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Re:フレンドワーズ ~家名すらない少年、ディストピアで生きていく~  作者: コヨコヨ
終わりから…始まり:ヘイヘ少年偏

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戦争

「う、う……」


 僕は頭を抱えながら今までのことを思い出す。


「僕は病院に向かっていたはず……」


 僕が気づいた時には、既にベッドの上だった。思い出そうとしてもなぜ自分がここにいるのか記憶がない。


「ここは……」


 僕は今の状態が全く理解できない。なぜ、ここに居るのだろうか。


「意識が戻りましたか?」


「え……」


 僕に声を掛けた来たのは白衣を着たお医者さんのような人だった。

 いや、どう見たってお医者さんだ。しかし、僕はそれがすぐにわからない程、頭が混乱していた。


「僕はどうしてここに?」


 記憶が曖昧なため、事情を知って良そうなお医者さんに聞いてみる。


「ドワーフの方が連れてきてくださったのですよ」


「ドワーフの方……。エルツさん」


 ――この街でドワーフはエルツさんしかいない。


「そうか、エルツさんが僕を助けてくれたのか」


 なぜか心が無性に温かくなる。


 ――最後に会ったあの日から顔を合わせる機会が無かったからから『ありがとう』の一言でも言いたかったな。


「では、意識が戻ったということで、このベッドを開けてもらえますか。もうじき、死地のような光景がこの場所一帯に広がるでしょうから。あなたも、できるだけ遠くに逃げるといいですよ」


 お医者さんはこの後どうなるのかがわかるような言い方だった。この場所がどうなるか僕も何となくわかる気がした。


「わかりました、ありがとうございます」


 僕はお医者さんに言われた通り、ベッドから起き上がり、即座に退出しようと思っていたが、見てもらったお礼だけは、しなければ成らない。一度立ち止まった。


「助けていただき、本当にありがとうございました」


 深々と頭を下げ、心からの感謝をお医者さんに伝えた。


「いえいえ私は特に何もしていませんから」


 お医者さんはそれ以上何も言わずただ微笑み、僕に手を振るだけだった。


 僕は冒険者ギルドを後にして、メイが待つ避難場所に走りながら戻る。


「はぁはぁはぁ、メイ、今戻るからな」


 その時だった、大きな揺れと共に地面が跳ねるような轟音が遠くの方から響く。僕まで浮き上がってしまったのではないかと錯覚させるほどの振動が全身を揺すった。


 この時、僕は思った。いや感じ取った。

 肌で感じる。様々な方向から針で刺されるような痛み。髪が靡くほどの風によって、その痛みはさらに強まった。


「戦いが始まったんだ……」


 今までの全力は、どうやら全力ではなかったらしい。肺が裂けそうなほど空気を吸い込み、頭と足先に血液を送る。

 心拍数が上昇し、目に大量の血液が流れているのか視界が赤い……。


 さっきまでメイと一緒に住んでいた村の方角から黒煙が竜のように舞い上がる。


「はぁはぁはぁ、本当に始まったのか……」


 ――大丈夫、大丈夫……。きっと『勇者』が倒してくれる。今は、僕とメイの事だけを考えないと。


「お兄ちゃん!」


 避難所の入り口からメイが小さな手を振っている。その小さな体で手を大きく振っているのだ。

 僕はその微笑ましい情景に少し口角を上げながら、自身の手を振り返す。


「……?」


 ――え……。いったいなんだ。さっきまでメイの顔が良く見えるくらい視界が明るかったのに、一瞬で影が出来た様に暗くなったぞ。こんなこと、今まで一回も起ったことが無いのに。


