フィーアの父
「お久しぶりです、父様。ただいま帰って参りました」
フィーアの父親は淡々と聞く
「なぜ村を出て行った…」
「弱き者を助けるためです…」
「建前はいい、本心を話せ」
「だから私は!」
何かを言いかけるフィーアだったが父はそれを遮る。
「お前のことをどれだけ見てきたと思ってる、それくらい私にもわかるぞ」
「は~…」
フィーアは大きなため息をつく。
肺の底にたまった空気を一気に吐き出し、胸が軽くなったように感じる。
「はいはい…分かりましたよ。話せばいいんでしょ話せば…」
肩の力が抜けたのか、それともいちいち頭の固い父に話を通すのが面倒になったのかは分からないが、何かを覚悟したようなそんな表情だ。
フィーアは近くの椅子に座り淡々と話し始めた。
「私がこの村を出て行った本当の理由は…ただこの村が嫌いだっただけ」
「嫌いだった…」
「私は、他のエルフとは違った。他のエルフよりも魔力量が多いせいで見た目も違う、能力も違う、そんな何もかも違う私を遠ざけていたのは父様でしょ…」
「う…」
図星なのか何も言い返してこない。
「確かに…お前は他のエルフとは違った、私はそれが恐ろしかったのだ…私を優に超えるその魔力、いつ暴走するものかといつも肝が冷えてならなかった。100年ほど前、お前がこの村を出て行ったとき、私は心の中でホッとした、何故か分からないがホッとしたのだ…」
父様が何を言っているのか、どうして今更になってそのようなことを言い始めたのか私には全く理解できなかった。
「それだけなら…もう部屋に戻ります…」
私は椅子から立ち上がり、部屋を出ようとした。
「ま、待て!」
父様は私を呼び止めた。
「まだ何か用ですか?」
すると、父様は
「すまなかった、そして、今回のことありがとう。よく頑張ったな」
私に謝罪の言葉と感謝の言葉を掛けたのだ、あの頑固で有名な父様が私に謝るだけならまだしも感謝までするとはさすがに思っていなかった。
「な、何ですか行き成り」
珍しく動揺し、言葉が詰まる。
父様に感謝されたことや褒められたことなんてほとんど無い。
私は何でもできた…だからいつもできるのが当たり前のように言うのだ「お前ならできて当たり前だ…」と…私が何も努力していないかのように、できるのが当たり前だと言ってきていた父様が…褒めた…。
「お前が住みやすい村にすることが出来なくてすまない。今回の権、この村を救ってくれてありがとう」
父様は頭を深々と下げる。
父様のそのような姿は生まれて初めて見た。
いつも威厳にあふれている…その姿、エルフ族長の息子ではなく…私の父様がそこに居たのだ…。
「別に、こんな何も無い村で一生を終えるよりも他の世界を見ることが出来てよかった。私の方こそありがとうと言いたいわ。私に強い魔力を与えてくれたこと、そして、この村から出させてくれたこと、本当に感謝してます。ありがとうございました」
――この村にいたら味わうことのできなかった様々なことを私は経験することが出来た。エルフは歳を経つにつれて時間の流れが速く感じるようになる。1歳のエルフが100歳になる時間と500歳のエルフが1000歳になる時間のたち方はほぼ同じように感じるらしい。しかし、私の経験した100年は必ず100年以上の価値があったと断言できる。それほど外の世界は刺激であふれており、私を飽きさせることが無かった。
「そうか…」
父様はそれだけ言うともう、何も言わなかった。
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