Sランク冒険者:リチア・ストレ
「どうしたことか…。まさかこれほど話も聞いてもらえないとは…」
「王様、彼らとて王国のSランク冒険者です。簡単にやられる者達でもありません。ケイジュは僕が監視し、他の者も何か不審なことがあればすぐにでも拘束します」
「そうか…しかし、ジャス…お主の言うそれは、甘い物ではないぞ。この戦いは人族の未来がかかっておるのだ」
「はい、たとえ…最後の1人になっても僕は抗いますよ…」
――そうだ…戦ってみせる、そして勝ってみせる、この逆境から人族を守る1人の兵士として。
「ジャスよ…中々にいい面になったの…」
王はジャスの肩を一度軽く叩いた。
「よろしく頼む、儂らそして国民を守ってくれ。情けない王、最後の頼みだ」
王は一歩下がり自らジャスに深々と頭を下げた。
「僕は…勇者として自分にできることを精一杯やるだけです。たとえ僕の信念を曲げてでも、戦いますよ大切な人を守るためなら。僕は…いえ、たとえ僕が負けても皆でこの戦争に勝ちましょう!」
僕は最後の最後…自分を犠牲にしてでも戦うことを決めた。――決めたはずだ。
その頃、基地を離れたリチアは、自身の背中に生えた大きな翼を広げ、空中から戦況を窺っていた。
「なるほど…人族が結構押されてるのね。でもこの感じ、人族以外にもいるわね…」
リチアはすぐに気が付いた、前線を維持しているのは人族の力だけではないことに。
そう思っていた矢先、遠吠えが聞こえたのだ。
「この音…なぁるほど、そういう事。それじゃあ私は、このまま人族の助けをすればいいってことなのね、アランさん!」
リチアは自身の持っている魔法の袋から、眼に見えないほど細い、糸?を取り出した。
「大量にいる相手には…これが一番効率が良いのよね…」
その整った顔とは裏腹に不気味な笑みを浮かべ、前線付近に降下する。
数刻前。
「父様、たった今、リチアさんが王都から到着したと報告がありました」
「なるほど…。人族の王よそう来たか…しかし予想もできたことだ。皆!今、所持している必要のない武器を前線付近に突き刺せ!そして出来るだけその場から離れろ。アイツは戦うとき、誰の声も聞こえなくなるからな。いいかリチアの戦っている中に決して割り込むな、殺されるぞ!!」
アランがそう言うと、前線で戦っていた獣人たちは軒並み武器を地面に突き刺し、戦っている兵士たちを抱えるとその場から退散し、後方まで引きさがった。
もちろん、兵士たちは訳が分からず、怒鳴っていたが獣人のパワーには勝てないのでそのまま連れていかれるしかなかった。
準備が出来たことを遠吠えをして、リチアに伝えたのだ。
「お…さすがアランさん!さすがに仕事が早いですね。もう、暴れまわってもいいようになってる…では獣人国鶏族、『リチア・ストレ』いざ尋常に…」
そう言うと、そのまま羽をたたみ、真下に垂直落下する。
とんでもない速さで落ちて行く。
その姿は一本の雷を思い浮かべてもらえれば分かるだろう、眼にもとまらぬ速さで急速に落ち、地面から数㎝というところで翼を再度広げ、手に持っている細い糸を伸ばす。
リチアが頭上を飛び去った魔族兵達は何か高速なものが通るのを見たが、それ以降の思考が出来ず、不思議に思っていると自分自身の体が動かないことを早急に理解する。
そして次第に視界が落ちて行く、見えるのは自分の体と、すぐ近くにいた魔族の仲間の頭…意識が薄れていく中最後に何が起こったのかを理解することはできなかった。
リチアの持っている糸は後方で数mに広がり、リチアが飛び去る軌跡にいた魔族の首は跳ね飛ばされていった。
「へ~、魔族の体もこんな簡単に切れちゃうのね…さすがドワーフの作った糸、ここら一帯の魔族は大体倒せたかしら…」
「第一魔法部隊!高速飛行物体目掛けて!放て!」
前線に魔族軍の魔法部隊が到着した。
「!」
リチアは、いったん上空に急上昇し魔法部隊の攻撃を回避する。
「へ~、魔族の中にも判断が速い奴がいるのね…頭でっかちばっかりだと思ってたわ、少しは楽しめそうね」
「ブロード様!前線に高速で飛行する、者が合わられました。前線で戦っている者たちが軒並み切り裂かれております!」
「飛行するもの…なるほど、それならば魔法部隊を向かわせろ、魔法で攻撃し出来るだけ魔族兵に近づけさせないようにするのだ!」
「は!」
「第二魔法部隊、続けて放て!」
魔法部隊の発動する魔法陣が地上を埋め尽くす。
その光景を遥か上空からリチアは確認した。
「遠距離で攻められるとやっぱり面倒ね…この糸ももう簡単には使わせてくれないでしょうし…あんなにいっぱい、いろんな武器が地面に突き刺さっているんだから使わせてもらいましょうかね…」
リチアは地上に舞い戻りる。
先ほどのように雷が落ちたと思わせるほどのスピードは無く、鳥の翼から離れおちた羽の如く、ふわふわと静かに舞降りて行った。
その間にも魔法部隊の攻撃がリチアに向けて放たれている。
リチアの周りに魔法によって大量のクレーターができているにも拘らず、落ちついた様子で地面を歩く。
その歩き姿は何処か気品を感じる歩き方で、遠くから見れば彼女が冒険者だという事は誰も分かるまい。
リチアは、地面に刺さっている大量の剣をとりあえず2本抜き抜き、両手に1本ずつ持つ。
適当に手に取った剣は長さも大きさもバラバラ…。
1本は長剣、もう1本はリチアの胴よりも太い大剣を手にしていた。
華奢なリチアでは、到底扱うことが不可能に見える。
「こんなにいっぱいあるんだから…壊れても誰のか分からないわよね…」
そう小さく呟くと、リチアは剣を魔法部隊に向けて、投げる!
両手に持っていた剣を投げ終えると再度、地面に突き刺さっている剣を抜き取り、また投げる。
投げる!投げる!投げる!投げる!
投げているのは人間ではなく獣人であるリチアだ、華奢なその体からは想像もできないようなパワーで投げられた、剣の威力は攻撃魔法と刺し違わない威力をほこる。
投げ込んだ方向に数多くの土煙が舞い、投げ込んだ数だけ悲鳴が聞こえた。
あたり一帯の武器をすべて投げ終えたリチアは、敵の混乱している意表を突き、一気に前線を駆け抜ける。
飛んだ方が速いと思われるだろうか…リチアは足も速い。
飛ぶのと変わらない速度で、魔法部隊に単身突撃する。
魔族兵は吹き飛ばされ、何が起こったかいまだに理解できないでいた。
そこにいる白い翼をはためかせた何かがいることだけを理解し、理解した瞬間には全身の感覚が無くなっていた。
既に魔族兵はリチアの持っているボロボロの剣で頭を吹き飛ばされていたのだ。
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