始まり
初めまして、コヨコヨというものです。
今回は、数ある作品の中から読んでみようと選んでくださり、ありがとうございます。
少しでも面白いと思って頂けると嬉しいです。
「みんな、それじゃ行ってくるよ」と言って父さんは戦争に行った。
僕の名前はヘイへ、ただのヘイへだ。
僕に名前しかないのは、ただの平民だから。
名字があるのは貴族や神官などえらい職種の人ばかり、ただの平民には名前しかない。
僕の家族は、父、母、僕、妹の四人家族。
一般的な家庭だ。
父は農家の息子で農業をしている。母は農家の娘で農業をしている父のもとに嫁いできたらしい。
「お母さん、この種はどこに植えるの?」
黒色の長い髪にボロボロの長袖シャツと継ぎはぎだらけのオーバーオールを着た妹のメイが母の農業の手伝いをしている。
僕も鍬を持って畑を耕していた。
「その種は、今、ヘイへが耕しているところに埋めるのよ」
メイと同じ長い黒髪を首辺りで紐で縛り纏めている母は僕の足下を指さしながら言った。
「わかった!」
今の季節は春、この時期から畑を耕さなければ冬を超えることができない。
今回は父さんがいないため畑を耕すのに時間が大分かかっている。
「そろそろお昼休憩にしましょうか」
母はバスケットを持ちながら言う。
「そうだね、メイがそろそろ飽きてきそうだし」
「そ、そんなことないよ!」とメイは畑に座り込みながら言った。
「はいはい、それじゃお昼ご飯を食べましょう」
この時、僕はただ普通に農家の息子として農業を行い、普通に過ごして普通に死ぬのだと思っていた。
☆☆☆☆
父が魔族との戦争に行ってから数か月が経った。
魔族とは、この世界に生息している知恵を持った生き物である。
世界には人族の他に知恵を持った生物が存在しており、魔族、エルフ族、亜人族、ドワーフ族、ドラゴン族、獣族、人族、の七種族ほどがそれぞれ知恵を持ち、この世界に存在している。
この種族には明確な力関係がある。
ドラゴン族>魔族>エルフ族>獣族>亜人族>ドワーフ族>人族
という関係が成り立っている。
その為、族同士の仲は悪い。
今回の戦争相手である、魔族は人族よりも明らかに格上であるため大分不利だと言える。
『でもねヘイへ、神様は世界に均等であってほしいと考えているんだ。だからね、人族に対して優遇措置を取っているんだよ。もし人族に何かあった時、加護『勇者』を持った人間が現れて助けてくれるんだ』と父は言っていた。
この『勇者』のおかげで人族は生き残ってこれたと言っても過言ではない。
加護と言うのは誰もが一つ持っているものであり、存在を確認することはできるが、どのようなスキルなのかを見ることはできない。
ただ唯一『勇者』だけは、体の光方でわかるらしい。
「母さん、勇者が等々現れたんだって」
僕は村で配られていた号外を持ちかえり、母に見せた。
「そう、やっとこの戦争も終わるのね! じゃあ、お父さんがもうすぐ帰ってくるわ!」
「お父さん、帰ってくるの?」
メイは料理中の母に近づき、反応する。
「そうよ、お父さんはこの村で一番強いんだから、魔族をいっぱい倒して無事に帰ってくるわよ」
父はこの村で一番強いと僕も思っている。
父は力が強く、背丈もあり、数学や文学に軽く精通していた。昔、旅に一度だけ出たことがあると自慢していたくらいだ。
父が旅に使った、弓や剣、盾などが棚の中にしまっているのを僕は知っている。
「さて、父さんが返ってくるまでに畑の手入れを終わらせておかないと僕が父さんに怒られる」
「そうね、お父さん結構繊細だものね」
母は微笑みながら、パンや野菜のスープを皿に盛り、テーブルに置いていく。
「お父さんに早く会いたいよ」
メイはピョンピョンと飛び跳ねながら長い髪をたゆませながら嬉しそうに言う。
「大丈夫よ、仕事をしていれば、時間はすぐ経ってしまうものよ」
こんな話をした、数週間後。
「コンコン」と家のドアを叩く音が聞こえ、母が我先にと走って玄関に向かった。
母は、来た人も確認せず扉の前で立っていた人物に抱き着く。
「お父さんお帰りなさい!」
母は『お帰りなさい』と言ったが、相手からは『ただいま』という言葉を聞くことはできなかった。
「マイアさん……、すみません。僕はカイヤさんではありません……」
そこに現れたのは、父の知り合いであるダルさんだった。背丈は母よりも大分高く、一八〇センチメートルはある男性。武器屋をしている男性なのに服装がボロボロでいつもよりみすぼらしかった。頬が欠けており、爪がどこもかしこも割れている。水分や食事をろくに取っていなさそうだ。
茶色の短髪は泥っぽく、戦場から帰って来たのだと優に想像できた。
「あら、ごめんなさい。お父さんが帰ってきたとばかり」
母はダルさんからさっと離れ、微笑みを浮かべる。
ダルさんの茶色い眼は辛そうな……、いや、悲しそうな眼をしていた。
僕がそう思った時だった。
「ダルさん、何しているの。顔を上げてください」
ダルさんは母さんが離れると、すぐ土下座をしたのだ。
「申し訳ありません! カイヤさんは……、カイヤさんは! 私を庇って先日の戦争で殉職いたしました!」
そう言い切るとダルさんは土下座をしながら「すみません! すみません! すみません…」と何度も何度も繰り返し謝っている。
その時だった……。
「ぐ……」
僕は頭が割れるような痛みを一瞬感じた。あまりにも痛かったが、すぐに収まった。
「お兄ちゃんどうしたの?」
メイは僕の背中に抱き着きながら、何が起こっているのか理解しようとしていた。
「な、何でもないよ」
――頭痛はすぐに収まったし、特に何もないだろう。それよりも、父さんが死んだらしい。悲しい、悲しいが、なぜだか実感がわかない。
母は玄関に崩れ落ち、泣き声が村中に響き渡るんじゃないかと言うくらい泣いていると言うのに、僕は涙すら出てこなかった。
この時の僕は九歳だった。九歳ならばもっと感情的に動いてもいいのではないだろうか。でも、涙は出てこなかった。
父が死んだのに、涙がどうして出ないのだろう。
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