4名のSランク冒険者
「おい!ブロード、何やってる。どうしてこのまま押し込まないんだ!」
メルザードは今の停滞状態に嫌気がさし、ブロードの待機している本部まで怒鳴り込んできていた。
「いや…押し込まないんじゃない、押し込めないんだ…」
メルザードは近くの余っている椅子に強く腰掛ける。
「押し込めない…何故だ?人間どもはもう相当体力を消耗しているはずだろ。そんな馬鹿なことがあるか」
「それが実際押し込めていないんだ…何かほかの力が加わっているように…」
ブロードは顎に手を当て考える。
「まぁ、俺は勇者と戦えればそれでいい、勇者を見つけたら俺に伝えろ。次こそ殺す…」
メルザードは自身の拳を握りしめる。
「君にはここら一帯を守る必要がある。もし勇者が現れたとしても、戦いに行くことはできない。だが…、再度こちらに進行してくるのであれば…その時は君に任せようと思う」
ブロードの瞳は漆黒だが、瞳の膜に反射しメルザードの顔が写る。
「奴は来る…俺の感覚がそう言ってるんだ…。さぁ…さっさと来い…勇者よ」
その体からは溢れんばかりの魔力が立ち昇る。
黒くそしてすべての光を呑み込んでしまいそうなほど深い魔力だ。
そして、人族と魔族の戦争はその後…数日間停滞状況が続いた。
「王様!Sランク冒険者の方々がお見えになりました」
兵士の1人が王に報告する。
「そうか、ジャスを呼んで参れ」
「は!」
兵士が離れていくと同時に基地に入ってくる人間が2人、獣人が1人。
冒険者ギルドは元々人族と獣人族、例外でドワーフ族とエルフ族が所属している組織だ。
人族と獣人族は昔から主と奴隷という関係が成り立っていた為、昔に発足した冒険者ギルド法により現在奴隷という枠組みから外れた獣人族であっても冒険者ギルドへ登録が可能である。
ドワーフはおもに、武器や装備、などの裏から作業が多くギルドに所属していれば職を失う心配が無いため、多くのドワーフが偽名を使用し人族の武器を修理している。
「来てくれたか…Sランク冒険者よ」
王は立ち上がり、3人の前に向う。
「大分大変な状態なんですね…私たちを呼ぶなんて…」
獣人は他の2人を警戒しながらそう言う。
「我々は今…人類の存続の危機に罹っている」
「危機…ねえ、それは面白いのか?」
不気味そうにそう言うのは黒いローブ姿の長身男性だ。
その眼は明らかに人を殺している眼…面白ければ何をしてもかまわないと言った狂気の眼だ…。
王はその眼を見るや否や背筋が凍るような感覚に襲われる。
しかし、ここはやはり王たる所以というべきか、面には出さず感情を呑み込んだ。
「あんまり期待しないでくださいよ…僕あまり強くないですから…。それに、獣人が何でいるんだ…」
そう言うのは眼鏡をかけたごく普通に見える青年だった。
「お主たちがSランク冒険者、『リチア・ストレ』『ケイジュ』『カインズ』じゃな…」
「そうです…私が気高き獣人国鳥人族出身『リチア・ストレ』、以後お見知りおきを…」
締まっていた翼先を持ち少し開きながら浅く一礼をする…。
王は、気高き澄んだ翼に見ほれてしまう。
1つ1つの翼が銀翼のような輝きを放ち、冒険者だというのに汚れの1つ見つけられない。
「俺の名前はケイジュ…。そう、ただのケイジュ…面白くないなこの挨拶」
ケイジュはそれだけ言うと、自身の懐からどの7種族中どの種族か分からないが…明らかに指らしき乾燥した物体を取り出し噛みつく…
「プッ!まっず…あ?まだ何か…」
ケイジュの瞳が黒から漆黒へと変化し、背景までもが黒に染まったかのようだ…。
「いや…無いならいいんだ次に行ってくれ」
王はすかさず流し、カインズへと誘導する。
「はい、カインズと言います。よろしくお願いします。Sランク冒険者何て言われてますがそこら辺の冒険者と何ら変わらないんで…あんま期待しないでください」
カインズはへコへコと頭を下げながら、自己紹介を行い。ずれてしまった、眼鏡をかけなおす。
全員がお互いの名前と顔を言い合った後…耐え難い沈黙が続いた。
全員他の者を信用していないといった面持ちでそこに立っている。
誰かが動き出した瞬間殺し合いが始まるのではないかと思わせる空気間に外にいる兵士も中に入ることが出来なかった。
少し遅れて、ジャスが到着した。
「すみません!遅れてしまいました!」
