森を進む
――アランさんと別れてから、どれくらい経っただろうか。もしかすると、まだ全然、経っていないかもしれない。
こんなことを考えるくらいずっと木しか見ていない…川もなければ、崖もない…歩いても歩いてもあるのは木、木、木…小さな木から大きな木まで色も形もほぼ同じ…いったい何本の木が生えているんだ…
メイは僕の隣を唯々歩いている。
その顔は負の感情でもなければ正の感情でもない…少し疲れが見えてきたかなと言ったところだ。
「あんなに明るかったのに…もう暗い夜だ、そろそろ寝る場所を探さないと…」
僕は森の生き物に注意しながら、眠る場所を探した。
「メイ、ここにしよう」
そして、少し開けた場所を見つけ、今日はここで眠ることにする。
「良し、薪を集めに行こう」
「うん」
二人で薪を集める。
これだけ木があるのだから薪は集め放題、出来るだけ乾燥した薪と細く乾燥した小枝を集める。
薪を集め終え、小さな小枝から積み上げていき、魔剣で火を付ける。
小枝が燃え出したら、大きめの木を上に重ねていき、少しずつ息を吹きかけた。
すると、薪が業火を上げて燃える…火が少し弱まったところで、また薪を加えていく…これの繰り返し。
焚火を二人で囲んだ。
「今日はここで野宿だ、メイは寝ててもいいよ。僕が火の番をするから」
「私も起きてる…」
そう言って、メイは眠さによって垂れ下がった瞼の上から目をこする。
「分かった…」
メイはぽつりぽつりと話し始めた。
「これからどうなっちゃうのかな…」
「分からない」
「人の王国は大丈夫かな…」
「分からない」
「帰りたいよ…」
「僕も帰りたい…」
メイはボロボロになった服を引きずりながら近寄ってきて僕の膝に頭を乗せる。
「どうしたんだい…起きてるんじゃなかったの」
「起きてるよ…」
そしてメイは眠りについた。
僕はメイの頭を優しくなでながら呟く。
「僕が守って見せるから…」
――何度思ってきただろう…父さんが死んだと言われた日から…それとも、母さんが死んでしまった日からか…もう数えきれないほど思ってきた。メイを守れるのはもう僕しかいないと…そう思うと凄く力が湧いてくるんだ。
そして気が付くと、夜が明けていた。
「しまった!眠ってしまったのか」
――まただ…どうして僕はこう夜が苦手なんだろう…いっ!
久しぶりの頭痛だ…座りながら眠ったのがいけなかったのかな…
幸い何も起こっていなかったため、胸をなでおろす。
「どうしたのお兄ちゃん?」
「いや、何でもない。それよりも急ごう、まだどれだけ掛かるか分からないから」
歩き始めて数日。
相も変わらず在るのは木ばかり…水分は何とか魔石から少しずつ魔力を使って飲んでいるが…さすがに何か食べないとそろそろ限界が近いな…
しかし…どんどん森の木が高く大きくなっていく。
森も深くなり、来た道がどちらだったかさえ、分からなくなる。
「お兄ちゃん…怖いよ…」
「大丈夫、何があっても僕が守るから」
歩いて来た道に印を付けてはいるが、これだけ周りが木ばかりだと、どうしても方向感覚がくるってしまう。
「進もう…後ろを振り返ってしまったら。きっとたどり着けない。それに、もう森から出られることもないだろう」
僕たちは更に更に森の奥の方に進んでいく。
最初に見た木からは想像もできないほど大きく成長した大木ばかりになっていく。
「きっともうすぐだよ…頑張ろう」
僕たちはもう体力の限界が近かった。
安心して眠ることもできず、満足の行く食料も得ることが出来ない。
――まだ小さい体のメイにとっては限界を超えているだろう。しかし、立ち止まる分けにはいかない。今、人族が如何なって要るかなんて…関係ない。僕たちが生き残らないと意味がないんだ。父さんは、どのような状況でも、冷静になれって教えてくれた。こんな時だからこそ、冷静に物事を考えないと…。
その時だった。
「ヒュン!」と何かが風を切る音が聞こえた、何処から聞こえたかは分からなかったが確かに聞こえたのだ。
僕はとっさに、メイの姿勢を低くさせる。
頭上を矢が通り抜け地面に付き刺さる。
「弓矢!」
僕はメイを抱きかかえ近くの大木に背中を付けた。
「誰だ!僕たちは敵じゃない。だから攻撃しないでくれ!」
――矢を放ってくるなんて…矢を放てるということはそれほどの知識を持った生物がそこに居るということだ…
「お前たちは誰だ!答えろ!」
木々に反響し、甲高くなった声が森の中を響かせる。
一瞬だけ風がやみ、草木の揺れが収まった時だった。
「僕はヘイヘ…ただのヘイヘだ!」
「ここに何しに来た!人が簡単に来れる場所じゃないだろ!」
――いったい誰が話しかけてきているんだ…
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