「いったい……何だ?」


 僕は状況が気になってしまい、空を見上げた。


「……」


 言葉か出なかった。頭が真っ白になり何も考えられなくなっていたのだ。

 肌に感じる刺す痛み、脳に打ち付ける金槌の痛みが、僕の喉から声を絞り出させる。


「メイ! その場から離れろ!」


 僕は喉が張り裂けそうになるほどの大声を出す。今までこれ以上の大声を出した覚えは無い。


「?」


 大きな音を立て巨大な物体が建物を容易く押し潰し、地面にめり込む。僕はその光景を見ることしかできなかった。

 衝撃が立っている地面から僕に伝わり、前方から迫る突風によって馬に撥ねられたかと思うほど体は空中へと放り出された。

 地面に落ちた衝撃が強風を生み、土砂、小石、木材、空中に浮いている僕もろとも落ち葉のように軽々しく吹き飛ばした。


 吹き飛ばされながら頭で何とか理解しようと試みる。


 さっきの光景は……、そう、上空から大岩がいきなり落ちてきたのだ。僕の体が豆粒みたいに感じるほど大きな岩が空から降って来た……。

 メイたちがいた場所に、大岩が落ちてしまった。


 そんな訳が無い……と信じたくない思いを胸に僕は痛覚を忘れ、すぐさま立ち上がる。

 ただ一人だけの家族の名前を呼びながら、足を無理やり引きずって歩く。


「メイ!」


 僕は光景を見た瞬間、その場所に駆け寄った。


「いやだ……、見たくない。その赤い液体を、その赤い液体は、その赤い液体だけは!」


 大岩につぶされた人の鮮血が大岩と地面の隙間から容赦なく漏れ出している。


 僕は……おもむろに大岩を押し出そうと試みるも、動くわけが無い。

 何かが切れてしまったかのように気が動転した僕は、大岩を両手の拳で叩き、心の声を漏らした。


「動け、動けよ……。なあ、頼むよ!」


 わかっていた、僕にでもそんな事はわかっていた。

 こんな大岩の下敷きになってしまったら、小さな子供の命など助かるはずないと。


「お兄ちゃん!」


「ァ……」


 ――メイの声が聞こえた…。幻聴でも聞こえたのか。いや、でも確かにメイの上に大岩が落ちていくのが見えた。きっと僕の頭がおかしく……。


「お兄ちゃん!」


「いや、幻聴じゃない、確かにメイの声が聞こえる!」


「お兄ちゃん、後ろ!」


 幻聴かメイの声かわからないが、声が後ろと言った。声に導かれて後ろを振り向くと銀の剣先が僕の眼球直前で止まる。


「動くな、この少女を切り裂くぞ」


 後ろにいたのは、僕がよく知る顔だった。


「ミーナ!」


 ――ミーナだ! ミーナが使っているのは僕の剣だ。見間違えるはずもない。


 ミーナはフードを被っておらず、銀色の短髪を靡かせながらメイを左腕で抱きしめ、右手で剣の柄を持っていた。

 いつものぼーっとしている顔ではなく、狼や犬が敵を威嚇している時の狂気に沈んだ顔をしていた。

 服装は胸当てと短パンと言う軽装備。素肌が多く露出されており、少々寒そうだ。


「ありがとう、ミーナ……。メイを助けてくれて……」


 僕は右足を少し前に出してしまった。


「動くなと言っただろ!」


 ミーナは剣でメイの右足を薄く切りつけた。


 右足から先ほど嫌と言うほど見た赤い鮮血がメイの透き通るような肌色を染め、地面へと滴る。


「い、痛い……。た、助けてお兄ちゃん!」


「それ以上動いたら足を落とす」


「わかった、わかったから。う、動かないから……。メイの足から剣を放してくれ。でもどうして、ミーナがここに……」


「お前には関係ない。それより後ろを向け、じゃないと次は本当に切り落とすぞ」


 ――ミーナの狂気に満ちた表情からして、その言葉は嘘じゃない。僕がそちらに向ったらメイの足を切り落とすつもりだ。


「わかった、わかったから」


 僕は言われた通りに後ろを向く。

 後ろを向いたとたんに強い衝撃を受け、視界が黒く塗られ……気を失った。

 おまけ。


 ダルは攻撃の邪魔になる左腕の肘から下を切り落とす。

 痛みが遅れて脳裏にやってくるが、死ぬ覚悟と歯を噛み締めていれば耐えられる。


 切り落とされた左腕が鮮血に染まった地面へと力なく横たわっていた。


 ベルトを外し、口と右腕を使い左腕の切り落とした部分の出血を止めるためにきつく縛る。


「奴の攻撃をかわしカウンターを加えるか……。それとも、奴の攻撃を受け流し攻撃を加えるか。はたまた、こちらから攻撃を仕掛けるか」


 ――まただ、あの時と同じで、考えすぎてしまう癖が出てる。私はあの時、流れに身を任せることを学んだんじゃないのか。


 戦争は冷静、迅速に物事を判断し、速行動に移すことができる奴が生き残る。ダルは自身の経験から学んでいた。


 ――お前は早かったな、いつも一瞬で判断し、その判断が間違ったことは一度もなかった。私は判断が遅く、それに加え間違いばかりを選んできた。


 ダルは静かに目を閉じる。


「考えるのはやめだ、志向のまま、体が動くままに私は動く……」


 再び目を開けると。奴のこぶしが目の前にある、ギリギリの所でかわし、奴の懐で剣を振る。


「くっ! 硬い」


 剣は奴の体を切り裂くことはできなかった。やはり筋力が足りない、右腕の力だけでは剣を振るうだけで精一杯なのだ。

