挑戦
僕は『二アータウン』の中心部である『二アーギルド』の前に到着した。
「たった一年でこんなに大きな建物ができるなんて」
僕の目の前には派手ではないが、レンガ造りの建物が出来ていた。
パッと見ただけで冒険者ギルドだとわかるように、盾や剣、魔法杖などをもとにして書かれたであろう看板が入口の上に張り付けられ、大きな文字で『ニアーギルド』と書かれている。
街に入った時にも驚いたが、ほんとに一年前まで何もない草原だったのにここまで多くの建物が出来るなんて想像もしていなかった。
僕は躊躇することなく扉を開け、中に入った。
冒険者達が数十人、何人かがこちらを見ている、物珍しいものを見るような目をしている。
彼らの格好はバラバラで、凄く高そうな銀色に輝く鎧を着こんでいる人や、皮服で統一され、いかにも冒険者になり立てのような人もいる。
ギルドに入った時よりも視線を感じる気がする。
そんなに、僕のことが珍しいのかな。
僕は、気にすることなく受付のほうまで歩いて行き、受付の女性に話しかけた。
「すみません、冒険者登録をしたいのですけど」
受付係は、驚いたように聞き直してきた。
「冒険者登録ですか? 失礼ですが、年齢はいくつですか?」
まあ、驚くのも無理はないか。僕が受付をしていたら、同じように年齢を聞き返す。
「はい、冒険者登録です。年齢は一〇歳です」
人族の国で、一〇歳で働くこと自体は珍しくないのだが、冒険者は話が別である。
なぜならば「安全が保障されていないから」というのが一番の理由だろう。
その為、子どもからではなく大人になってから冒険者になる人が多いのだ。
「確かに、冒険者登録は一〇歳から受け付けていますが、実際に一〇歳から冒険者になろうとする人を初めて拝見したもので、申し訳ございません」
――そんなに珍しいんだ。まあ、一〇歳ならもっと遊んでいたいもんな。でも、僕に遊んでいい時間なんて微塵もない。
「大丈夫ですよ、自分でも危ないのはわかっていますから」
「わかりました、それではこの板に手を置いてください」
受付の女性は木版の上に円形の文様が書かれた品を出す。
「それは何ですか?」
「この板は魔道具です、この板の上に手を置くことで名前と年齢、ランクが表示され、自動的にギルドカードに記入されます。冒険者ランクを上げる行為は成人してからでなければできません。ご了承ください」
なるほど、そうやって子供の安全をできるだけ守っているのか。
「わかりました」
手を置こうとしたとき「いっ、」たまに来る頭痛が起こったが、気にすることなく魔道具の上に手を置いた。
「ありがとうございました。こちらが出来上がったギルドカードになります」
『名前:ヘイへ、年齢:一〇歳、ランク:F』
まあ、最初はFランクですよね。
「ありがとうございます」
「あちらに、それぞれのランクに合わせた、依頼がございます。気になったものがあれば、こちらにお持ちください」
「わかりました」
僕は、受付にお辞儀をして依頼の紙が張ってあるほうに歩いていく。
「今の僕の冒険者ランクがFランクだから、Fランクの依頼を受けられるんだよな」
依頼にはFからSまでランク付けされており、最も難しい依頼はSランクとなっている。
「Fランクの依頼は……と」
『Fランク』
[店前のどぶ掃除、買い物の荷物持ち、子供の遊び相手]などの雑用ばかりで料金が一日銅貨一〇枚というのが平均的な報酬だった。
「Fランクの報酬は、子供が働くには大分いい報酬だと思うけど僕は時間がない、できるだけ効率がいい仕事をしたいんだけどな」
毎日働いて、全て貯金していけば何とか四年で金貨一〇〇枚溜められるかな。しかし、働くとはそれほど甘いものではなかった。
☆☆☆☆
一ヶ月後。
「すみません、こんな感じでどうでしょうか」
僕は商品を陳列した棚をこの店の店主に見せる。
「ああ、いいんじゃないか。それにしても、ヘイへ君、今日もありがとうね」
「こちらこそ、働かせてもらってありがとうございます」
今日の仕事は、商品の陳列だ。
報酬の額は少し下がるけど、比較的短い時間で終わる。
仕事を終えて、他の仕事にすぐ向かう。このほうが、一日一種類の仕事をするより効率がいい。
