仲間?
「では、行くがいい」
アランさんがそう言うと、大岩が持ち上がりさっきまで閉じていた出入り口が再び開いた。
「では、メイをよろしくお願いします」
僕はやるしかないのだと……覚悟を決めた。たとえ、敵の罠だったとしても、人族と闘うことになったとしても、メイだけは何が何でも守らなければならない。
万が一、僕がアランさんの仲間を切ったと知らされれば僕が裏切ったと判断される。そうなったらメイが殺される……。
相手を切ることだけは避けなければならない。
身の危険があったとしても魔族、獣人族と戦ってはダメだ。逃げる、和解、拘束のどれかが対処方法の候補になってくるだろう。
僕の身にこの先何があるかわからない。でも、生き残らなければならないんだ、メイを一人にするわけにはいかない。
「やあ、結構話し込んでいたね」
さっき会った獣人の男が大岩を持ち上げていた。軽々持ち上げており、岩が紙で出来ているんじゃないかと錯覚してしまう。
「そうですね、僕はあまり話したくありませんでしたが」
「それじゃ、出口はこっちだよ」
獣人の男は大岩を下し、出口がある方向を指さす。
僕は反発せずに獣人の男が指さす方向にゆっくりと歩いていった。
「階段?」
そこには人がちょうど入れるほどの幅が開いている階段があった。
「その階段を上っていけば、地上に出られるよ」
僕は地上にいるものだと思っていたが、実際は地下にいたらしい。
「よし、行くぞ」
僕は手作り感満載の土の階段を上り始めた。
「いったいどれだけ深く掘ったんだ」
視界が悪く、先が見えない、階段を一歩ずつ着実に上っていく。
「よかった、光が見えた」
数十段、階段を上ったところでようやく、地上の光が届く場所まで到着した。光を見ると足取りが嫌でも軽くなる。
「ようやく地上だ……う!」
その時、殴られたような頭痛がした。前回ほどではなかったが、やはりこの頭痛には慣れない。
数秒で頭痛は治まり、簡易的に閉じられている蓋を開ける。そして、僕は地上に出た。
「な、なんだこれ」
出た場所はおそらく冒険者ギルドがあった場所だろう。
「街が……、こんな滅茶苦茶になるなんて」
建物はすべて崩れ去っている。少し前まで地平線なんて全く見えなかったのに……、
「あの店も、あの店も……」
すべて無残に破壊されている。
「う……、こ、これは」
魔族が殺したのか、食ったのかわからない。人間の死体がそこら中に散らばっていた。
地面もどれだけの血を吸ったのかわからないほど赤く染まっている。
肉が腐敗した臭い、血の嫌な生臭さが鼻に直接入ってくる。目が染みるように痛むほど、空気が悪い……。
「子供や女性も関係なしに、こんなことが出来るなんて、狂ってる」
もしかしたら自分たちもあのようになってしまっていたかもしれないと考えると、冷や汗が止まらなかった。
吐き気を催しその場に吐いてしまいそうになるのを何とかこらえた。
「ここで……こんなんじゃ、メイを守るなんてできない。覚悟を決めたんじゃなかったのか」
僕はゆっくりと歩き出す。血液が靴に染み込み足取りが重くなる。
恐怖に震えながら、魔剣とナイフに手を当て、王都につながっている門まで歩いていく。
門まで歩いていくと、見覚えがある者が待っていた。
「ミ、ミーナどうしてここに……」
「あんたが逃げないように、出発地点で待っていた」
「に、逃げないよ! まず、逃げたとしても、君の足から逃げ切れるとも思ってない」
「それもそうだ」
ミーナは涼しい顏で頷く。改めて言われるとなんか悔しい。
「私は、父上の傍にいなければならない」
良かった、ミーナとずっと一緒にいたら気がめいってしまうよ。
「私の代わりに、こいつを連れていけ」
「?」
ミーナの後ろからミーナよりも小さい獣人族の子供が出てきた。
服はボロボロ、ふさふさの耳と尻尾が付いている。その尻尾は恐怖からか下を向いていた。
