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Re:フレンドワーズ ~家名すらない少年、ディストピアで生きていく~  作者: コヨコヨ
終わりから…始まり:ヘイヘ少年偏
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新生活

 母が亡くなった。


 数ヶ月前まで笑顔で生活していた最愛の母が、目を覚まさなくなった。


 家族四人で住んでいた家に、僕と妹のメイだけになってしまった。


 ――これからどうする。父さんと母さんはもういない……。


「お兄ちゃん、これからどうするの?」


 メイは不安そうな悲しそうな、泣きすぎてしゃがれた声で話しかけてきた。


 ずっと泣いていたのだろう、目頭が赤く腫れている。


「心配しなくていい。お兄ちゃんが何とかするから」


 何を思ったのか、自分自身に何が出来るかもわからないのに、メイを心配させたくないがために、考えもなしに言葉が出てきた。


「お父さんとお母さんがいなくなっちゃった……。お兄ちゃんはいなくなっちゃやだよ」


 メイは黒い瞳を潤わしながら僕に抱き着いてくる。


「大丈夫、メイが大きくなるまでは絶対いなくなったりしないから」


 ――まただ、何の根拠もないのに考えもなしに何を言っているんだ。


 それでも、僕たちは生きていかなければならなかった。


 ☆☆☆☆


 両親が死んでから時が経つのは早いもので、あっという間に一年が経った。


「お兄ちゃん、まだ剣を振ってるの?」


 背が少々伸びたメイが目を細めながら僕を見る。


「あと少しで終わるから、もう少しだけ待って」


 僕は両親が死んで自分の弱さを痛感した。


 これからは僕がメイを守らなければならない、守るためには強さが必要だと思ったのだ。


 一年前、ホーンラビットを捕まえることができていたら、母さんが死ぬことはなかったかもしれない。あの時、もっと使いやすい短剣や剣を使うことができるほどの筋力があれば、救えたかもしれない。


