噂
「私は…とある国の依頼で亜人族の国に向っていた。その時、とある噂を耳にしたの」
「とある噂…」
――いったい何なのだろう…しかし、フィーアさんの表情的にはいい噂ではないようだ。
「噂の内容はこう…人族が魔族に敗れた…と」
僕はその場に立ち上がった。
全身に激痛が走る。
しかし、痛みよりも人族が敗れたという驚き…いや、本当にその噂が確かなのかが気になった。
「その噂は本当なんですか!」
「まだ確証は得ていないの。本当に人族が負けたのか、はたまた魔族が人族に勝ったのか…もし本当だったとしたら…大変なことになるわ」
「大変なこと…」
「大量虐殺よ…」
「!」
――大量虐殺…確かに、あの街の人々はほとんど殺されていた…もしかしたら、王都でも、いや他の国にいる人族にさえ危険が及ぶ可能性がある。
「大量虐殺って…。そんな、魔族もそこまでは」
「やるわ…必ず」
フィーアさんの曇らない口調からは、お世辞ではないことを感じさせる。
「どうしてそんな事が言えるんですか…」
――そうだ、魔族が人族を虐殺するなんて確証は何処にもない。
「私たち、エルフ族がそうだったからよ…」
フィーアさんはそう言った。
「え…」
訳が分からなかった。
一瞬頭の中が真っ白になり、もう一度言葉を思い出す。
――僕が勉強不足なのかもしれないけど、エルフ族が魔族に大量虐殺されていたなんて…いったい何時。
「そ、そんなことが…」
「始まりは、ずっと昔…まだそれぞれの種族が力を合わせて世界を生きていた時代…私たちエルフの先祖が魔法を使って世界の均衡を保っていた時。とある神が悪さをした…いったいどんな悪いことをしたかは分からない。でも、悪さをした神を信仰する種族は同じように悪さをした…エルフの神は悪いことをした神を世界から追放し、その種族を世界のはじへと追いやった。しかし、彼らの力は絶大だったのだ、一度は世界のはじに追いやったのはいいものを奴らはものすごい勢いで増えていき、力も増大していった。エルフとの戦いは何百年も続き…やがてエルフは敗れた…その時、奴らの王が言ったのだ「皆殺しにせよ!」と。捕まったエルフはみな殺され、何とか生き残ったエルフたちが逃げるようにして、光の魔力が溢れるこの大樹の周りに集まり、今のエルフ国が出来た…簡単に説明するとこんな感じ」
「その奴らって…まさか」
「そう…魔族、だから今回も必ず同じことが起きる」
「そんな…僕はどうしたら…」
「もし本当に、人族が負けていたのだとしたら、ヘイヘ君にやれることはもう何もないわ…ただ、この世界中を逃げ回るしかない」
「で、でも、他の国に隠れるとか…方法はいくらでもあるでしょ…」
「人族が負けたということは…人族の領土のほとんどが魔族のものになる可能性がある。例え、法の下で戦争が行われていたとしても、魔族が法を守るとは考えづらい。しかも大量虐殺によって人族は王国を逃げるしかなくなる。こうなった場合、大きな領土を魔族が占拠することになる。そうなった場合、魔族が他の国に進行する可能性も無くはない。そんな時、どんな理由で戦争を起こしてくるか…」
「もしかして…人ですか…」
「そう、『人を隠しているのだから人族と共闘しているのと同じだ』とか難癖をつけて、進行してくる可能性がある。そうなったら、他の国の連中も人族を見かけた時、捕まえる、殺す、差し出すという行為をするしかなくない。しなければ魔族に進行されるのだから」
「そんな…」
「人族が負けたということは亜人族…獣人族…エルフ族…ドワーフ族…何処が狙われてもおかしくない。私の想定では、獣人族が次の標的になる可能性が高い。労働力として働かせるには体力のある獣人が最も優れているから」
――アランさん…ミーナ…
「だから…ヘイヘ君はメイちゃんと一緒に世界が落ち着くまで身を隠すの、今のあなた達にはそれしかない!」
フィーアさんはその小さな手で僕の肩を掴む。
きっと心配してくれているのだろう…フィーアさんの表情に余裕はない。
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