大樹の調査
もうひと眠りし、僕は自分が何も食べていないことに気が付いた。
「ヘイヘさん、食事をお持ちしました」
タイミングが良いことに、スージアさんは食事を持ってきてくれた。
「あ、ありがとうございます…」
その料理は野菜や木の実を使ったものでとても健康的なものだったが、ほぼ何も食べていなかった僕にとっては最高の御馳走に見える。
「それじゃあ、メイいただこうか」
「そうだね、もうお腹ペコペコ」
久々のちゃんとした食事だった。
食事を食べ終えると、スージアさんがもう1度戻ってきた。
「傷の様子はどうですか?魔法を使用したので直りは早いと思うのですかが」
「そう言えば、あれだけ刺されたのに…今は普通に動く」
「魔法によって自己回復能力を向上させたのです」
――魔法ってそんなこともできるんだ、自己回復能力…僕にも使えないだろうか…
「そんなことが出来るんですね」
「我々の種族は魔法が得意ですから…」
スージアさんは何か難しそうな顔をした。
「どうかしたんですか…」
「いえ…ここの所、魔力の回復が遅いと思いまして」
「魔力の回復が遅い…それってどういうことですか?」
「生き物には多かれ少なかれ、皆魔力を持っています。魔力は魔法を使う時や生体維持に使われているのです」
「魔力は魔法を使うためのエネルギーってだけじゃないんですね」
「人族や獣人族などは魔力をあまり持たない種族ですから、魔力が枯渇することによっての症状は寿命によって出てきます。その点、我々エルフやドラゴン族といった魔力が高い生き物は魔力によって生体維持が出来ますから、寿命が長いのです」
「ちなみに、スージアさんは今おいくつ何ですか?」
「私はちょうど300になります…」
「300!す、すごいですね…」
「エルフの中ではこれでも若いほうなのですよ。この村には1000を超える方も多々おられますし」
「1000…はは、」
――数がすごすぎて言葉を失う。
「しかし、最近1000を超える方たちが次第に弱り始めているんです」
「というと…」
「1000まで生きると身体機能はほぼ魔力によって動かされます。その為、魔力が枯渇すると一気に弱ってしまうのです。ですから、最近魔力の回復が遅いと問題になってまして」
「そんな状態なのに、魔法を使って頂いてありがとうございます」
「いえ、それは私の教育が悪かったものですから…」
「はは…」
――それにしても…どうして魔力の回復が遅くなっているのだろう…僕にできることは無いかな…助けてもらったわけだし。
「あの…何か僕にできることはありませんか?助けていただいたお礼がしたいので」
すると、スージアさんは待ってましたと言わんばかりに
「ホントですか!それなら頼みたいことがあるのです」
――え…なんか展開が速いな…いったい何を頼まれるんだ…
「魔力の源である大樹の調査に行ってもらいたいのです」
「大樹?」
「はい、この世界の魔力は大樹によってほぼ賄われております。大樹はこの世界のいたるところに根を張り、魔力を放出してくれているのです。我々エルフはこの大樹を守り続けることが使命の種族なのですが、今回の件は大樹に何かあったとしか考えられません。本来、我々が調べるべきなのですが、今はそいう状況ではなくて…そこで、ヘイヘ君に大樹の調査をお願いしたいのですが、よろしいでしょうか…」
「そんな大事なことを僕なんかが…」
「君にしか頼めないのですよ」
スージアさんは僕に頭を下げた。
「わ、分かりました。精一杯のことをします」
スージアさんは顔を上げると
「本当ですか!ありがとうございます。では、今すぐ出発の準備を整えますので、ヘイヘ君も準備のほどを」
「はい、分かりました」
そして僕は、ボロボロになった自分の服を着て、立てかけてあった魔剣に手を取る。
――えっと後はナイフ…あれ?ナイフが無いどこにやったんだ…あ!そう言えばあの時…。
「そこだ!!」
――あの時、僕は思いっきりナイフを投げたんだ…そのまま気絶してしまったから、ナイフはまだあの辺にあるのか。早く取りにいかないと。
準備を整え、メイに一言かけておく。
「メイじゃあ、行ってくるよ。そんなに危険じゃないと思うけど。僕が返ってくるまでおとなしくしているんだよ」
「うん、分かった!」
お腹いっぱいになり安心したのか、穏やかな表情を浮かべ僕に笑いかける。
「では、ヘイヘ様こちらへ」
スージアさんとは違うエルフの方が、誘導してくれた。
何ともない普通の部屋を出ると…
「うわ~、こんな所に家が建ってたんだ」
そこは、巨大な木の上だった。
――いくつもの大木が捻じれ絡まり合い、いくつにも枝分が生まれその木の幹は僕の身長よりも何倍も太い…今出た部屋だけでなく、いくつもの明かりが見えると言う事は、ここ以外にも多くの部屋があるんだ。
「すみません、ヘイヘ様いつもなら魔法で降りるのですけど、私には魔力がもう…」
「大丈夫ですよ、自分の足で降りようと思います」
「そうですか、ではこちらの梯子へ」
そして僕は木の上から地上に降り立った。
そこで待っていたのは、スージアさんとあの時の子だった。
「改めてありがとうございます。ヘイヘ君、大樹の調査を引き受けてくれて」
「いえ、助けていただいたんですから当然のことですよ」
「ヘイヘ君だけではどうしても大樹にたどり着くことが出来ませんので、仕方なく、この子を案内役に任命いたしました。すみません、今我々の中で最も動けるのはこの子しかいないのです。ほら、挨拶してください」
「改めまして、私の名前はリーン・フリジアです。よろしくお願いします」
フリジアさんは頭を深々と下げる。
「ほ、本当にあの子ですか…」
「はい、勉強が相当堪えたようで…」
――フリジアさんの眼…なんか死んでないか…
そして僕とフリジアさんは大樹に向けて出発した。
スージアさんは僕たちが見えなくなるまで手を振り続けてくれた。
「今回も頼みますよ…ヘイヘ君」
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