大樹までの道
「え~と…フリジアさん、どの方角に向えばいいんですか?」
「あ~、疲れた!!もう、やっとあの部屋から解放されたよ!」
さっきまで死んだ目をしていたフリジアさんはいきなり生き生きとした目をする。
――い…いきなり大きな声で喋り出したぞ……。
目を丸くしている僕に、フリジアさんはお辞儀をする。
「あ!ヘイヘさん、私をあの地獄から助けてくれてありがとうございます。いや~あの時は何本も刺しちゃってすみません」
一礼した後にすぐさま顔を上げ、八重歯を見せながら笑い頭を掻いている。
「あ…ああうん、別にいいよ」
――あの時より警戒していないらしいが、いきなり性格が変わると変な感じがするな。
「あ!そうそう、これをお返ししておきますね」
フリジアさんの手には、僕の投げたナイフがキラリと光っている。
「そのナイフ!どうして、フリジアさんが…あの辺りを探しに行ったのに見つからなかったんだよ」
「どうしてって、このナイフを投げてきたのはヘイヘさんですよ。ビックリしましたよ、木を貫通してくるんですから。当たり所が悪かったら私、死んでましたよ!」
――いや…君は僕に何回矢を刺しこんでいるんだよ
と言いたかったが。
「ごめん、あの時は勝つことに必死で」
「それが分かっているので今回は許します。これで、あの時のことはお互いチャラということで」
そう言って、フリジアさんは手を差し出してきた。
「こちらこそ、よろしくお願いします」
僕はフリジアさんの手を握る。
「これが、人の挨拶というものですね。地獄で学びました。それと、これからは呼び捨てでお願いします。なんか変な感じがするので」
「そうですか、分かりました。ではこれからはフリジアと呼ばせてもらいます」
「あ~、後それ、その方事みたいな感じもやめて欲しい。調子が狂う」
「そう、なら普通に話すけど」
「うん!それが良い、そのほうが話しやすい。それじゃ、早速大樹のもとへ向かおう!」
僕を殺しかけたフリジアは、いつの間にか僕の友達になった。
「フリジアは体、大丈夫なの?魔力の回復が遅いんでしょ」
「あ~、私はまだ大丈夫。大変なのは大人のエルフだよ、子供はまだ体に魔力が振れているから。そんなに影響が無いんだって。それに、子供の中で私が一番強いし」
「それでフリジアが選ばれたんだ、でも…エルフの子供っていくつまでが子供なの?」
「う~ん、大体200歳くらいで大人って言われてるかな~」
「200歳で大人…じゃあ、フリジアは…いったい何歳なんだ…」
「え~と、父さんが200歳の時に生まれたって言ってたから…て何言わせてるの。私はまだまだ子供だよ。そんな事より、ほら、あれが大樹だよ!」
「――でか…」
フリジアの指さす方向に周りの木よりも遥かに大きい大木が見える。
「あれが…大樹」
――なんて大きさだ…周りの木がまるで子供みたいじゃないか…
「そう!この世界が出来た時にエルフの神が植えたものなんだって。本当ならすごいよね、私なんかよりもずっと先輩なんだよ」
フリジアは透き通る緑の瞳でそう言った
「なんかうれしそうだね…」
「そりゃ、大樹に近づけるなんてすごく光栄な事なんだから。エルフでも1000歳を超える長老とかでしか近づけない所なんだよ。今回は異例中の異例で私たちは近づくことが出来てるけど、うれしくないわけないじゃん!」
――ウサギのようにぴょんぴょん飛び跳ねながら全身で嬉しさを表現している。年齢が120歳だというのにその行動はまるで子供の用だ…僕が言うのも何だけど。
「そうなんだ…」
「それに、なんか冒険みたいで楽しいんだ!私の夢は冒険者になる事だから」
「冒険者になるのが夢?」
「そう!私の父さんのお姉さん、私のおばさんは冒険者なの!スッゴク強くて、かっこいいんだ。リーン・フィーアっていう名前なんだけど聞いたことない?」
僕はその時やっと思い出した!
「そう言えば、名字が同じ!もしかしてフリジアはフィーアさんの知り合い…」
「その反応からすると、フィーアおばさんのことを知ってるみたいね」
「知ってるも何も、人の国で冒険者をやってるなら知らない人はいないよ!僕も少しだけ話したことがある」
――最後にあったのはもう4年くらい前だけど…
「そうなんだ、どんなエルフだった?」
「確か…フードをかぶっていて…使っている弓よりも背が低くて、可愛らしい感じだったかな…」
「すごい!あってる!ヘイヘって欲が無いのね!」
「そう言えば、フィーアさんにもそんなことを言われた気がする…」
「ねえ、何かおばさんから貰わなかった?」
――そう言えば
「このブレスレットを…」
僕は魔法の袋から、フィーアさんにもらったブレスレットを取り出す。
「すごい凄い!本物だ!」
「え…本物?」
「これ!おばさんが作ったもので間違いないよ。このブレスレット凄いんだよ。この魔石を砕くと、怪我が治るの。大抵の傷は治しちゃうんだから。でもこれを貰っているってことは、おばさんはヘイヘに何か感じたのね」
フリジアはブレスレットを日に翳しながら魔石のきらめきを確か、そのまま僕にブレスレットを返してくれた
「そのブレスレット、大切にしてね」
「もちろんだよ」
このような話をしながら大樹に向って歩いていると、フリジアの表情が段々と変わっていく。
「やっぱりおかしい…」
「どうしたのフリジア?」
「どんどん、草木が枯れ始めてる…大樹に近づいていっているのに、普通大樹に近づくにつれて意気揚々としているはずなの。それなのに…」
――確かに…枯れている草木が多くなってきたな…
「急ごう!なぜか急がなければならない気がする」
「うん!」
それは虫の知らせか…はたまた、人の直感かは分からない。しかし、なぜか感じる――急げ!と。
僕たちは走った。
フリジアは木の枝を伝って僕よりも早く移動する。
僕も全力でフリジアを追った。
「早いなフリジア」
僕は全速力で走っているのだが…突き放されていく、こんなところでフリジアを見失う分けには行かない。
草と蔓…石に生えた苔…水にぬれた土が僕の足の進行を妨げる。
普通の道を走るより明らかに走りづらい、多くの人が通り踏み固められた道とは違い、誰も通らず動物でさえも通らないような道を僕は今走っている。
「僕もあの木を伝ったほうが早いのかな」
しかし、あの高さから落ちれば怪我では済まない。
「このまま行こう、大樹は見えてるんだ、向かう方向さえ分かれば何とかなる」
そして大樹付近まで接近した時、フリジアが立ち止まっている姿を目にした。
「はぁはぁはぁ…どうしたんだ、フリジア!何か見つけたのか?」
フリジアの顔はもともと白く透き通った色をしているのだが、今は血の気が引いた色をしている。
「あれ…」
震えながらフリジアは大樹の方向に指をさす。
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