戦会議だ」
冷徹さの織り交ざった声で魔族兵に伝える。
「は!」
――Sランク冒険者が出てくるとは…。人族の王もそれだけ追い詰められているということ…。
ブロードは試料を無造作に探し、1通の資料を発見する。
そこには元総司令であるザハードが既に調べていたSランク冒険者の名前などが書かれていた。
――この資料によれば…Sランク冒険者は5人…ジャス、リチア・ストレ、リーン・フィーア、カインズ、ケイジュ…の5人、ジャスは勇者の名であったな。ならば…実質Sランク冒険者は4人。リチア・ストレがこれほどの力を持っているとするならば、他の3名も同等の力を持っていると思って間違いないだろう…。勇者の力は我々もよく知っている。これだけの資料だけでは情報が少なすぎる…。
「調べろ!今すぐ!生い立ちから今までの経緯まですべて調べ上げるのだ。奴らの能力、得意分野、苦手分野、何でも構わん。とりあえず奴らの情報が欲しい」
ブロードは魔族兵に指示する。
「は!」
そして、魔族軍現在の指揮官、管理者が揃った。
「おい、ブロード!今頃になって何故作戦会議などするのだ!そのまま叩き潰せばよいだろう!」
魔族指揮官がブロードに噛みつく。
「いや、そう簡単にいかなくなってしまった。1人の敵により、軍の20%弱が戦死した…しかも、そいつはまだ生きている。万が一何も対策せず、攻撃に出れば軍の損害は膨大なものになってしまうだろう」
「ウム…」
戦死した魔族の数に驚いたのかその指揮官は黙り込んでしまった。
「ブロード、そいつらの情報はねえのかよ、Sランク冒険者なんだろ?そんなのすぐ情報が見つかるだろ。情報がねえと何も言えねえ、勇者の時みたく博打に出るしかなくなるぞ」
「ああ、分かっている。今調べさせているところだ。もうじき情報が上がってくるだろう今は待つしかあるまい。その間にできることを考えねば…」
「ブロード、今更だがこの戦いに勝つにはどうすればいいんだ…」
先ほどとは違う指揮官がブロードに問いかける。
「それは簡単だ、人族の王を手に入れればこちらの勝ち、それ自体は何ら難しくないだろう。しかし、問題なのは王を守っている奴らの存在だ。勇者…こいつの力はこんなものではない。明らかに手を抜いている…または、全く力を使用していない。例えメルザードだとしても、本気を出した勇者になら一瞬で敗れるだろう。それは1番自分が分かっているだろう、メルザード」
「フン…知るかよそんなの、俺は何事にも本気でやりてえんだよ。本気を出さねえっているスタイルは気に食わねえ。だが、全力を出してやられたんなら悔いはねえ、その時は呪い殺してやるがな…」
「ブロード総司令、援軍を待ちましょう。奴らにこれ以上の援軍は見込めません、援軍が到着次第、総攻撃によって数の力で押し切るのが得策かと」
「確かにそれも考えた…しかし、Sランク冒険者が参戦しているということは、それ以下のランクの者たちも参加している可能性が高い。冒険者というものは侮ることが出来んのでな…」
その時、魔族兵が試料を持って現れた。
「ブロード司令!情報が届きました」
「よし!見せてみろ」
「は!」
ブロードはそれぞれの冒険者資料をむさぼり読む。
[リーン・フィーア]
…エルフ族、年齢不明、性別女、ゲリラ戦を特異とし、森の中でならば敵う者はいない。主に使用する武器は弓で在りその腕前はかなりのもの。魔法も得意としており、エルフ族随一の魔力を誇る。
弱点:不明。
ブロードは次の試料に手を伸ばす
[ジャス]
…人族、年齢20前後、性別男、人族の勇者である。歴代の勇者と比べると、その力は群を抜いているという。しかし、感情に左右されやすい傾向にあり。以前の戦いでは多くの魔族兵を惨殺するも、浮かない表情を浮かべる一面もある。使用する武器は主に剣であり、全てを切り裂く。スキル勇者を使用する際は何処かが光り輝くという特徴有。弱点:容易く生き物を切ることを拒む傾向在り。命乞いをすれば見逃される可能性あり。
[ケイジュ]
全てが不明
[リチア・ストレ]
獣人国鳥人族、年齢21、性別女、華奢なその体からは想像もできないほどのパワーを誇る。背中の羽で飛行可能。武器の使用に長け、どのような武器であっても使用が可能である。獣人族では珍しく魔力を持ち、元の身体能力に魔力が加わり生き物の域を超えている。弱点:不明
[カインズ]
人族、年齢18、性別男。冒険者になった年齢が最年少記録として登録されており、通常は10歳からである冒険者登録を5歳で済ませている。戦闘方法は不明。依頼の達成率は99%である。弱点:不明
「なるほど…厄介な相手だ…しかもこの場にいるとも分からない敵に警戒しなければならないのか…」
「勇者だけは俺にやらせろ…それだけは譲れん」
「分かった…勇者はお前に任せる…。ただ、失敗はできんぞメルザード」
「分かってるよ…俺が勇者をぶっ殺せばいいんだろ!」
メルザードはその場から立ち上がり、その場から離れていく。
「よろしいのですか、ブロード総司令、メルザードさまが行ってしまわれましたが…」
「構わん…逆にアイツに頭を使わせる方が間違っているのだ、奴は本能に従っている。力に身を任せることが出来るのが奴の特徴だ…何かしてくれるだろう、しかしそれに甘んじることもできない。勇者の対策は万全を期さねばならん」
その後も…作戦会議は続いた…。
たどり着いた結論は、援軍を待ち…敵が攻めてきた場合は距離を取る…というのが大まかな作戦である。
「前線を押し上げず、待機させ情報を待つ」
人族の援軍の数、Sランク冒険者の数今のところ判明しているのが勇者とリチアのみ、残りの3人がいるのであれば、それに対しての作戦を立て、実行することになった。
リチアの対策として、上空からの攻撃を避けるため、遠距離魔法が得意な兵を集め、けん制する作戦を提示し、上空からではなく地上から攻めてきたところを一斉に倒す…。
などと言った作戦が考えられたが、どれもリチア1人に対しての作戦であるため、実際はそう上手くいかないことは分かっていた。
ブロード自身が前線に赴き、戦闘に参戦することも考慮されたが、危険が高すぎると反対意見が多く上がり、却下された。
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