質問
「まずは、僕から攻撃する瞬間を見つけないといけない。正面から受けに行ったら駄目だ。対格差で圧倒的に負けてるんだから絶対に勝てない。僕があの魔族に勝っている部分なんて持っている魔剣くらいだ。それなら魔剣の力を最大限引き出さなければ殺される……」
なぜかこの時、僕は正面から魔族と戦闘したのだが、緊張や恐怖心という感情が無かった。
昨日に二体の魔族に追われたことが原因だろうか。
一体であれば対処できると体が知っているのか……。
僕がどれだけ魔族と戦えるのかを知るいい機会でもある。
先ほどフリジアを受け止めるために緩衝材になった影響で背中が未だに痛むが戦闘に支障はない。
「何をブツブツ言ってやがる! そう言う気持ち悪い所が人間っぽいよな!」
魔族は地面の土が浮き上がるほどの威力で大斧を打ち付けてくる。
回避できたが地面から跳ね返ってくる衝撃波によって僕の体は軽々と吹き飛ばされてしまった。
その間に魔法の袋へと手を入れ、魔力を流しておいた魔石を魔族に向って投げつける。
「ちっ! 魔石か、めんどくせえ!」
魔族はその場から後ろへと跳ね、魔石の爆発に備える。
魔石は地面に衝突した影響で大きく爆発した。爆風によって木の葉や砂、土を霧のようにまき散らせる。
魔族から僕は見えず、僕からも魔族は見えない。
――でも、魔族の位置と僕の位置を確認している者がいる。
「そこ! 『イーグルアロー』」
フリジアが持っている弓から放たれた矢は木々の隙間を糸のように通り抜け、魔族へと一直線に進む。
爆煙と木葉によって視界が悪い影響もあり、魔族はフリジアの攻撃に気づくのが遅れてしまった。
「くっ!」
矢が魔族の右腕を貫通した。傷口から黒い血が吹き出し、持っていた斧が支えきれず、地面に落とした。
僕はその瞬間を見逃さずにすかさず近づく。左手で斧を取ろうとしていた魔族は僕に気が付いたのか、左手を僕の前に出してくる。僕の耳じゃ理解できない詠唱の末、禍々しい魔法陣が展開した。
――魔法が来る。躱さないと。
そう思ったが、新たな矢が魔族の左手を貫通し、展開していた魔法陣は相殺される。
「クソが!」
怒鳴り散らかしている魔族に向って僕は魔剣を容赦なく振りぬく。
右腕と左腕を両方吹き飛ばした。
血液が魔族の体から流れ出しそれほど流したら死んでしまうかと思っていたが、魔族は四肢に力を入れ、血が大量に流れだすのを防いでいた。そのおかげで今だ死なず、話が聞けるような状態だった。
僕は魔族を大木の根元に引きずりながら持っていき、縄で幹と縛りつける。
「おい……、何をしているこれなら俺を殺した方が早いだろう」
「少し聞きたい事があるんだ。答えてほしい」
「なんで俺が人間の話を聞かなきゃいけないんだ。おかしいだろ。それに俺が持っている情報なんてたかが知れている。無駄にお前らの体力を削るだけだ」
「気にするな。僕はいくつか質問を出す。まず一つ目、人はどこへ行ったのか。確実な情報を頼む」
「だからなんで俺がお前の為に仲間を売るような真似は出来ねえよ」
「答えないと、頭を射抜くよ」
フリジアは構えている弓と矢を魔族の眉間に向けながら脅迫し、質問に答えさせようとした。
「は……、俺が脅迫に怖がると思うか。俺はたとへ一〇〇本の矢が目の前にあったとしても弱音を吐くことは無い」
――例えそれでも魔族兵から情報を少しでも取りたい。
「お前に拒否権なんてない。どれもこれも簡単な質問だ。話が聞けない訳じゃない魔族にとってどれも答えられるはずだ。一つ目の質問、王国の人はどこに行った」
「さあな。俺たちが到着したころには、街の中に王国民の気配が無かった。その時、俺の目の前に現れたのが巨大な避難所だった。人が出入りしている様子はなく、水も普及していない状況だった。極限状態での生活を送っていたのだろう。魔族軍は避難所に退避していた数万人を一気に捕まえた。老人と子供は食料、女は性奴隷、男は労働者。いや~、子供が殺されるときの親の顔は何度見ても面白くて、ぐ!」
フリジアは魔族の右肩を狙い、矢を撃ち放った。至近距離で放たれた矢は魔造兵の分厚い肩を容易く貫通していた。
「良いから答えなさい、このままだとあなたの体中が風穴になるだけだよ」
腕を失っている為、魔族は流れ出す血液を止めることが出来ない。だが、力を入れると筋肉の収縮で無理やり止血していた。
「もう一度聞く、王国の人たちはどこに行った。正直に答えろ」
「詳しい事は知らねえ……、だが東国へ逃げろと叫んでいた奴がいる事を他の魔族から聞いた」
魔族の言葉が本当か嘘か判断できないが、少なくとも可能性は生まれた。
「次の質問だ、そもそも何で人族を襲う。お前たちにはお前たちの国が有るはずだ。互いに干渉し合わなければ、人族と魔族の兵士が命を落とさずに済んだのに」
「そんなもの人族がいえたことじゃないだろう。何年もの間人族は魔族国に向けて攻撃を繰り返し行い何もしていない民を傷付けた。人族と戦う理由はそれだけで十分だ。我々は魔王様の指示する通りに事を運んでいる。ただそれだけだ」
「次に人族を魔族国に連れて行きどうする気だ」
「大抵が食料になるか労働者になるだろうな。気にいられれば性奴隷としての人生を送る。男は労働力として重宝する。子供でも容赦はしない。何かやらかしたら即座に切られる。逃げたりすれば周りにいた人族もろとも死刑だな」
「最後の質問だ人族は魔族軍に負けたのか」
「お前、知らないのか。どう考えても我々の勝利だろう。人族軍はここまで侵入させてしまった、我々魔族軍はもう止まらないぞ。他国を侵略し、すべてん国を治めて我々の世界を作る。我々の種族が繫栄し他の種族が我々に支配されるのだ」
魔族はもう世界は自分たちの物と言わんばかりに主張してくる。この魔族が言う事もあながち不可能ではないのかもしれない。
――魔族が人族に勝利したと言うことは、ジャスが負けたと言うことか。
「嘘だ、勇者が負けるわけないだろ」
――そうだ、あのジャスが負ける訳がない。勇者なら勝てるはずだ。
「あのクソザコ勇者の事か? 勇者は逃げたらしいぞ。人族には頼みの綱が一人しか居ないなんて残念だったな。はははっ……」
縛られているにも拘らず、目の前にいる魔族は余裕の表情だ…。
「何がおかしい」
「いや、ちょっと面白くてさ。勇者は我々に恐怖して自らの王を切り裂いて逃亡したんだってよ。こいつのお陰で人を殺し放題になったわけだ。これを笑えずにいられるか」
魔族兵は口角を上げ不気味に笑う。僕が怒りの感情に身を任せて、奴の首を切ろうとした時。




