三人組
「うん、いい香りだ。香りを嗅いでいるだけで少し落ち着く気がするよ」
「ほんと、温かくて冷えた体に丁度良い。木の実を摘まみながらも中々に行ける」
何か夕食になりそうなものがあればいいのだが、僕たちの手持ちに食料となる物はすべて食べつくしてしまった。
再度何かを見つけて食料にするしかない。この状況下でお金など意味を持たず、食料を買おうにも買える相手が居ないのだ。
――東国に着いたら食材が買えるだろうか。いや、さすがに王都の国民が流れ込んでいるなら食料が足りなくなるよな。どこの国に行っても食料が無いんじゃ、自分たちで見つけるしかない。
「ふー」
コップ上のハーブティーを冷ましながら少しずつ飲み進めていく、薬草独特の風味と花の香りが合わさって中々に悪くない。砂糖菓子でもあれば完璧なのだがあるはずないため、少し甘みがある木の実で我慢する。
「あと二〇キロメートル以上。何が待ち受けているか分からないから、何が起こっても良いように万全な体調で挑もう。ほんとはもっとお腹に溜まる物を食べたいけど贅沢も言っていられない。早めに眠って体力の回復と魔力の回復、今できるのはそれくらい、少しでもストレスを溜めないようにしないと。ストレスを溜めたら溜めた分だけ冷静な判断が出来なくなる。そうならない為に適度な発散が必要だけどフリジアは何かあるの、ストレスの発散方法?」
「んー、そうだな。私は弓を引くことかな。弓を引いて矢を放った時、狙っていた的に当たると凄く気持ちが良いんだよね。一回だけじゃなくて、二回三回って連続で当てていくと集中できるし、気分もスッキリするかな。後、思いっきり魔力を放ったりね。溜まりに溜まった魔力を一気に外に吐き出すことで凄い解放感を得られるの、まぁ今は出来ないけど、エルフ国に居た時はよくやってた」
「へぇ、そうなんだ…、なんかフリジアっぽくていいね。僕じゃ真似できない事だ」
「ヘイヘ君も練習すれば出来るようになるよ、あまりお勧めはしないけど」
「僕は今やっている魔力操作で手一杯だよ。ちょっとずつだけど、進歩し始めた気がするんだ。今まで何となくで使っていた魔力が次第に言う事を聞いて行ってくれている感じ。そんな状態が続いている」
「順調なんじゃないかな、魔力を使えるようになってきた状態だよ、もっと意識して使えるようになれば、戦いの数も増やせるし、助けられる命も増えるはず。これからも練習を忘れないよう繰り返し繰り返し、思い出して練習を行っていく。そうしていれば、何も考えなくても魔力を上手く使うことが出来るようになるはずだよ」
「うん……」
「ここまで行ければ大分変る。魔力が使えるか使えないかだったら勿論使えた方が良いに決まっているし、ほとんどの種族が魔力を使っている点で言っても魔力を使えないと他の種族と戦っていけない。獣人族はもとからある身体能力が魔法の強化並みに高いから、肉弾戦においては獣人が一番強いんじゃないかな。私は見たことないけど」
「獣人たちは凄く早いし、力も強い、魔法を発動していなくても、発動している人並に動けるから、獣人の部隊が居たら人族の魔法を使える部隊と同等の力を持っていることになる。そう考えると、やっぱり、獣人国の人たちは凄い。なんか脳筋系だけど能力を最大限に使っている感じ、凄い共感できる」
「そうなんだ。私もあってみたいな、獣人さんに」
「きっと会えるよ、この世界は広いようで狭いんだから。ふとした瞬間にさらっと会えちゃうと思うよ」
僕とフリジアは話が盛上り、中々眠れなかった。
綺麗な星が輝くころ、ようやく眠りにつき明日の為に体力を回復させる。
その日の朝はいつも以上に眩しい光で起こされた。
澄み切った空が見えるいい天気、雨が降ればその分進める距離も限られてくるのでここのところ幸運だ。
まだ寝ているフリジアを揺すり、起きる猶予を与える。良く木の上でこれほど熟睡できるなと感心するとともに、落ちるのが怖くないのかと疑問を思い浮かべる。
半目を開いたフリジアは森の新鮮な空気を一気に吸い込み、大口を開けあくびを放った。
「おはよう、ヘイヘ君」
「うん、おはよう。ほらフリジア、起きて。先に進まないと、魔族軍に追いつかれる」
「そうだね、早く進まないと。よっこらせ。それじゃあ行こうか」
フリジアは重い腰を持ち上げ、全身を伸ばした後にそう言った。
僕たちは木の幹を移動しながら着々と東国へと近づいて来ていた。
一五キロメートル地点。その出会いはいきなりだった。
「ねえ、あそこにフードを被った三人組のパーティーが居るんだけど、人族かな」
フリジアは小声で僕に話しかけてくる。
「後ろ姿だけじゃわからないよ。でも、魔族ほど体が大きくないから人族の可能性はゼロじゃないよ。もう少し近づいて顔を確かめたら、話を聞いてみよう」
「そうだね! ってあれ……。さっきの三人組が居ない」
「え……、あれ、本当だ。いったいどこに行ったんだ」
さっきまで見えていた三人組が僕とフリジアの視界から消えてしまった。音もなく、本当に消えてしまったのではないかとさえ錯覚してしまった。
「どこに行ったんだろう」
僕は頭を大きく動かしてあたりを見渡す。
「ヘイヘ君危ない!!」
フリジアのその声と僕に手を伸ばす動きに驚いたのつかの間、背後に何かが居る事に気が付いた。
「な!」
「ふ!」
一人のフードが僕の背後から大ぶりの拳を振りかざしてきた。焦ってしまった僕は両腕でその大振りをガードするもあまりの衝撃に地面へと叩き落とされる。
感じたことの無い痛みが全身に流れる。魔力を体に流していなければ確実に腕の両方体の内臓や骨など容易に折れていただろう。実際攻撃を受けた両腕は赤く腫れあがり、折れているのではないかと錯覚するほどの痛みを伴っていた。
地面で苦しがっている時間は無い、すぐさま立ち上がるとエルツさんの魔剣を抜き、あたりを警戒する。
「フリジア! 大丈夫か!」
フリジアの名前を呼ぶ。しかし、返事が返ってこない。近くにいたはずなのだがどうしてしまったのだろうか。
「フリジアとはこのエルフの事か」
「フリジア!」
そこいたのは気絶させられた状態のフリジアを担ぐフードを被った男の姿だった。




