リーシャ
「ラーシュ、お前はヘイヘ君をしっかりと見張っておくんだ。彼のことだから心配はないと思うが、万が一裏切るようであれば、確実に彼を殺すんだ。分かったかい?」
僕の頭の中でグルグルと考えが駆け回っていることに気が付いた。
そして僕は目を覚ます。
しかし、そこはベッドの上だった。
「ここは…」
ふかふかのベッドの上、とても心地が良かった。
でも少し寂しかった、最近はいつもヘイヘさんと一緒に寝てたから。
「あ、ようやく起きたのね、ラーシュちゃん」
僕はとっさに起き上がり、戦闘態勢に入ろうとしたが、うまく立てず、その場に倒れ込んでしまった。
「ダメよ、まだ動いたら、血を流しすぎちゃったんだから、今は安静にしないと」
「あの、誰ですか、ヘイヘさんはどこに…まさか僕を置いて」
「心配しないで、私はあなたの敵じゃない。ヘイヘ君が傷を負ったあなたを勇逸助けられるこの場所に連れてきたの」
そうだ、僕はあの時…ヘイヘさんを庇ってウォーウルフに嚙まれたんだ。
それを思い出し、傷受けた場所を見るが
「あれ、傷がない…どうして」
ウォーウルフの大きな牙が僕の腕にしっかりと刺さっていたと思うんだけど…
「ラーシュちゃんの大切な体に傷を残すなんて…私にはできなかったわ」
そう言って彼女は笑う。
僕は何をされたかを察すると恥ずかしさで顔が熱くなるのを感じた。
「気にしなくていいのよ」
僕は下を向き頷く。
「私、ヘイへ君に言われたの、『僕がやらなければならないことが終わったら、ラーシュ君を迎えに来ます』ってね。だからきっとヘイヘ君にはまた会えるはずよ。それよりも、ここから早く出ましょ。安全なところまで避難してほしいってヘイヘ君にも言われたからね」
そう言って、彼女は大きなカバンにいろんなものを詰めている。
「僕はどれほど眠ってたんですか…」
「そうね10日くらいだと思うわ」
「10日も!それじゃあ、今から走ってもヘイヘさんに追いつけない…」
僕は、今すぐにでも走り出してヘイヘさんのもとに向いたかった。
「心配しなくても大丈夫よ、きっと彼なら生きて帰ってくるわ。それよりもあなたが生き残るほうが大切よ」
ヘイへさん以外で初めて、人族が僕に優しい言葉をかけてくれた。
「それも…そうですね」
僕は1度冷静になり、状況を把握しようとした。
「それじゃ、私は出発の準備をするから、もう少しそこで眠っててね」
そういうと彼女は部屋から出ていった。
「どうしよう…ここから僕、何をしたらいいんだ。アランさん、ミーナお姉ちゃん教えてください」
そう願ったが2人はここにはいない答えを教えてくれる人は誰もいなかった。
「ヘイヘさん、どうして僕を置いて行っちゃったんですか。あの時は僕を守るって言ってくれたのに…」
心では分かっていた。
ヘイヘさんは、これ以上僕の身に危険なことが起こらないように、安全な場所にとどめておいた方が僕のためになると考えてくれたのだろう。
「それでも僕は…ヘイヘさんと一緒にいたい」
僕は分からなかった…どうしてあれほどまで憎んでいた人をこんなにも求めてしまうのか。
僕は、ヘイヘさんの傍にいたくて仕方がなかった。
「ヘイヘさん、今度会ったら許さないですからね…」
僕は、再開した時のお説教を考えながらもう一度眠りについた。
私は、ラーシュちゃんが目を覚ましたのを確認した後、安全に避難するために準備を進めていた。
その時
『コンコン』
ドアを叩く音が聞こえた。
ドアを開けると、そこには顔見知りの姿があった。
ここに頻繁にやってくるのは1人しか知らない。
「何だ、ジャスか…」
「『何だジャスか』はないだろ、愛する人に会うためにわざわざこんなところまで来てるのに。それで、ヘイヘ君は来たかい?」
「いや、まだ来てないの、何かあったのかしら」
「僕は、先日彼と別れたっきり会ってないからな」
「もしかして、ヘイヘ君と会ったの?」
「ああ、君に教えてもらった後、オークに襲われているヘイヘ君に合ったんだ。ヘイヘ君を助けて、王様に合ってきたよ。ずっとここに居たいけど、そうもいかないみたいでね、すぐに戻らないと」
「そう、気を付けてね」
「君もね、僕が魔法を張ってあるこの付近は比較的安全だと思うけど…君たちもできるだけ安全なところに逃げるといい」
「それは分かってるんだけど、ちょっと問題があって…」
「そうか…なるほど分かった!僕に任せて」
そういうとジャスはおもむろに部屋に入っていき、眠っているラーシュ君のもとへ向かった。
「ちょっと…何するの!さっき目を覚ましたばかりなのよ」
「君の問題っていうのはこれだよね…」
そう言うとジャスは、ラーシュちゃんの頭に手を置くと何かを言い始めた。
「ちょっと…何するき!何か変なことをしたらただじゃ置かないんだから!」
ジャスが安心したように手をどける。
「良し!これで大丈夫」
「あっ…」ラーシュちゃんからふさふさの耳と尻尾がなくなっている。
「これで人の中に紛れても大丈夫。解除方法は君に教えておくよ。万が一僕に何かあった場合、魔法が溶けちゃうかもしれないから気を付けてね。ふふ、ヘイヘ気づけるかな」
そう言って、ジャスは笑う。
「ジャス、ありがとうね」
「君のためなら僕はなんだってするよ」
ジャスはそう言って威張る。
「まさか…あなたが勇者になるなんて、昔はみじんも思ってなかった」
「僕だってそうさ、本当なら僕以外の人に変わってほしいんだけど、どうやら無理みたい」
「大丈夫、貴方ならきっと出来る。私が保証してあげる」
「はは、ありがとうリーシャ、それじゃあ僕はそろそろ行くよ。あ、でも1つだけお願いをしてもいいかな」
「何?」
ジャスはリーシャの前に立ち腕を広げる。
「リーシャを抱きしめさせてほしい!」
「随分と直球ね」
「今回は無事に帰ってこれるか分からない。だから僕の夢を叶えてほしい!」
「ここで夢が叶ったら、貴方はきっと戦えないわ。だから次帰ってきたらあなたの夢をかなえてあげる」
私はそう言った。
ジャスの顔は悲しそうな…また、気合いに満ち溢れたような顔をしていた。
「分かったよリーシャ、僕は必ず帰ってくる。だから待っててくれ」
「ええ、待っててあげるわ。貴方には友達が少ないものね」
「そ、それは関係ないだろ」
そういうとジャスは王国に引き返していった。
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