『ブラックレイリー』
「何だ…あれ…」
大樹の根周りの木々は枯れ果て、不毛の地となっていた。
「こんな事が…」
フリジアは足を折られた小鹿の如くその場に崩れる。
「大丈夫?フリジア」
「このままじゃ…エルフ族だけじゃなくて世界にも影響が…」
額から汗を流し、小刻みに震えている…フリジアは明らかに動揺していた。
「フリジア!落ち着くんだ、僕たちだけじゃまだ何も分からない、フリジアはすぐにスージアさんの所に行ってこのことを知らせるんだ。僕はもう少し先に進んでみる」
――今はこの状況をもっと賢いエルフ族の民に伝えることが先決だろう…僕が行くよりもフリジアの方が移動するのが速い。僕は少しでも情報を集めないと…
「わ…分かった!なるべく早く戻ってくるから。でも気を付けて、大樹の周りには大樹を警護する傭兵のような存在がいるの。その傭兵は危害を加えなければ普通反応しないんだけど、今の状態じゃどうなってるか分からない…だから、とにかく傭兵には気を付けて」
「ああ、分かった。僕の最善を尽くすよ」
「うん!」
そしてフリジアは立ち上がり、元来た道を戻っていった。
僕は、手のひらで頬を叩き気合いを入れる。
頬がジンジンとした痛みに襲われるが気合いが入る
――集中するにはこれが一番効くんだよな…
「僕がどこまでできるか分からないけど、最善を尽くそう」
僕は安全にそして着実に歩みを進める。
――灰色になった世界…草木が燃えたかのような…いや、違うな…この感じは魔力が吸われてしまって抜け殻のようになってしまった状態に似ている。
身を低くし、傭兵に見つからないよう周りを見渡す。
骨だけになった動物、魔石が落ちている場合もあった。
――ここに居た魔物や動物たちはみな死んでしまったのか…魔力が吸われてる…いや、魔石が残っているということは違うだろう。魔石は魔力の源みたいなものだ、それが残っているということは魔力を吸われたわけではない、じゃあ…いったい原因は何なんだ…ん?
僕は視界の右端に動く物体を発見した、すぐさま身をさらに低くする。
まるで自分も死体のように地面にひれ伏す。
「あれが…傭兵か…」
外見は木でできた人形のようなものだ、大きさは人より少し大きいくらい、何を求めて動いているのかは分からないが、少しでも動くものを発見すると、すぐに攻撃する。
地面の枯れ木枯れ草が空中に舞い散る。
「これじゃあ真面に動けないな…」
そしてまた傭兵は動き出し、僕の視界から消えた。
「あんなものがうようよいると考えた方がいいな…」
僕は仕方なく死体のふりをしながら進んだ。
時間はかかるが、これが最も安全な方法だと思ったからだ。
僕はすでに数回傭兵を見かけている。
その為傭兵はその場に待機しているわけではなく、大樹の周りを旋回していると考えられた。
死体のふりをしながら、何とか進み続け大樹が目と鼻の先にまで近づいた。
「良し、ここまでくればあと少しだ…」
近くで大樹を見たところ、外見は一本の太い木に数々の細く長い木がねじれるようにして巻き付いているようだ。
僕が大樹の根の部分を見た時、原因がはっきりした。
――根の一足が枯れている…しかもあれは…剣?…いや魔剣だ。
太い根っこの部分に魔剣が刺さっているのを見ることが出来たのだ。
「…なるほどそういう事か」
――僕も鍛冶師のはしくれだ、あの魔剣の形や魔石の種類でどのような用途か判断できる。
根っこに刺さっていた魔剣は外見から判断すると考えられる魔剣が数本あったのだが、根の状態から見て、1本に絞ることが出来た。
――『ブラックレイリー』危険な魔剣の1本だ。確か…有名なドワーフの鍛冶師が作ったものだったはず。主な使い方としては、敵の魔法を切り裂くこと。そして『ブラックレイリー』に切り裂かれたものは傷口から魔力が漏れ出す、または『ブラックレイリー』自体に魔力が流れてしまう。僕のもっている魔剣に少し似ているけど、性質が全く違う。僕の魔剣には魔力をためることが出来るのだが…一定量の魔力を溜めるとそれ以上は魔力を溜めることが出来ない。その点『ブラックレイリー』は魔力をためることはできないものの、刺さっている場合、永久的に魔力を吸い続ける。だから大樹のあの部分だけ枯れてしまっていたのか…でもいったい誰があんなところに魔剣を…いや今はあの魔剣を抜くことだけを考えないと
しかし、僕のいる地点から魔剣の刺さっている地点まで相当な高さがある。
死体のふりをしながらではもう進めない。
――どうする、思い切って魔剣の下まで走るか…いや魔剣の真下に行っても意味がない、あの高まで登らないと…でも急に動き出したら、周りの傭兵にばれて攻撃されてしまう。魔法で撃ち落とす…いや無理だ、他の魔剣ならまだしも、ブラックレイリーじゃ全て魔法が相殺される…せっかくここまで来たのに…僕だけの力じゃあの魔剣にすら手が届かない。
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