作戦の決定
「王様…ただいま戻りました」
「おお、ジャスか敵の動きはどうであった?」
「今の所…魔族兵に動きはありません。敵も我々と同じように早朝付近で攻撃してくるのだと思われます」
「そうか、ジャス…お主にもう一度問う。魔族を殺すことはできぬのか…」
「すみません…理由も無しに魔族を切ることは……できません」
「多くの民が危険にさらされ、多くの兵が命を落としてもか…」
「僕はどの種族でも皆平等だと思っています。それが神々の意志であり望なのです。勇者である私が、神々の意志に反することはできません。私の力は神々から与えられたもの、神々が世界で悪だと判断された場合にのみ最大の力を発揮します。魔族軍総司令ザハードには『スキル』が反応しませんでした。『スキル』が反応することはありませんでしたが…敵を鎮圧できなかったことは事実…。今この状態にあるのは僕の失敗に他なりません」
「なぜ…元凶ともいえるザハードに『スキル』が反応せんかった…」
「分かりません…しかし、神々はザハードを悪だと認めたわけではないようです。私も悪が相手ならば容赦なく切り捨てることが出来ました。しかし、ザハードは悪ではなかった…」
――これは結果論だ!僕自身が失敗したことを『スキル』が反応しなかったせいにしているだけ…あの時だって、『スキル』が発動していなくてもザハードの首を切ることはできたはずだ…。しかし、僕の手はあの一瞬硬直したのだ…心の迷い、悪ではないというのに切ってしまう罪悪感…いろいろん感情が渦巻き、僕の行動は止まってしまった…。
「仕方がない…。お主は衛生兵+救護兵として、情報を集めつつ、負傷した兵士を回収するのだ。死の危険があるものは全て助けろ、兵士を見捨てることだけは許さん!」
「は!」
――僕は僕にできることを精一杯やろう…
「ジャスに言っておくが、儂は冒険者を派遣した。数は分からんがこの窮地に駆けつけてくれるものは多いだろう、冒険者ギルドのギルドマスターにSランク冒険者も要請した」
「Sランク冒険者ですか!いや…一応僕もSランク冒険者ですけど…」
この時ジャスは思い出した。Sランク冒険者の顔ぶれを…
「もしかして…『ケイジュ』もですか…」
「そうだ!奴の魔法は我々が勝利するための突破口となるだろう」
「いや!しかし『ケイジュ』は危険です!僕から…いや誰から見たってあいつは狂っています!」
「しかし、この窮地を脱するには、必要なことなのだ…」
――王様…
ジャスは王の決めたことにそれ以上反対はしなかった。
「攻撃を開始せよ!」
「攻撃開始!」
そして両者の攻撃は始まり、人族は魔族に対して最小限の人数で戦う。
王は出来るだけ時間を延ばす作戦に掛けたのだ。
「ブロード総司令!敵軍、我が軍と最小限の兵力で交戦中、見たところによると長期戦に持ち込もうとしている模様!」
――なぜ奴らは不利となる長期戦に持ち込もうとするのか…しかし、我々がお前ら人間の作戦に乗ってやる必要も無い。
「配置している前衛の魔族軍を前へ!数で押し切る、奴らの好きにはさせるな。前衛の部隊にそう伝えろ!」
――後方には前衛部隊の3倍の魔族兵が待機している。奴らが長期戦を望むのなら結果的に短期決戦にすればいいだけの事…。万が一、前衛が突破されようとも、こちらはまだ後方に軍がいる…前衛の部隊が全滅したところでその頃には奴らも虫の息だろう。そこを叩き込めば我々の勝利だ。
「は!」
「おい…さっきよりも数増えてねえか…」
兵士たちは今でこそギリギリの戦いを強いられているのにも関わらず、ブロードの指示によって待機していた魔族軍が少しずつそして…ジワジワと前線を詰める。
ジャスが各部隊に応戦するも、負傷者を救助しながらだと魔族軍に集中することができず、中途半端な援護しかできない。
その為、前線は既に崩壊寸前の状態となっていた。
しかし、ジャスはここで違和感の正体に気づきかける…。
「あそこにも兵士が…クソ!間に合わない」
すでに魔族によって振り上げられた大斧が、倒れている兵士の頭上目掛けて振るわれる…。
しかし、そこに兵士の姿は無かった。
もちろんのこと大斧を振りかざした魔族は困惑した。
いったい目の前で何が起こったのかよく分からないと言った様子だ。
ジャスが到着し、大斧を拳で砕くと左足が弧を引くように綺麗な軌跡を描きながら魔族の側頭部に直撃する。
魔族は、木の葉の如く、ものすごい勢いよく吹き飛び、木々に激突し行動不能となる。
「はぁはぁ…。さっきのはいったい…」
――兵士が消えたように見えたが…いや、確かにそこに何かがいた。あれほどの速度で動けるなんて…人間が魔法を使用して『身体強化』を行ったとしても、兵士が消えるような速度で移動できるのか…。いや、出来ない。勇者である僕ならまだしも、今いる救護兵にそのような芸当ができるとは到底思えない。人間じゃない何かが今この戦場にいる…。
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