「こいつは、ラーシュ。この街を攻撃した時、街の奴隷商で売られていた奴だ」
「そ、そうなんだ、でもどうして」
「ここは、魔族と獣人族がはびこっている。獣人族の大人は子供に厳しいからな、魔族に合ったら食い殺されるかもしれん。それならまだ、お前といたほうが安全だろう」
「で、でも、僕もそんなに強くないし……」
自分で強くないと言うと男としてすごくむなしい。
「お前が強いか弱いかはこの際どうでもいい。それにさっき父上に『妹を守れるのは僕しかいない』ってほざいていたじゃないか。なら、ラーシュも守って見せろ」
確かにそうだ。実際、ミーナがいなかったらメイは大岩に挟まれてとっくに死んでいた。
「わかった。きっと守り抜いて見せる」
「そうか、頼んだぞ」
「ラーシュ君、さぁ僕と一緒に行こう」と僕は手を差し伸べる。
しかし……、
「い、いやだ! ひ、人は怖い……」
きっと相当嫌な目に合ったのだろう、ここまで怖がられるとこっちが悪物みたいに感じてしまう。
「ラーシュ、心配すな、こいつは普通の人族とは違う、変わったやつなんだ」
――変わったやつて……、どういうことだよ。
「でも…ミーナお姉ちゃんと一緒にいたい」
「それはできない、私はもっと厳しい戦いに行かなければいけないんだ。そんな危険なところにラーシュを連れていけない」
「でも、でも……」
「私についてきたいというなら、私を倒して自分が強いということを証明しろ」
「う、うう……」
いやいや、さすがに、この子がミーナに勝てるとは思えないけど。
「わ、わかった! ぼく、戦うよ」
え、え……。ちょっと待って。ミーナは絶対に強いよ。勝てっこないよ。
「そうか、なら始めよう」
ミーナは少し離れたところで拳を構える。
「行くぞ!」
「うん!」
「ちょっと、待てってば!」
僕の声を聴く気がないミーナは地面が抉れるほどの強さで走り出し、目にもとまらぬ速さで蹴り込んできた。
僕は思わず、ラーシュ君の前に立ちふさがった。どうしてこの時体が動いたのか分からないが……、あ…死んだ。
そう思った……。しかし、ミーナの蹴りは僕の顔寸前で止まり、風圧で吹っ飛ばされた。
「ふ~、第一関門突破だな」
「第一関門?」
情けなく倒れている僕はミーナに聞き返す。
「そうだ、お前がラーシュを守ろうと行動できるかが、第一関門だ。私は、もともとラーシュを蹴るつもりは全くなかった。ラーシュにも協力してもらって、お前の覚悟を試させてもらったというわけだ。人族は口先だけの奴が五万といるからな。その点お前は、やはりほかの人族とは違うみたいだな」
「それはないよ……。僕は『死んだ』って思ったんだから」
「蹴りの風圧で吹っ飛ぶような非力さは何とかしてほしいが、まあ及第点だろ」
ミーナの後ろから、軽い笑みを浮かべたラーシュ君が走ってきて「助けてくれてありがとうございます」と言い、手を差し出してくれた。
「はは、こんな格好じゃ、どっちが助けたかわからないな」
僕はラーシュ君の小さな手を取り立ち上がる。
「ラーシュ、もし死にそうになったら全速力で逃げろ、こいつは置いてけぼりでも構わん」
「わかりました。全力で逃げます」
「ちょっと、どういうこと」
「ラーシュは全力を出せば、一時だけ私よりも速く走れる」
「スゴい……」
――僕がラーシュ君をちゃんと守れるのかな。今から不安になってどうする。やり切らないとメイが殺されてしまうぞ。
「それじゃあ、行ってくるよ」
砂埃が付いた服をパンパンと叩き、気合いを入れる。
「ああ、死ぬなよ……」
「え……、何て言ったの?」
上手く聞き取れなかった。何かものすごく惜しいことをした気がしてならない。
「何でもない、さっさと行け!」
「は、はい」
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