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Re:フレンドワーズ ~家名すらない少年、ディストピアで生きていく~  作者: コヨコヨ
終わりから…始まり:ヘイヘ少年偏

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檻の中

「お兄ちゃん! お兄ちゃん! 起きてよ!」


 メイの透き通るような美声が頭の中でガラスを震わせるように響く。

 メイの声に反応するように目を覚ました僕は、ゆっくりと起き上がった。手足に縄が付けられており、上手く動かせない。メイも同じく手足を縛られた状態だった。

 辺りを見渡すと洞窟のような土製の壁が見える。加えて硬そうな金属の檻に入れられている。


「お兄ちゃん! よかった!」


 相当心配してくれたのだろう。メイの綺麗な黒い瞳には大粒の涙が滲んでいた。


「メイも無事でよかった。大岩が振ってきたときは、もうだめかと思ったよ……」


「私もいきなり大きな岩が振ってきて動くこともできなかった。でもお姉ちゃんが助けてくれたの……」


 ――そうだ、僕は大岩の前で、ミーナに気絶させられたんだ。


「そのお姉ちゃんはどこに行ったか、メイはわかる?」


「ううん……わからない……」


「そうか……。メイを助けてくれたお礼を言いたかったんだけどな」


「別に助けたつもりはない」


 獣族で狼耳が特徴的なミーナは僕の後ろに音もなくいきなり現れた。檻越しに立っており、僕を鋭い瞳で睨みつけている。


「う、うわぁ! いきなり出てこないでよ。驚くじゃないか」


「父上がお前とこれからの話がしたいと言っている。来い」


 ミーナは淡々とさも仕事だと言わんばかりに僕に話しかけてくる。数回会った仲だと言うのに物凄く冷たい対応だった。


「その前に手足を縛っている縄を外してくれないか。僕とメイは逃げる気力すらないんだ。僕の拘束を解くことが無理なら、メイの縄だけでも外してほしい」


「………少女の縄を外してやれ」


「は!」


 ミーナは男の狼族に命令すると、鉄製の檻を開け、メイの縄を外してくれた。


「ミーナ、ありがとう」


「礼など必要ない。お前はさっさと来い」


 ミーナは檻の中に入って来て僕の足を縛っている縄を手で引き千切った後、僕の腕を掴んで立ち上がらせてくる。

 僕は手を背中の後ろで縄で縛られ直し、ミーナの前を歩かされる。

 でも、チラチラと後ろを振り返りながら暗い顏をしているミーナに話しかけた。少しでも現状が知りたい。そう思ったのだ。


「村はいったいどうなったんだ。街は、街の人達はどうなったんだ」


「今、お前に教えなくてもいずれわかる」


「大岩が落ちて来たとき、ミーナならメイ以外の子供も救えたはずなのに、どうして救わなかった」


「必要がないことだからだ」


 ――ミーナはこんな子だったのか。いや、僕が知るミーナはもっと感情豊かだった。肉を食べてるときなんて、世界で一番幸せそうな顔で食べていた。それなのに何なんだその顔は、感情を殺した人形のような表情で喋って……。


「どうして変わってしまったんだ」


「私は何も変わっていない。数回しかあったことがないお前に、私の何がわかる」


「はは……、それもそうか」


 結構な距離を歩いたと思うが目的地に一向につかない。


「ここで待て。逃げるなよ。逃げたらあの少女を殺す」


 それだけ言うとミーナは音もなく僕の目の前からいなくなってしまった。


 ――大きな壁のような、岩のような、よくわからない場所の前で待つように言われたけど。僕がここに連れてこられてから、どれだけの時間がたったのだろう。


「勇者は何をやっているんだ……」


 僕は見たことも無い勇者相手にイライラしていると、後方から男の声が聞こえた。


「さぁな、一人でガタガタ震えているんじゃねえの」


 話しかけられたので僕は後ろを振り向く。ミーナと同じ狼族で男性だった。やはり獣族の男性は筋骨隆々で僕の体の二倍はある。肉体が鎧とでも言いたいのか、驚くほど軽装備だった。短パンと半そでの服、革製の防具を着ていなかったら酔っ払いのおじさんと同じ格好だ。


