声の主
「どうか助けて欲しい…人族の国が魔族に襲われて、逃げるところが無いんだ!2人ともじゃなくていい、妹だけでもお願いしたい」
「そんなこと、我々には関係の無い事だ」
――その通りだ…人族でも魔族でもない種族にとっては関係のない話…でも、引き返すわけにもいかない。
「そこを何とか、お願いします!」
――何とかお願いしろ…僕はどうなってもいい、でもメイだけは何としてでも助けてもらわないと。
「貴様が私に勝てたら、考えてやろう」
「ホントですか!」
なぜか声の主は勝負を仕掛けてきた。
「お兄ちゃん…」
「大丈夫、何とかするから」
メイを木の近くに座らせる。
「勝負は簡単、私に貴様の攻撃を当ててみろ。私はお前の急所以外を狙い続ける。急所じゃないからって当たったら相当な痛みだ。それでも、私に攻撃を入れることが出来たら。要求を呑もう」
「分かりました!それで構いません」
「では、私はお前の足元に矢を1本放つ。それが始まりの合図だ」
「分かりました」
――なぜ勝負を仕掛けてきたか分からないが、これはチャンスだ…何としてでもこのチャンスをつかみ取らないと。
森の囁きが始まる…
僕の足もとに、矢が刺さった。
「こっちか!」
僕は、矢の飛んできた方向を向く。
しかし、その方向には誰もいない…こうなってしまっては、僕の周りは木、木、木…
僕をどこから狙っているか見当もつかない…
――考えろ、考えろ…相手は僕のことをずっと見ているはず、ならこちらからも相手が見えるはずだ。
注意深く木の陰、草の隙間、木々の頂上…を見るが、相手の影も形も見当たらない…。
すると風を切る音と共に激痛が走る。
「ぐ!」
僕の肩に矢が刺さったのだ。
「こっちか!」
しかし、すでに姿は見えない…
――どうする…このままじゃ、相手を見つける事さえ出来ずに終わってしまう。魔剣に溜められた魔力は残り2発分…この2発で相手を見つけ出し、攻撃を当てる…できれば、相手に僕が魔法を使えることを知らせたくはない。考えろ…考えろ…!
さらに矢が僕の左腕に突き刺さる。
「ぐ!」
すぐに飛んできた方向に視線をやるが…また見つけることが出来なかった。
「どうした、また私の矢が刺さったぞ!このままいったらお前は全身串刺しにされて出血多量で死ぬ」
森全体から声が響く…相手が全方向にいるように感じ、身が固まる。
――何とかしておびき出さないと…疲労も溜まってる、そう何度も全力で動けない…血だって無限じゃないんだ…意識がはっきりしている間に勝負を仕掛ける。
「やるしかない…」
僕は地面に魔剣を突き刺す。
そしてナイフを右手に持ち、全力で走り出した。
「ん?…どこに行くつもりだ…」
僕はナイフで通った道の木に印をつけながら走る。
持っていた木の実に微量ながら魔力を込める…すると、木の実が少し光り出した。
矢が僕の右肩を掠め、木に突き刺さる。
矢が飛んできた方向に、木の実を投げつけた。
魔力過多により木の実は魔石ほどではないものの、音を立てて破裂した。
「爆発物…そんな物を持っていたのか…やはり人は油断できない」
――来い…来い…もっとこっちに注目するんだ…
僕は更に走る。
「ちょこまかと…うっとおしい!」
さっきまで1本だった矢が、2本になり僕の脇腹の服を貫通する。
――危ない…もう少しで当たるところだった…でも、あと少しだ
僕は更に走る。
「もういい、ちょこまかと走り回るだけの人間には興味は無い。次で終わらせてやる…」
「見えた!」
そこには先ほど突き刺した魔剣がある…
ただ無鉄砲に走っていたわけではなく、木に付けた傷を確認しながら、魔剣まで戻ってくるように走っていたのだ。
「これで終わりだ!」
「ぐっ!」
しかし、魔剣が目と鼻の先にある所で僕の左足と右足に矢が突き刺さる。
走っていた勢いのまま僕は地面に倒れた。
「く…クソ…」
――痛い痛い痛い!!!体中が痛くて仕方がない…だが、僕は…諦めるわけにはいかないんだ…!。
両足に刺さった矢を思いっきり引き抜く。
「が!」
痛みで意識が飛びそうになるのをこらえ、走ればすぐそこにある魔剣を血が流れるのをお構いなしに握った。
『ファイアァァアアア!!!!!』
僕は呪文を叫び残り魔力全てを込める。
魔石が豪炎光を放ち、剣身が真っ赤に燃え盛る、大木の生い茂るこの森に日の明かりはまるで届かない…そんな中、魔剣の豪炎光は内側から森の内部を照らす。
そして魔剣から『ファイア』が地面に向かって放たれる。
すると、大量の水蒸気がその場の一帯を囲んだ。
「何だ…どうなってる…視界が、眼くらましか…小作な手を!」
――先ほどまで逃げていたのは地面一帯に水を撒くためだ、急激に温められた水は水蒸気に変わる。『ファイア』によって急激に温められた水は水蒸気となりここ一帯を包み込んだ。
「集中しろ…最後の手段だ。もう魔剣の魔力も残ってない、これを見逃したら…僕は勝てない。矢の動き以外は無視だ…集中しろ」
僕はその場で全方位を見渡す。
――丸見えなんだよ…そんなに動いたら目暗ましの意味がないだろ…
木の陰から人間を狙う。
――ち!狙いにくいな…
私は少し身を傾けた。
その時だった!
「そこだ!」
人間が放ったナイフが私の頬を掠る。
何が起こったのか…分からない…だが、確実に私の頬から鮮血が流れ出している。
「やった…」
人間はその場に倒れ込んだ。
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