 今考えても仕方がないことなのはわかっている。でも、僕の頭の中は『かもしれない』であふれていたのだ。


「くっそ……、剣の素振りを一年間続けて筋力が少しはついたと思うけど、強くなった気が全くしないな」


 僕の筋力は一年前とほとんど変わっていないように見える。でも背は少し伸びて一四四センチメートルになっていた。


「食べている物がダメなのか……」


「お兄ちゃん、根を詰めすぎないようにね」


 メイは一年前と打って変わて、よく笑うようになった。ただ、純粋な笑顔なのか作り笑顔なのかは分らない。


「ああ、大丈夫だよ」


 ――少しでも強くなれるように剣の素振りを続けよう大切なものを守れるように。


 ☆☆☆☆


「ジャモとサモも、慣れるとおいしいね」


 メイは蒸かしたジャモとサモをモグモグと食しながら言う。


「そうだね。一年間も食べてれば少しは飽きると思うけどな……、まあ、これくらいしか食べるものがないから飽きなくてありがたいんだけどね」


 ジャモとサモは母が亡くなってから一年経った今でも、定期的に育てながら食べている。


 そのおかげで、ひもじい思いをせずに済んでいるが、実際のところ、生活が快適とは言えない。


「これからは少しでもお金を稼いでいかないとな」


 この一年間、子供だけではどうしてもお金を稼ぐことができなかった。


 そもそも、この村ではほとんどお金が流通しておらず、物と物の物々交換で成り立っていたからだ。


 でも薬や武器を買ったり、勉強したりするのにお金がやはり必要だった。


 ☆☆☆☆


 あの時もそうだ。


「お兄ちゃん、苦しいよ……」


 メイの額に手を乗せる。熱い。かなり熱い。


 持病を持っているものの今まで風邪を引いたことがなかったメイが熱を初めて出した。


 僕は焦ってしまったが、僕が熱を出したときのことを思い出す。


「確か母さんが、僕の額を覚ましてくれてたような気がする……。それに薬も飲んだ」


 僕は少し冷静になり、服を水で濡らし、メイの額に乗せる。


 冷たいのが気持ちよかったのか、メイの顔は少しずつ和らいでいった。


「大丈夫だ、今から薬を買ってくるから」


 僕はそう言うと、メイは重たい瞼を開き、僕の方を見る。


「でも、そんなお金ないでしょ……」


 弱弱しい口調で僕に言った。


 確かにお金は無い、ただ僕は、メイが苦しむ姿を見ているほうが辛い。


「心配するな。メイは何も心配せずに、そこで寝ていればいい。すぐ帰ってくるから」


「絶対だよ、私を一人にしないでね……」


 メイは僕の手を握り、泣きそうに言う。


「ああ、約束する。もし破ったら、メイが好きなホーンラビットの肉を腹いっぱい食わせてあげる」


「わかった……」


 メイを寝かしつけ、僕は村でたった一人しかいない医者のセキさんの所に向った。


 その日は大雨で、全身をびしょびしょに濡らしながら全速力で走った。


「す、すみません」


 僕が服や靴、髪まですべてびしょ濡れの状態を見てセキさんは驚く。


「ヘイへ君どうしたんだいそんなに慌てて」


 眼鏡をかけ、白衣を着たセキさんが僕の方に歩いてくる。


「お願いします、薬をください。妹が熱を出して苦しそうにしてるんです。今お金はないですけど、いつかきっと必ず返します。ですから、何とか薬を分けていただけないでしょうか」


 僕は、その場で額を地面にこすりつけ、お願いし続けた。


「そうか……」


「お願いします!」


 僕は薬を分けてもらえるまでこの場を動く気は無かった。


「ヘイへ君、頭を上げなさい。本当はしてはいけないことなんだ。私も商売をしていることに変わらないからね。でも私はヘイヘ君の家族に何度も助けられているんだよ。特にカイヤさんには何度助けられたか分からないほどだ」


「そうだったんですか」


 僕は顔を上げ、セキさんを見る。


「解熱剤だ。持っていきなさい。薬代はきっちり払ってもらうからね」


 セキさんは革製の袋を僕に渡してくれた。


「は、はい! ありがとうございます」


 僕はもらった薬を懐に抱えながら、家まで全速力で戻った。


 後悔したくなかった。母が亡くなった時だって、家にもっと早く帰れてたら、最後の話しくらいできてたかもしれない。


 僕は勢いよく家のドアを開ける。


「メイ、薬をもらってきたよ」


 メイは目を閉じたまま、反応がない、


「メイ、メイ、大丈夫か、頼むから目を開けてくれ……」


 あの時の光景が脳裏によぎる。


「そ、そんな、まって、メイ、メイを開けて」


「ん、んん、お、お兄ちゃん……」


 メイは眠そうに目を開けた。


「は、はぁ……。良かった。メイ、薬をもらってきたよ」


 あの時は運が良かった。あのまま目を覚まさなかったかもしれないのに。


 ☆☆☆☆


 何とかしてお金を稼がないと。


 そう思っていたけど、お金を稼ぐ場所がなかった。


 子供の僕たちにお金を稼ぐ方法も限られていた。ただ、ちょうど両親がなくなったころ、戦争が冷戦となり、魔族と人族はにらみ合いを続けていた。


 その時に、人族のえらい人たちが、魔族を監視するために、村の近くに大きな街を作っていたのだ。


 そしてちょうど一年が過ぎ、大きな街が完成した。


 この村でも、街にお金を稼ぎに行く人が増え、お金でやり取りすることが増えていた。


「どうして、人族は魔族を倒さないんだろう? あの頃はちょうど勇者が現れたって噂してたのに、勇者が現れたら、人族が勝つか、仲直りするものじゃないの?」


 メイはジャモとサモを食べながら言う。


「確かに、父さんからはそう聞かされていたけど」


 確かに、勇者の力は、他の種族を圧倒するものだったはず、何か勇者に問題でもあったのかもしれない。

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