「お~こわ、ミーナ様が頭領の場所にお連れしろっていうから来ただけなのに、そんな怖い顏せんといて」


 ――誰だ。いきなり僕の後ろから現れたぞ。


「まあ、いいや。今から頭領の部屋を開けるから」


「部屋?」


 獣族は岩の下に手をやり、全身に力を込めた。


「ふっ!」


 すると、目の前にあった大岩が持ち上がり、奥に部屋の入口が見えた。


「はは、嘘だろ……」


「どうだいすごいだろ。大岩を持ち上げるなんて人間にはできないと思うよ」


 ――できるわけないだろ。どれだけの大きさがあると思ってるんだ。


「さあ、頭領はこの先だ。頭領のもとについたら合図をしてよ、もし途中で合図をしちゃうと君がぺちゃんこになっちゃうから気を付けてね」


 ――この獣族ならやりかねないな。


「わかりました、気を付けます」


 僕は潰される覚悟を持って大岩の下を通る。

「ダル、ダル、おーいダル。起きろ!」


 ダルどこか聞き覚えがある声を聴いて目を覚ます。メルザードを切りつけたことを思い出しその場で飛び起きた。


「奴は、どうなった。私はどうなったんだ……」


 周りを見渡すが何も見当たらない。さっきまで見ていた魔族軍の姿も、死闘を繰り広げたメルザードの姿も。何もなかった。


「ここはいったいどこなんだ……」


 状況が理解できず、力なくその場に座り込む。


「ここはあの世とこの世の狭間みたいな所だ」


 聞き覚えのある声の方を振り向くと、そこには忘れられない顔が見えた。


「カイヤ!」


 ダルはすぐさま立ち上がり、憎たらしいカイヤの顔面を両手で掴む。


「ほんとにカイヤなのか。いや、だがどう見てもカイヤの顔に見える……」


「おい、放してくれ」


 ダルの手によって無様な顔をしているカイヤが、自身の手でダルの手を振り払った。


「すまない、あの時以来だからな」


 ダルは戦友との再会に目頭が熱くなる。


 ――本物のカイヤだ。見間違えるはずがない。この声も何度聞いたことか……。


「私は死んだのか……?」


「ああ、お前がここに来たという事は、現実世界で死んだ。それだけは紛れもない事実だな」


 カイヤは現実を突きつけるようにためらいなく言った。


「そうか……、私は死んだのか。死んだのは悲しいが、何かすがすがしい気分だ。それにしても、あっちで光っているのは何だ?」


 辺りを見渡すが何も見えない、ただその光に沿うよう、道が一本存在しているだけだった。

 道の先には、その先がどうなっているかわからないほどの光量で何も見えない。しかし、その光の中へ入ってしまったのなら最後、もうこの暗い空間には戻れないというのがなんとなくわかった。


「そこに行けば神に会える。そして死んだ事が確定するらしい。まあ、天と地のどちらかの場所に連れていかれるそうだ」


「お前はどうしていかないんだ?」


 ダルはこの場にただひとり残っているカイヤを不思議に思い聞いてみる。


「妻を待っているんだ」


「!?」


「どうかしたか?」


「いやなんでもない」


 ――おかしい、カイヤの妻、マイアさんは数年前に亡くなっている。ここがあの世とこの世の狭間なら誰しもが通るはず。きっとマイアさんもこの場所に来たのだろう。カイヤはその時に気づかなかったのか。いや、こいつがマイアさんを見逃すわけがない。

 それじゃあ、マイアさんはこの場所に来ていないということか。つまり、マイアさんは死んでいない……。そんな事はあり得ない。私はこの目でマイアさんの命が尽きるのを見た。それに、カイヤとの思い出の場所へマイアさんを埋めたのも私だ。いったい、どういうことだ。

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