メイとの再会
僕はロープを伝い、下りていく。
迅速に…そしてできるだけ気づかれないようにしながら。
周りを確認し、誰もいないことを確認した後、僕はロープから手を放し、地面に着地した。
――空気が冷たい、地面も少し湿っている…まるで洞窟みたいだな
「何とか…入ることが出来たぞ。後はアランさんに報告するだけだ。これでメイと逃げられる」
僕が闇雲に移動しようとした…その時、僕の首元に光るものが当たる。
僕はすぐさま手を上げ名前を呼ぶ。
こんなことをするのは彼女しかいない、というか彼女しか知らない。
「み、ミーナ。僕、僕だよ…。そのナイフをどけてくれ…」
「生きてたのか…私はてっきりもう死んだのかと思っていたぞ」
――相変わらず、冷めてるよな…
「僕を勝手に殺さないでくれるかな」
「ラーシュはどうした?」
「ラーシュ君は僕の信頼できる人に預けてきた。王国に行く途中にいろいろあって…」
――嘘はついていない。
「本当だろうな…もし何かあったら」
ミーナはものすごい怖いオーラを放ち迫ってくる。
「だ…大丈夫だよ、メイを連れてすぐ迎えに行くから」
「そうか…ならこっちに来い、父様が待ってる」
「分かったよ」
ミーナに連れられアランさんがいる部屋に連れていかれた。
「は~い!アランさんゴロゴロ~」
「わお~ん!」
そこにはうつぶせに転がるアランさんとアランさんのおなかを摩るメイの姿があった。
空気がさらに凍り付く…
――な…なんか想像してたのと違ったな…
「…父様」
「は!」
アランさんはミーナに気づき。
尋常じゃない速度で起き上がった。
「やあ!良く帰ったね、ヘイヘ君」
――何もなかったかのように平然としているが…なんか震えてるぞ。
「お兄ちゃん!お帰り!」
メイは僕に飛び込んでくる。
「ああ、ただいま。メイ、何もされなかったか、危険な尋問とか…」
――見たところ大きな傷も無いが…。
「ううん、別に何にもされてないよ。逆にいっぱい遊んでもらったよ」
「そ、そうなのか…」
僕はアランさんを見る。
「父様が時々どこかに行っていると思ったら…まさかあんなことをされているとは…」
ミーナの顔は、それはもう汚いものを目の当たりにしたようなの表情…
「ま、待ってくれミーナ!メイ君がどうしても撫でたいというものだから…」
――その時のアランさんの動揺した顔はとても面白かった。まあ、ミーナにとっては尊敬していた父さんが尻尾振って喜んでたんだから…無理ないか。
何とかミーナを説得したらしくアランさんは話しだした。
「ヘイヘ君お疲れさま、無事届けることが出来たようだね」
「はい、何とか…でもこれで、メイを放してもらえるんですよね」
「ああ、君たちを解放しよう。もともと君たちに危害を加える気はなかったんだ。君の力をどうしても借りたかったんだよ」
――僕の力を借りたかった…どういうことだ…
「どうして僕じゃなければならなかったんですか?」
「何としてもあの手紙を王国に届けなければならなかった。しかし、私たちを裏切らず途中で投げ出さず、私たちに手を貸してくれる人は中々いない。そこで、君の力を借りたかったんだ、我々を見ても普通に接することが出来る人間、もうこの世界にはほとんど残っていないだろう。君ならば、メイ君を人質にすれば、何としてでも作戦を遂行するだろうと思ったんだ…例えどんな手を使っても」
――確かに…メイを人質に取られたら僕は、どんな事でもしてしまいそうだ
「もし…僕が失敗していたらどうしていたんですか!」
「確かに、その可能性も捨てきれなかったが、私たちは君を信じることにした」
「買いかぶりすぎですよ…」
「だが、君は見事に作戦を成功させた。誇りに思っていい」
――誇りに思っていって…
「ありがとうございます…」
「君にこれを返しておこう」
アランさんは僕に魔法の袋を返してくれた。
「良かった…これがないと」
――この中にはメイの教育費が入ってるんだ…今この状況では学校どころじゃないけど。
「次に、これを…」
アランさんは僕に腕輪を手渡す。
「これは?」
「それは、獣人族ウルフ家に認められたものが受け取れる、特別な腕輪だ。これがあれば獣人国に自由に出入りすることが出来る」
「あ、ありがとうございます…」
――人が獣人国に行ってもいいのか…あんな、身体能力化け物みたいな種族の国に。
「大丈夫なんですか、人が獣人国に行っても…」
「大丈夫、獣人国の住民は比較的、人のことが好きな者が多いんだ。まあ、酷く人族を嫌うものもいるけど心配ないだろう。きっと周りのものが助けてくれるはずだ」
「そうなんですか…なら、いつか行きたいと思います」