 その間にも奴の膝がダルの脇腹めがけてけり込んでくる。

 回避できないと判断したダルは、咄嗟に剣身の腹で守った。だが、奴の攻撃を受け止められるわけもなく、吹き飛ばる。


 金属が弾けるような破砕音と内臓が破裂したような破裂音が骨振動によって脳へと伝わる。

 痛みよりも先に音が脳へと伝わるのだから不思議だ。


「ぐぁっ!」


 剣が完全に折れ、肋骨も内臓もきっと元の形状を留めていない。

 ダルは空中で態勢を立て直し、地面に両足を付き滑るようにして何とか停止しようと試みるも、速度が落ちない。

 右手に握られた折れた剣を地面に突刺し、数メートル地面を抉りながら停止を試みると、速度がようやく落ち初め、停止することが出来た。


「グアァ…」


 口から内臓の破裂によって、行き場を失った己の血液が滝のように流れる。

 綺麗な茶色だった地面が一瞬にして真っ赤な鮮血に染まった。鮮血が鏡のように自分の顔を映し出す……。いい顏をしていた……。


「今のでも死なないか。俺の攻撃をかわし、俺の体に刃を当てたのは誉めてやろう。だが片手では俺の体に傷をつけることすらできないみたいだな。さっさと諦めてしまったほうが楽になれるぞ。そうだな、最後に死んで行くお前に良いことを一つ教えてやろう。この戦争を始めたのは魔族ではない、人族の方からだ」


 奴の言葉に耳を疑ったが、今はそれ所ではない。


 ――村の子供や女性は皆、逃げ切ることができただろうか。皆が逃げ切れたかなど、私には分からない。でも、どうか逃げ切っていてほしい……。私の命もあと少しで尽きてしまう。これこそ、風前の灯火、消えゆく泡その者だな。たとえ死のうとも、最後まで私に出来る事をするだけだ。


「おい人間、俺の攻撃を三回も防いだのは勇者以来だ。貴様の名前を教えろ、覚えておいてやる」


 魔族は腕を組み、人間の名前を聞く。全種族の共通語で喋るところ案外律儀なやつなのかもしれないな。


「私の名前はダル。はは、覚えやすいだろ……。面倒なときによく口にされるような名前だ。ダルってね……」


 最後の小話、聞かせる相手が魔族なのが残念だ。しかし、魔族は笑わなかった。


「ダルか。特別に俺の名も教えてやる。俺の名はメルザード、次の攻撃でお前の命が尽きることは分かる。最後の力を振り絞り俺に傷を付けてみろ。俺はお前から受けた傷が欲しい! お前が生きた証を俺に刻み込むがいい!」


 ――何を……言っているんだ。こっちは喋ってるのでやっとだってのに。だが、お前が人生最後の敵でよかった。


 ダルは右手に最後の力を籠める。吐血した血液が剣に付着し、銀色の剣身は輝きを失っていた。


「私はもう動けない……。お前の方から攻撃してくれ……」


 本当に動けなかった、手に力が入っているかさえ怪しい。奴は魔族だ、人のように一対一を好むような種族ではないはず。それに加えて、地面に刺している大剣や魔法も使うことはなかった。

 奴は相当な戦闘狂らしい。


「はっはっは、良いぞ、その意気だ! 俺も全力で行かなければ恥ってもんだな!」


 目で見なくともわかるほど、奴の魔力が高められている。その魔力を肌で感じるのだ。そして全身から放たれている魔力が徐々に右手へと集まっていく。


 メルザードは発生した全ての魔力を拳に収めた、ダルを次で確実に殺せるように。


「それじゃあ行くぞ、俺の最も好きな技だ。『剛撃!』」


 そう言うと奴は走り出す。ダルは最後の力を込めた右手を何とか持ち上げようと試みる。


「ふ!」


 すると、折れた剣が頭上に持ち上げられた。


 ――持ち上がった! それなら、まだ諦めるわけには……いかないな!


「去らばだ、ダル! 我が好敵手よ!」


 ダルはメルザードの攻撃に被せるように頭上に持ち上げた折れた剣を振りかざす。

 無残に折れた剣はダルを死へと追いやるメルザードの拳とぶつかり合う。


 この時、一瞬で弾き飛ばされ、ダルの体は豚や牛のひき肉のようにバラバラになると思っていた。しかし、ダルは弾き飛ばされていない。折れた剣とメルザードの拳が未だにぶつかっている。

 折れた剣と拳の狭間から火花が散り、魔力が破裂するような爆発音すら聞こえる。


 右手から振動が伝わり、なぜ自分が剣を握れているのかさえ理解できない。


「まだこんな力が残っていたか、ダルよ!」


 気分をよくしたメルザードの力がさらに強まる。


 「くっ! もう持たない……」と思った時だった。


 なぜかその言葉が頭に浮かんだのだ。


 『会心の一撃』


 そう口にするとダルの手から光があふれる。


「なんだ、その力は!」


 ダルが握る折れた剣身はメルザードの拳を切り裂き、前にのめり込んでいた奴の体を左肩から斜めに切りつける。


 切った感覚はある。しかし、ここでダルの意識が途絶えた。


「はは、まさかこの人間に、今までの戦いで最も大きな傷をつけられるとはな……」


「メルザード様! ご無事ですか」


「ああ、問題ない。だが、軍の侵攻は奴らが来るまで一度止めなければならないな……」


 メルザードはダルに切られた右腕を速治療し、治った右腕を真上に揚げ軍を停止させた。

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