アランとジャス
ジャス以外にも違和感を抱いている者がいた。
「なぜだ…何故押し込めない…人族の力を侮っていたのか…それとも勇者が本気を出しているのか…」
ブロードは、魔族軍が侵攻しているにも拘らず、前線を押し込むことが出来ていない状況に違和感を抱いていた。
「ブロード総司令!報告します!」
慌てた様子で魔族兵がブロードに伝える。
「何だ…」
「前線より報告…魔族軍が押されているとのことです!」
ブロードは耳を疑った。
しかし、全ての能力が人間の比ではない魔族である自身が聞き間違えることなどあり得ない。
「何…それは本当か…」
「はい…間違いないかと…」
「奴ら…いまだに力を残していたか…」
ブロードもまた…この時、大きな勘違いをしていた。
戦っている相手が人間だけであると勝手に決めつけていたのだ。
しかし、その考えが仇となり、作戦を見誤る。
――いや…最後の灯だ…魔族軍の総力を持ってねじ伏せてくれる…。
「今いる魔族軍全てを総動員し、前線を押し込んでやれ、奴らは人間だ…そう長くはもたないだろう!」
「は!」
☆☆☆☆
「…………動いたか…」
そこには、人族でも魔族でもない他種族の姿があった。
スラっとしたシルエットが、黒色のローブを纏った長身の左後方に片膝を付けて話す。
「報告…魔族軍、只今より全軍の兵力を注ぎ込むようです…」
「報告ごくろう…やはりそう来たか、ミーナ!」
「は!」
何処からともなくローブを羽織った獣人の少女が長身の右後方へ現れた。
「今から彼に会いに行く。サポートを頼むよ…」
「は!お任せください、父様」
長身の獣人とその傍らには長身の獣人と同じ毛色をした獣人の少女が、魔族軍と人族軍の良く見える崖上に立っている。
2人の名前はアランとミーナだ。
2人の装備は、いたってシンプル。
自身の体が一番の武器だと言わんばかりにシンプルな服装、機動性を重視した服装により肌が多めに露出している。
武器は腰に掛けてあるシンプルな1本の剣と、左右の太ももに付けられているナイフのみ。
これ以上の武器を持つと体が重くなり、行動に制限がかかってしまうためである。
「それじゃあ行こう…」
アランが崖から飛び降りると、それに続いてミーナも崖を飛び降りる。
崖の高さは結構なもので、ざっと25メートル以上はあるだろう。
重力に逆らうことなく垂直に落下して行く。
それに続いて何人かの獣人がアラン達の後を追う形で行動し始めた。
「今の状況は?」
「人族軍が何とか持ちこたえている模様です…」
「なるほど…私たちは魔族軍に気づかれず、人族軍の兵士を救出することを最優先に行動する。『リリン』『ジェイク』『ショウ』『マーレア』は全員配置に付いているか?ミーナ」
「はい!既にいつでも動ける状態にあります」
「よし…『リリン』と『ジェイク』は人族と共に前線を押し上げろ。しかし、魔族兵、人族兵ともに我々の正体がバレてはならない。その点に注意し作戦を開始しさせてくれ」
「は!」
ミーナは一時的にその場から離れる。
「他の兵士にはバレないだろう…しかし、彼にはバレる。早く会わなければ…」
アランが移動し始めて数刻後。
ジャスは更に違和感が増えていた。
「いったい何が起こっているんだ…」
先ほどから、魔族の進行が弱まったように感じる、負傷兵も助けた覚えが無いのに、前線に負傷した兵士がほとんどいない。
――極めつけはあれだ…
「フードをかぶって見えにくいが…あれは人間じゃない…獣人か…。いや…でもどうして」
『それは私から説明しよう…』
「は!」
ジャスは後ろを振り向くと見知らぬフードを被った長身が立っていた。
「あなたは…」
「私の名は『ウルフ・アラン』という。獣人国でウルフ族頭領をしている者だ。君はジャス君だね…」
ジャスは、左足を後ろに下げ…左腰に掛けてある剣の柄に右手を添える。
目の前にいるアランと名乗る獣人を警戒する体制だ。
「そんなに警戒しなくても大丈夫だ、我々は君に危害を加えたりはしない」
そう言われるが、ジャスは気を許すことが出来なかった。
「君ほどの実力者なら、薄々気づいていただろう、兵士がいつの間にか救出されている理由を…」
「やはり、あなた達が…。しかし、何のために…。あなた達は敵のはず…ヘイヘから聞きました。街を崩壊させた魔族の仲間から手紙を預かったと…」
「君はヘイヘ君を知っているのか…」
「ええ…友達になりましたからね」
「そうか…それなら話が速い、簡単に言うと我々は人族の味方だ」
――いったい何を言い出すかと思えば…人の見方だって…。
「どうしてそんなことを僕に…信じてもらえるとでも…」
――そうだ…信用できない。
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