勇者と魔族
「はぁ、はぁ、危なかった…つっ!あちゃー、無理したな…」
ジャスの体は無数の焼け跡と、ザハードにつかまれていた腕は骨が折れていた。
「あのオッサン、力強すぎ…は…結局、また殺せなかったな…僕はどうしてこんなに甘いんだろ…」
メルザードのもとへ、旧友のブロードが現れる…
「ちっ!死に底なったか爺…」
「は…どうやらそのようだな…」
ザハードは両腕をつぶされていたが、ブロードに助けられ生きていた。
「ザハード様…無茶しすぎですよ」
「まさか貴様に助けられるとはな…ブロード」
「私の対応が遅かったら、ザハード様は今頃、塵になっていましたよ!」
「爺は死ぬ覚悟だったんだよ…それをお前は…」
「まあ良い、わしが生きているということは、まだ、奴も生きているであろう。メルザードよ…あとは好きにするがいい」
「そんなこと言われなくても、分かってるよ」
首を鳴らしながら、その場を離れていく。
「おい!メルザード自分の持ち場を離れるな!」
「良いのだ、奴の好きにさせてやれ。それにこのままいけば、戦闘は長引く。そうなれば、数の多い我々の勝利が決まるであろう」
「しかし!」
「ブロードよ、わしは少し眠るその間お主が次の指揮を取れ、良いか。これは経験じゃ、これからの若いものを育てる、総司令なりの優しさよ」
「ザハード様…分かりました。私が責任をもってお役目を果たさせていただきます」
「それでよい」
そう言って、ザハード様は眠られた。
「すまない、ザハード様を安全な所へ」
「了解いたしました。ブロード総司令!」
ブロードは魔族兵にザハードを預けると、風魔法を使用しする。
「皆の者聞け!勇者は我がザハード総司令に敗れた!人族よ、降伏するのだ!今降伏するのであれば絶滅はさせないでやろう」
この話は戦場を駆け巡った。
人族は驚きそして悲しんだ…勇者が負けたのかと、魔族は喜んだ、ザハード様は勇者にも勝てると。
人族の指揮は下がり、魔族の指揮は上がった。
「人族よ!魔族の声に耳を傾けるな!あの勇者が敗れるはずはない!勇者を信じるのだ!」
王様の声も風魔法によって届けられる。
しかし…
「勇者が負けたのに、俺たちが勝てるのか…」
人族は脆かった…勇者という支えが負けてしまったかもしれない…破れてしまったかもしれない…と言うだけで体格や魔力量が全く違う、魔族相手に体が震える…さっきまでどのようにして戦ってきたかを忘れたように。
「王様!ここは一時撤退の指示を!」
「やむおえんな…」
風魔法によって撤退の指示を知らせる。
「皆の者一時撤退するのだ、後方で立て直す。皆の者撤退するのだ!」
その声は、怪我をした勇者のもとにも届けられていた…
「はぁ、はぁ、早く戻らないと…みんなの指揮が駄々下がりになっちゃってる…このままじゃ負ける。こんな時に何やってるんだ僕は…」
――あの時…すぐにでもザハードの首を切っていれば、僕にはそれをすることが出来た…だが、実際は切ることが出来なかった。それをザハードは読んでいたんだ、僕が敵の初めの攻撃は魔法だと読んでいたように、敵もまた僕のことを…。
「自分を犠牲にして僕もろとも吹っ飛ぼうなんて…」
――途中で乱入者が来たおかげで僕も何とかあの場を離れることが出来たけど…あのままいたらきっと僕はこの世に居なかったかもしれない…。
「さぁ、弱音なんて吐いてないでさっさと、僕も撤退しますかね。は…!」
ジャスはすぐさま体を横に倒す。
敵の攻撃はジャスの顔をかすめるだけで済んだ。
「見えてなかったと思うんだが…まぁいい、やっとこの日が来たようだな…勇者よ」
「誰か存じ上げませんが…僕は撤退しなければならないので」
ジャスは土魔法を使い地面の土を巻き上げる…
「眼くらましのつもりか…なめるなよ!」
魔族は大木を引き抜き、振り回す。
すると、土が風によって吹き飛ばされる。
木の陰に隠れていたジャスはすぐさま発見されてしまった。
「マジかよ…」
「きさまは俺のことを覚えているか」
少し考えたが…
「ごめん、合ったことあるかな?」
魔族は、『やはりな』という顔をして大木を僕に向って投げる。
「ウオぉ…アッぶない」
大木をまたもやギリギリで回避し、剣を何とか引き抜こうとする。
「本当は万全の状態のお前と闘いたかったが、今は戦争中だ…仕方がない勝たせてもらうぞ!」
「僕もそう簡単にやられる分けにはいかないんだ」
――まずいな、今の状況でこの魔族に勝てるか…逃げるだけなら簡単かもしれないが…そう簡単には逃がしてくれないだろう。もう魔力も回復に使ってるし、早く動いたり、筋力を上げたりといったこともできないぞ。
……奴の状態を見るに、回復で手一杯なのだろう。今なら奴に勝てるかもしれないが…何故だ、どうしてこれほどまで納得がいかないのだ。勝てるのだぞあの勇者に…。
――どうしたんだ全然動かないぞ…それなら今のうちに。ジャスは本部の方へ走る。
……そうか、分かったぞ。俺は戦いが好きなんだ…だからこそ強者を前にして奮い立つ、しかし今回は稀にみる強者だというのに既に弱り切っている。しかも人間だそれに勝っても俺には一切幸福など得ることが出来ない。無駄な戦い…
それに気づいたメルザードは魔族の本部に戻ることを決めた。
――引き返していくぞ…どうしてだ、もしかしたら罠かもしれない。一応警戒はしておこう。
しかしその心配はいらなかったようだ。
「勇者よ!聞け!俺はきさまの本気と戦いたいのだ!きさまを今見逃すのは魔族軍としては大きな痛手だろう。しかし、それでも俺はきさまの本気と戦いたい。戦場で待っているぞ!」
「はは…魔族にもあんな戦闘狂みたいなやつがいるんだな」
僕は最後に残っていた魔力を使って、上空に魔法を放った。
「ふ、そうか…」
メルザードはその日に備える決意をさらに固める。
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