ウォーウルフ
気づくと陽光が差し込む朝になっていた。どうやら僕は気づかぬうちに寝てしまっていたらしい。
ボーっとしたまま、眼元を手で無意識に擦っていると、意識がはっきりとしたので周りを見渡す。
胸に手を当て、手紙があるのかを確認した。
「よ、良かった。手紙はある」
――まさか寝てしまうなんて。その間に何かあったら取り返しがつかない所だったぞ。気を付けないと。
「おはようございます。ヘイへさん、薪と木の実を取ってきました」
ラーシュ君は僕から離れ、ボロボロの服を上手く使って木の実を、脇に薪を挟んで持って来てくれた。
「お、おはよう。ラーシュ君、僕が寝ていたなら起こしてくれてもよかったのに」
「ヘイへさんも疲れていたはずですし、起こすのは可哀そうだと思ったんです」
実際、僕は結構な疲労が溜まっていたからすごくありがたかった。
「ありがとう。おかげでだいぶ楽になったよ」
「それは良かったです」
ラーシュ君は優しい笑顔を向けてくれた。
――少しは打ち解けられたかな。
「よし、それじゃあ、今日の夜を見越して最低限の食料を確保しながら王都まで進もう」
「はい!」
昨日は、僕の人生の中でも相当辛いことの連続だったから今日生きていることが不思議に思えてきてしまう。
「今のところ順調に進めているな、これならきっと何事もなく王都までたどり着けるだろう」
しかし、森の中はそれほど甘い場所ではなかった。
「ん!」
ラーシュ君が何かに反応したらしい、モフモフの耳をピンと立てながら辺りを警戒する。ゆっくりと動いて茂みに向かった。
「ヘイへさん、見てください。ウォーウルフです。一頭でいるところを見ると、群れからはぐれたか、一頭で行動しているのかのどちらかだと思います」
確かに、僕の視界の先にはウォーウルフがいる。ウォーウルフはまだこちらに気づいてはいない。
その体は結構な大きさだ。優に一メートルはある。あの鋭い牙が沢山ついた口で噛みつかれたらひとたまりもない。
僕はウォーウルフを見ること自体初めてのことだったため、どのように対処したらいいのかわからなかった。でもラーシュ君がいろいろと教えてくれたので、その通りにやってみることにした。
「ヘイへさん、あのウォーウルフを倒しましょう。ウォーウルフの毛皮や牙は高く売れますし、肉も硬いけど食べられます」
確かに昨日、木の実しか食べられなかった僕たちにとって肉はとても貴重な食料だった。
「よし、やろう!」
僕はこの時、冷静な判断が出来ず、安直な判断を下してしまった。
「ぼくがお取りになりますので、ヘイへさんはウォーウルフの死角に入ったら、合図してください。ぼくがウォーウルフの注意を引きます。そのうちにウォーウルフを仕留めてください」
「わ、わかった」
僕はラーシュ君の指示で、ウォーウルフに臭いで気づかれないように風の流れを考えながら草木の間を縫って動き、死角に入った。
死角に入ったことを知らせるために、手を上にあげる。
するとラーシュ君はウォーウルフにわざと気づかれるように大きく動く。
「ほ、ほら、こっちだよ~」
ウォーウルフはラーシュ君の方に集中している、今なら僕の剣でも攻撃があたるかもしれない。
そう思い一歩踏み出し、頭上から剣を振りかざす。
しかし、ラーシュ君が何か僕に言っているような気がする。
「ヘイへさん、後ろです!」
そう聞こえ、前に集中しすぎていたせいか、後ろへの警戒を怠っていた。
背後を見ると、僕の首元を狙って攻撃する三頭のウォーウルフがいると今になって、ようやく気が付いた。
「グッゥ!」
僕は身をひねって上半身をすぐさま後ろに回転させ、縦に振りかざしていた剣を真横から薙ぎ払う。
二頭のウォーウルフに攻撃を当てられたが、一頭に交わされた。
残った一頭は体勢が崩れた僕の首めがけて鋭い牙をむき出しにしながら襲い掛かってくる。
体勢が崩れていた僕は魔剣を振り抜きすぎてすぐに戻せず、ウォーウルフの攻撃に対処が出来ない状態だった。
どうすることもできず、死を実感しながら、メイに申し訳なく思っていると。
「ヘイへさん!」
そう言って、僕よりも小さなラーシュ君がウォーウルフの前に飛び出して来た。
「ラーシュ君!」
「大丈夫ですか……ヘイへさん。すみません……、どうやら、あのウォーウルフは群れで行動していたようです。敵の作戦に引っかかってしまうなんて情けないですね……」
ラーシュ君は腕を噛まれ、大量に出血している。細い腕なのにどうしてそんなに血が出るんだと思うほど真っ赤な液体が地面に滴っていた。
「すみません、もう一頭のウォーウルフをお願してもいいですか。まだ、ぼくたちに襲い掛かっては来ていませんが、いつ襲い掛かってきてもおかしくないので」
そんなことよりも今はラーシュ君の方が大変な状態になっている。
しかし、この状況を抜け出すにはウォーウルフを撃退または追い払うしか方法がない。
「わかった、こっちは任せて!」
僕は根拠のない返事を送る。勝つ自信なんて無いが、勝たなければ食われるだけだ。
「はい……、よろしくお願いします」
僕はもう一頭のウォーウルフに集中する。よく見ればこの一頭だけ色が少し違う気もするが、今はどうでもいい。
「さあ、来るなら来い。さっきは不意を突かれたが、今ならもう大丈夫だ!」
今にでも戦おうとしていた時だった。巨大な爆発かと思うほど大きな音が森の中に響き、木々の葉が大きく揺れるほどの振動が地面から伝わってくる。
僕は驚き、後ろを振り向くと噛まれていた腕をウォーウルフ事、地面にたたきつけるラーシュ君の姿があった。
地面に叩きつけられたウォーウルフは無残な姿に変わり果てていた。
その姿を見た、もう一頭のウォーウルフは冷静に判断し、その場を立ち去っていった。
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