「この戦争が終わったら、ぜひ来てくれ。その時は歓迎するよ。まぁ、何方の種族も残っていればだけどね」
「そうですね…」
「今生きていることを喜び合おうじゃないか」
「それもそうですね。クヨクヨしても仕方ないですし」
アランさんと握手を交わす。
「ヘイヘ、良いか。必ずラーシュを迎えに行け!そして、この戦争が終わったら、獣人国に連れてこい。私はまだお前を認めたわけじゃないからな。ラーシュを国に連れて帰ってきたときに、お前のことを認めてやる」
――何とも上から目線な発言だなぁ…
「ああ、分かったよ。ミーナ、必ずラーシュ君を連れて帰る」
「そうか、あと…ホーンラビットの肉も忘れるなよ!」
――お肉大好きだもんな…
「ああ、分かってるよ」
「メイ君にも怖い目に合わせてしまって済まない」
「私は大丈夫だったから、気にしないで。お父さんの行っていた通り、獣人さんは優しいって分かってよかった!」
アランさんは泣きそうになりながら、メイと握手を交わした。
「父様しっかりしてください!」
「いや、すまない…ちょっとうれしくてね。それじゃあ、私たちが、君たちを安全なところまで送ろう。こっちへ」
招き入れられたので、僕はアランさんに近づく。
メイはミーナと一緒だ
「それでは行くぞ!」
「へ?」
アランさんに抱きかかえられ、ものすごい衝撃と共に体が浮き上がる。
一気に天井を突き破り、跳躍したようだ。
「うわ~凄~い!お兄ちゃんが飛んでちゃった!」
「メイはこっちから行こうね」
アランさんに抱きかかえられ、僕は宙を舞う。
「う、うわあぁぁ!た、高い!高い高い!あ、アランさん!高すぎませんかぁぁぁ!」
「大丈夫大丈夫、これくらいの高さならどうってことない」
――もしかしてこの方、頭おかしいのかな!!
…そして王国とは違う方向の出口に連れていかれた。
「私たちができるのはここまでだ。この道を真っすぐ行けばいずれ、エルフの国に着く」
「エルフの国?どうして、エルフの国なんですか?時間はかかるにしても、大回りして王国内に行った方が得策だと思うんですけど…」
――それに、ラーシュ君を迎えに行かないと…
「エルフは昔から交流がありよく知っている。あの者たちは無駄に殺しをしない、こちらが無害だということを主張できれば、保護してもらえるはずだ。それに、今…王国に戻っても意味はない…」
「『意味はない』ってどういうことですか?それに、王国付近にはラーシュ君もいるんですよ。僕は約束したんです、『必ず迎えに行く』って!」
「ラーシュのことは気にするな、必ず私たちが連れて帰る」
「そんな、いまさらそんなこと言われたって」
「父様の言う通り、ラーシュのことは気にするな。もともと我々の同胞だ。人には関係ない」
「ミーナまでどうしてそんなこと言うんだ!ラーシュ君を置いてきたのは僕の責任なのに…」
――さっきと言っていることが違うじゃないか…ミーナは僕にラーシュ君を助けろって言ってただろ。
アランさんは僕の肩に手を置くと
「ヘイヘ君、今重要なのは君たちが生き残ることだ。君がこれから急いで王国に走ったとしても10日以上かかるだろう。私たちなら数日、全力を出せば1日で到着する。王国に侵入する際も…今は戦争中だ、混乱に応じて紛れ込むさ。つまり、君より我々の方が確実にラーシュを保護できる。ラーシュ以外にも王国内で閉じ込められている同胞を保護する。君にはこれができるのか?」
――悔しいがそんなことはできない。ラーシュ君を連れて戻ってこれるかさえ怪しい。
「分かりました…ラーシュ君をお願いします」
僕は深々と頭を下げる。
――アランさんとミーナには僕の頭しか見えていないだろうが、今の僕の顔は悔しさと情けなさで染まっている。
「ああ、必ず保護する。そして、必ず獣人国に連れて帰る。この戦争が終わったら、ぜひ獣人国に訪れてほしい。君たちを歓迎するよ」
「はい、必ず」
――ラーシュ君、僕が次に君とあったらきっと『どうして僕を置いていったんですか!』と怒るだろう、その時僕は誠心誠意を込めて謝ろうと思う、だからどうか無事でいてほしい。僕は迎えに行けないけど、アランさんたちが迎えに行くからきっと大丈夫だ。
「それじゃあ、僕たちはエルフの国に向います」
メイと手を繋ぎながら示された方向に歩いていく。
「気を付けて…ん?ミーナどうしたんだ」
「いえ、ただ…昔あった時よりも男らしくなっていたと思いまして…」
「そうだね…確かに。さてと、我々の仕事はまだ終わっていないよ、今の戦況報告を!」
「了解!」
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