死を覚悟する
「ここから逃げないと…僕の命が……」
――足元がふらつく…くそ…
僕はその場に立っていられないほど衰弱していた。
2本の魔剣を持ち…僕は真っ逆さまに落ちて行く…
落ちて行く間に引っかかるような枝も無ければ隙間もない…どうやっても地面に叩きつけられる。
しかもこの高さから落ちたら僕は即死だろう…何とか魔剣を大樹に食い込ませたいところだが…
「――ああ…もう体に力が入らない…」
僕はこの時死を覚悟した。
大樹を落ちている数秒間がすごく長く感じたのだ…。
今まで僕が生きてきた時間が…その時の情景が…頭の中で繰り返されている。
「メイ…エルツさん…ミーナ…アランさん…ラーシュ君…フリジア…ごめん…僕の人生はここまでみたいです…」
意識がもうろうとしていく中、地面だけが僕に近づいてくる。
「はぁ…いい人生だった…」
全てを諦め…静かに目を瞑る。
――何も感じない…風も音も臭いも…いや…何か声が聞こえる。
「何、諦めてるの?せっかく私が来て上げたっていうのに」
僕の体は地面に衝突するはずだった。
地面に衝突し、体内にあるすべてがミンチになり死ぬはずだったのだ…
しかし、僕は死ななかった…
僕を受け止めたのは、僕よりも小柄で少女の姿をしたエルフ…。
「よく頑張った、少年。後は私に任せなさい」
その姿を僕は知っている…
そして…その姿を知っているのは僕だけではないようだ。
「フィーア…姉さん。どうしてそこに…」
その姿を見たのはスージアさんだった。
「何!フィーアが来たってのか。ここに!どこだ!あのバカ娘は」
「父上…フィーア姉さんが我々の恩人を助けております…」
――緑色の髪、背丈よりも大きい弓、綺麗な瞳、僕はこの相手を知っている…
「フィーアさん…どうして」
「え?ヘイヘ君が呼んだんじゃないの?ほら、この魔石、私が君に渡した道具の1つ。これが割れたから私は全速力でここまで来たのに」
「いったいどこから…」
「え~と、確か…亜人族の国に向っている途中だったから…」
――亜人族の国…全くの正反対じゃないか
「そんな遠くから、ここまで…」
「まぁ、風の聖霊様のおかげだね。ささ、ヘイヘ君は休んでて、後は私が何とかするから」
その姿は少女ではなく歴戦の戦士の姿だった。
――僕とは…何もかもが違う…
個の背中を見たら…目の前のエルフが勇者と言われても僕は100%信じるだろう…。
「さてと、父様や弟…さらには姪っ子にまでカッコ悪い姿は見せられないわね」
フィーアさんは背負っている大きな弓を手に取る。
矢を持たず…そのまま何も持たない状態で弦を引き始めた。
「フィーアさん!矢を持ってませよ!ただ弦を引いても何も起こらないんじゃ…」
しかし、フィーアさんは分かって無いな…といった顔で
「良いから見てなさい!」
フィーアさんは既に弦を引き…それ以上引くと弓が壊れてしまうのではないかと思うほど引っ張っているのだが…まだ引き続ける。
「エルフはね…矢が無くても…こんなことが出来るんだから!」
フィーアさんの持つ弓と弦の間にどんどん周りの風が吸い込まれていく。
さっきまで無風だったここら一帯に、まるで弓に風が吸い寄せられているかのようだ…。
風はフィーアさんの引っ張る弓の中で絶えず吹き続け、小さな竜巻のようなものが見えるようになった。
そこからは早かった…小さな竜巻がどんどん大きくなり、絶え間なく弓の中で回り続けている。
速度がどんどん増していき、吹き付ける風もそれに比例して強くなっていく。
地面に落ちている枯れ葉が風によって舞い上がり、吹き飛ばされる。
既に、フィーアさんの周りには塵1つ無い。
そして、フィーアさんが最後弦をもう一段階引っ張ると、太く荒々しかった竜巻が、一瞬にして一矢へと変化する。
「風が…矢に変わった…」
「普通の矢とはレベルが違うわよ。ヘイヘ君、吹き飛ばされないように、どこかにしっかり捕まってて!」
僕は咄嗟に這いつくばる。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます!
もし少しでも、面白い、続きが読みたいと思って頂けましたら、差支えなければブックマークや高評価、いいねを頂ければ幸いです。
毎日更新できるように頑張っていきます。
よろしければ、他の作品も読んでいただけると嬉しいです。
これからもどうぞよろしくお願いします。