緊張感が一気に解かれ、脂汗を背中に搔きまくっていた王は胸を撫で下ろす。
――よく来てくれた…今回はナイスタイミングじゃったぞ。
「お前は…いつも遅いよな…ジャス」
ケイジュがジャスに近づいていき、赤い瞳に自分の顔を映し出す。
「ケイジュ…お前がちゃんと来るなんてな…」
鋭く重い視線がかさなり合う。
「良いかお前たち!今はそのような喧嘩をしている場合ではない。人族の存続がかかった戦いなのだ!それを分かって貰わねばならん」
王は怒号を上げる。
「私は獣人ですが、王には多大なる恩があります故、来させていただきました。…が、他人と仲良くつるむ気は毛頭ありませんので。私は私らしくやらせていただきます」
そう言うと、リチアは人族本部から出て行った。
「あの…いいんですか、勝手に行かせて…獣人は信用できませよ…」
カインズが問いかける。
その声色に心配…以外の軽蔑感情が混ざる。
「構わん…好きな様にさせるのが奴にとっても最も戦いやすいのだろう。それならばそうさせるべきだと儂は思う」
――無理に言う事を利かせ暴れられたらこちらが危ない事態になってしまう可能性があるのでな…。奴の実力は本物だ…心配いらんじゃろう。
「それなら…俺も好きにさせてもらう…」
基地を出て行こうとするケイジュの腕をジャスが止める。
「待て!お前を1人にさせておくわけにはいかない!お前は僕と一緒に行動してもらう!」
ジャスの腕は王ですら見たこともない光方をしていた。
光りは強くなればなるほど白に近づいていく…それは7つの源光が強まっていることになる。
しかし…ジャスの放つ光は7つ全ての源光が輝いているように見えるのだ…
「何をそんなに警戒してるんだよ…俺たち仲間だろ?」
ジャスの放つ光がケイジュの瞳には反射せず漆黒のままだ。
――こいつの口から友達なんて言葉が出てくるなんて…。気分が悪い…反吐が出る…。
「お前を友達だと思ったことは、無い!」
「え~、悲しいな…ジャス…俺はお前のことをずっっっっと友達だと思ってたのに…」
ケイジュの瞳の桎梏差がさらに増していく…これ以上黒くなれば…それはもう闇だ。
「勝手に思ってろ…お前がしたことを僕は決して許しはしない…」
「いったい何時のことを言ってるんだ…村1つを魔獣に襲わせた時か?それとも、獣人どもを大量に捕獲した時か?ジャスと関係のありそうなものが思い出せないんだが…」
ケイジュは自身の指を手の中に折りたたみながら今までの所業を語っていく。
「お前…まだそんなことを…」
「お客様からの依頼だから仕方ないだろ…だって~お客様は神様なんだから。俺だって生きて行かなきゃならないんだよ…分かった?だから…その手を放してくれる…」
一気に漆黒の魔力があふれ出す。
「ぐ!」
ジャスも負けじと自身の魔力を放出し、ケイジュの魔力を抑え込もうとする。
魔力がぶつかり合い、その場の空気が揺れる、木々がざわめき、基地が吹き飛ぶ。
「やめんか!」
王の声も届かず、次第に大きくなっていく魔力のぶつかり合い。
それを止めたのはすぐそばにいるカインズだった。
カインズは自身の腰に付けている魔法の袋から魔石を1つ取り出すと、ケイジュとジャスの間に投げ込んだ…。
すると。
放出されていた魔力が全て魔石に吸収される。
いきなり魔力を失い、困惑する両者。
「ありがとうございました。僕だけの魔力じゃどうも物足りなかったので…」
そう言いながら、カインズは地面に落ちている魔石を拾い上げる。
魔石の色は変わらず…魔石内に黒と白が渦巻く…。
「へ~、質の違う魔力を吸収するとこうなるのか…発見だな」
「何をした…」
ジャスが声に漏らす。
「え?ただ、魔石を投げ込んだだけですよ?魔石には他の魔力を吸収する効果がありますのはご存じですよね」
「確かにそれは知っているが…今の魔力を一瞬で…」
「あ~、これは特別な魔石なんですよ、偶々見つけたんですけどね。市場でスッゴク安く売られてたんですよ凄くラッキーでした」
そう言ってカインズは笑う。
ケイジュは自身の腕を掴まれていないことを確認し、その場を立ち去った。
「それじゃあ…僕もちょっと見てきます」
カインズすらその場から離れてしまう始末…。
ジャス以外のSランク冒険者は軒並み協調性が無かった。
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