ただ、朝早くから家を出て、走ってニア―タウンまできた後に仕事をして夜遅く家に帰る生活が続いたせいで、メイとの生活が大分おろそかになっている気がする。
今日も……。
「お兄ちゃん、今日もお仕事に行くの」
メイは眠そうな目をこすり、玄関まで歩いてくる。
寝ぐせで黒い髪がぼさぼさだ。
「うん、何とかお金を貯めないといけないからね」
「でも……私」
「メイは何も心配しなくていい、生活の面はお兄ちゃんに任せて!」
僕は朝っぱらから元気な声を出す、メイを少しでも安心させてあげられるようにふるまった。
「うん、行ってらっしゃい」
そう言ったメイの顔は少し寂しそうだった。
一つ目の仕事を終え、冒険者ギルドに一度戻る。
「ヘイへさん、お疲れさまでした。ではこちらに報酬の一割を収めてください」
受付の女性は言った。
「え、一割もですか?」
「はい、そうです。ヘイへさんはまだFランクなのでこれだけで済んでいるんですよ。他の冒険者さんはもっと高倍率な報酬を収めていただいています」
「そうなんですか」
確かに、働き口を教えてもらっているのに、料金がないわけないか。
「わかりました、今日の報酬の一割、銅貨一枚です」
「はい、確かに受け取りました」
それから僕はいくつかの仕事を掛け持ち、毎日働いた。
初めの頃は、一割なら問題ないと思っていたけれど決してそんなことなかった。
「一割の報酬を料金として取られるのは結構つらいな」
僕はここ一ヶ月休みなく働き続け、銅貨三○○枚くらい溜めるつもりだったが、一割を冒険者ギルドに納めなければならないので銅貨二七〇枚になってしまった。
「どうしよう、このまま働いてもあと四年で金貨を一〇〇枚溜めるのは難しそうだぞ」
一か月働いてわかったことは、休みなしで働くのは、相当辛いということだ。
体の限界を優に超えているのを感じる。
家に居ても……。
「お兄ちゃん、大丈夫、大分辛そうだけど」
「大丈夫、ちょっと疲れただけだよ」
大丈夫なわけがない。帰ってくる頃には既に真夜中、睡眠時間もろくに取れていないのだ。
何とかしないと、このままじゃ自分まで倒れてしまう。
次の日、仕事のやり方を変えようと思った。
「何とか、報酬が高くて、体に負担のかからない仕事はないかな」と夢のような依頼がないかFランクの欄を食い入るように眺めていた。
そこで異質な依頼を見つけた。
「何々、鍛冶師補助。仕事日数週三回以上、報酬月一回支払い金貨二枚、依頼者:エルツ」
目を疑った。
どうしてこんな素晴らしい依頼がFランクになっているのか不思議でならなかった。
一度何か悪い仕事なのではないかと考えたが、今は時間が無い。
僕はこの依頼を受けようと思い、受付まで持って行った。
「すみません、この依頼をお願いします」
「はい、確認いたします」
受付の女性はその依頼を見ると、明らかに不機嫌そうな顔をした。
「ヘイへさん、この依頼を受けるのですか?」
「何かおかしいですか? とても素晴らしい依頼だと思うのですが、Fランクの依頼になっているのがおかしいぐらいに……」
「この鍛冶屋はドワーフ族が経営している鍛冶屋なんですよ」
なるほどそういうことか。
僕は受付嬢の言い方を聞いて一瞬で理解した。
ニア―タウンに限らず、人族は人族以外の種族が嫌いなのである。
「だから誰もやりたがらない仕事が、Fランクまで落ちてきてしまったということですね」
「そういうことになります」
「でも大丈夫ですよ、僕はその依頼を受けようと思います!」
僕は、両親からよく聞かされていた。
「神様は全ての種族の平等を願っている。例え容姿が違えども、例え能力が違えども、生命の在り方は平等であると。だからヘイへがもし、大切にしたいと思えるような存在が、人間じゃなかったとしても、おかしいことじゃない。自分にいつも素直に行きなさい」とこのようなことを寝る前に欠かさず聞かされていたため、僕は人族以外に特に嫌悪感を持つことがなかった。
こんな素晴らしい依頼を易々と他人に取られてたまるかという気持ちしかなかったのだ。
「そうですか、わかりました。受理いたします」
「ありがとうございます!」
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