休日
ある日、僕は久々の休日をメイと一緒に過ごしていた。
「お兄ちゃんとお昼ご飯食べるなんて久々だね」
「そうだね。それにしても、ここの景色は数年前から変わらないな」
今、僕たちが居るのは昔から家族と来ていたお気に入りの場所だ。家から少し歩いたところにある草原で、なぜか大きな木が一本だけ生えている不思議な場所だ。
どうしてここだけに木が生えているのか分からないが、僕たちよりはるかに年上であろう大木がとても懐かしい。
爽やかな風、草や土の香り……。何もかもが久しぶり過ぎて、忘れかけていた感覚を思い出させてくれる。
「ここでよくパパとママ、お兄ちゃんと一緒にお昼ご飯を食べてたよね。懐かしいな」
「確かに、ここにはよく来たよ……」
父さんと母さんが亡くなってから初めてこの場所に来た。もう三年くらい経っているのに景色は変わらない。
変わったのは僕たちだけ、そう物思いに更けているとメイが話し出した。
「お兄ちゃんに言わないといけないことがあるの」
「え、いきなりどうしたんだ……」
いつも楽しそうにしているメイが真剣な顔で話しかけてくる。
「私、学園に行きたくない……」
「え……」
「私は、ただこうやって一緒にご飯を食べて、畑仕事をしているだけで幸せなの」
「僕の心配をしてくれなくてもいいんだよ、もう入学金のお金は貯めることができたから、心配する必要は……」
「そういう事じゃないの! 私は、もう幸せだから学校に行かなくても大丈夫なの!」
この時、僕は頭が混乱していた。
――学園に行きたくないって、どいうことだ。いや、そのままの意味なんだろうけど……。え、ちょっと待ってよ、何とか説得して。
混乱していた僕は冷静な判断ができず、頭ごなしに発言をしてしまった。
「ダメだ! 学園に必ず入ってもらう。それが、父さんと母さんの願いでもあるんだから!」
――そうだ、死んだ父さんと母さんの分も僕がメイをしっかりと育てないといけないんだ。
その後、いろいろ話しあったが……、
「もういい! 私は帰る」
僕はメイと休日をただ普通に過ごしていたかっただけなのだが、怒らせてしまった。
メイも人間だからな……。誰かに嚙みつきたい歳ごろなのかもしれない。
――何としてでも学園に入ってもらう。今までさんざん苦労してきたんだ。メイは学園に行って普通の子供の用に過ごしてほしい。働くのは大人になってからでも働ける。でも大人は戻りたくても子供のころには、もう戻ることはできない。なら、子供のころにできることをしっかりとやらせてあげたい。それが今の僕にできる気持ちだ。あと一年、あと一年でメイの結婚資金と王都で仕事が見つかるまでの間を生活できるだけの資金を貯めよう。
その日の帰り、まだメイとは喧嘩したままだ。
だが、最近来られていなかった、父さんと母さんの墓に花を持ってきた時……。
「父さんと母さんはこの場所が好きだったらしい。父さんが母さんにプロポーズした場所らしいから」
「そうだったんだ……」
このまま家に帰ってしまったら、メイと仲直りできないような……そんな気がした。
「メイ、さっきはごめん。父さんと母さんの代わりにメイに幸せになってほしかったんだ。今、メイが幸せなのはわかった。でも僕はメイに学園に入ってほしい。学園に入ったか入らなかったかできっと人生は全く違うものになるから」
「私もごめんなさい、お兄ちゃんの気持ちも考えないで。私、学園に入るかどうかもう少し考えてみる。だからお兄ちゃんにも私の考えを理解してほしい」
「ああ、メイが決めたのなら何も言わないよ……」
ここは父さんと母さんの思い出の場所。そして、僕とメイが仲直りした場所にもなった。
「学園に行ったら彼氏を見せに帰ってきてもいいからな」
「バカ……」




