魔族視点
魔族国内の王城。
「やっとだ、やっとまた暴れられる。憎き勇者め、必ずやぶっ殺してやる……」
そこには、ものすごい闘気を発している魔族がいた。
黒い鎧に、体よりも大きな大剣を背負う。
その顔は見るものすべてを恐怖に陥れるべく生まれてきたのではと思うほどの形相。
額に太い血管を浮かび上がらせているせいか、同族も震え上がらせるほどの威圧感を放つ。
「おい、メルザード、あまり怖い顔をするな。お前は魔族の中でも特段に怖い顔なのだから、周りの奴がビビるだろ」
「うるせえ! そりゃ女子受けが良いお前とは違うかもしれねえが、俺はこの顔を気に入ってるんだよ。人が恐怖のどん底に落ちる瞬間を見ることができるからな!」
そう言いながら、強面の魔族はにやりと笑う。
笑っているにも拘らず、その顔から怖さが取れることは無い。
逆に不気味さが増し、辺りの魔族が身を引いている。
「相変わらずなやつだ……。それで、いったい何をそんなにイライラしているんだい?」
「イライラなんてもんじゃねえ……。これはもう憎悪だ。憎悪以外の何物でもない」
「はぁ、それでその憎悪の原因は?」
「俺の体に刻まれた傷は強者と戦った戦闘の証だ。俺の勲章でもある。だがな、この左目の傷だけは違う、あの憎き勇者がつけたものだ。あの時の勇者は本気を全く出していなかった。そればかりか、俺のことをそこら辺にいる雑魚のように切りつけた。もう、奴の顔が忘れられない。奴の顔はそう『別に戦いたくて戦ってるんじゃない』みたいな顔をしやがったんだ! 許さねえ……。誇り高き魔族の戦いを侮辱し、この俺に戦った証ですらない傷をつけやがった。次に出会った時は必ずやあの形相を捻じ曲げてやる……」
強面の魔族から放たれる覇気がさらに強くなる。
重力が数倍。いや数十倍まで跳ね上がったように感じるほどだ。
「今日はよくしゃべるな……メルザード」
「うるせえ、ブロードも見ただろ。魔族を蹂躙する勇者を……」
「ああ、見たよ、確かに強かった。だが甘い人間だった。俺が感じたのはそれだけ。あのような人間が数百人いたら恐怖だけど、たった一人しかいないんだから、人族は可哀そうだよね」
立ち話をしていると、後ろに誰かいることに気づく。
「お前たち、いい加減にしろ……」
二名の頭を鷲掴みにし、そのまま地面に膝をつかせる者が一名。
魔族の二名は力によって押さえつけられているのではない、その巨大な何かによって押さえつけられているのだ。
「そ、総司令! 申し訳ありません!」
「おい、爺! 放しやがれ! ぐふっ!」
一名は反省し、すぐに解放される。
だが、もう一名は地面に頭が食い込むほど潰される。
「お前らは戦争というものを全くわかっていない。このままだとお前らは死ぬぞ。部下もいるのだ。自分の立場をもっと考えろ」
「肝に銘じておきます」
「グァハ……。うるせえ、爺。たく……、俺は勇者以外どうでもいいからな、爺の息子っぽく振舞っておいてやるよ」
「……それでいい」
総司令と呼ばれる魔族は魔法を使い宙に浮きあがる。
何も無い不毛な大地を眺めながら、肺一杯に空気を吸い込んだ。
「聞け! 皆の者。私の名は『ブレイン・ザハード』。今回の魔族軍を指揮する者の名である。我々は五年前、戦争を凍結させられた。憎き勇者によってだ! 家族や仲間、親友を殺された者もいるだろう。そして、今こそその憎しみを解き放つ時である。今こそ憎き種族である、人族を滅亡させるのだ。立ち上がれ、魔族の諸君、人族に終焉を!」
彼が解き放った言葉に魔族軍は奮起する。
叫ぶもの、感銘を受ける者、苛立ちを覚える者、疑問を感じる者……。
「ウオー!」
「さすがです、総司令!」
「チぃ、思っても無い事をペラペラと……」
「君は本当に総司令と血が繋がっているのかい?」
「うるせえ」
そして、冷戦状態だった戦争が魔族の攻撃により開始された。
「何で戦争なんてしないといけないんだ……」
たった一名の魔族を除いて……。
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