東国に向かう
「迂回しながら進もう。敵に見つかるより東国に確実に到着する方が良いはずだ」
「そうだね。それじゃあ、あの魔族たちが動き出したら私たちも動こう……」
「わかった……」
僕達は魔族の動きに注意し、木の枝の上で止まる。
魔族兵の数は三体。
ガタイが良いのは魔族の特徴だが、他の魔族と比べても平均くらいの大きさだ。二メートル近い身長と黒い鎧、剣や斧と言った武器を所持している。戦いたくない相手だ。
三名で寄り添って何の話をしているのか、僕は耳を傾ける。
「それでどうよ、今の状況は?」
「そうだな、特に問題は無い。いたって普通の森だ、爆発物なんかは見つからなかった」
「こっちも同じだ。でも爆発物の警戒をするためにブロード様から命じられた調査だからしっかりとこなさないとな。この調査が終わり次第魔族軍による侵攻が再開されるそうだぞ」
「な、俺たち責任重大じゃないか。このまま怠けていようかと思ったが、そんなこと出来そうにないな」
「って、お前怠けてたのかよ」
「い、いや~別に怠けていたわけじゃねえよ。ちょっと見落としている所があるかな……くらいだ」
「バカだろお前、もしそこに爆発物が有ったら、俺たち皆爆発させられちまうぞ……」
「それは嫌だな。ちょっと見て来る……」
「ああ、そうした方が良い。俺達はここで待ってるから」
「俺もここで待ってるから。さっさと行ってこい」
「お前らまでさぼろうとしているじゃないか。ずるいぞ」
「何、言ってる。俺はお前がさぼっている間にせっせと仕事してたんだ。お前が仕事している間に俺たちは休ませてもらうぞ、その方が平等だろ」
「そうだそうだ」
「ち! わかったよ。さっさと見てくればいんだろ」
一体の魔族兵が元来た道を走り出した。
――さっきの話で重要な点として、ここから東国までの爆発物を調査していると言うこと。多分人族との戦闘で使われたんだろう。森があんなにボコボコしてたから、多分あの痕は魔石が爆発した痕だ。
次に指揮しているのがブロードと呼ばれていた者。魔族が呼んでいるのだから魔族軍のえらい役職を持った魔族なのだろう。
「今の内に移動しよう。三体の魔族が居るよりも見つかり難いはずだよ」
フリジアが音もなく木の上を駆けていく。
「わ……わかった」
僕もフリジアの後ろから必死になってついて行く。
「よかった……。気づかれずに済んだみたいだ。流石に三体の魔族に見つかったら相当辛い逃亡になる所だったよ」
「そうだね。一体が離れてくれたことも大きかったけど、それでもあの三体が周りに気を配っていなかったのが大きいと思う。きっと何かに襲われるなんて思ってもいないはずだよ」
「そうかもしれない。油断していた所に僕たちが居合わせたのは相当運が良かったね。さ、ちゃっちゃと東国へ……。フリジア! 危ない!」
「へ……! クっ!」
フリジアの前方に現れたのは先ほど見直しを行っていたはずの魔族だった。木の高さまで移動して大きな斧を振りかざしてくる。
「どこの誰かは知らないが、人型を見つけたら殺せって命令があるんでな!」
フリジアは大振りされる斧をヘイヘの忠告によって体を捩じり、ギリギリ躱す。鼻の二センチメートル横を鉄が黒く変色して禍々しい斧が風を切り裂きながら通過していった。
斧は木の枝を容易に切り裂き、フリジアと共に地面へと落ちて行く。
僕は咄嗟にエルツさんの魔剣を抜き取り、高低の有利を生かして魔族に切りかかる。だが……。
「まさか人間とエルフがこんな所に居るなんてな。いったいどういう状況だ!」
魔族は空中でフリジアを蹴り飛ばし、飛んできたフリジアが僕と衝突してしまった。
僕はフリジアを抱きしめるように受け止める。
僕が緩衝材となり木へと衝突する。刺すような激痛が背中を襲うが今はそれ所じゃない。
「フリジア、大丈夫……?」
「う、うん。油断してた。ごめん……」
「今は謝る時じゃないよ。ほら! 来る!」
魔族兵は容赦なく斧を振りかざし、跳躍しながらこちらに向ってくる。
その巨体からは想像のできないほどの俊敏性を兼ね備えており、自分の目を疑ったが、どうやら事実のようだ。
――フリジアの力じゃ魔族の攻撃を受け止められない。僕でも魔族の攻撃を受け止められるかわからない。だけど、やるしかない。
僕はフリジアを立たせた後、攻撃を仕掛けてくる魔族に向かって行く。
「フリジア! 援護をお願い!」
「わ、わかった!」
フリジアは僕の背後からいなくなる。きっとどこかの木の裏に隠れたのだろう。
――良し……。これで僕とこの魔族が上手く戦えば、フリジアが隙を作ってくれるはず……。
「おいおい! 人間がこんな所で何しているんだよ! 残党か?」
魔族は斧を振りかざしてくる。だいぶ大振りだ。
これなら僕でも回避することが出来るはず……。
「グ!」
僕は斧を回避したが、先ほどと同じように魔族の足先が僕へと向かってきていた。
魔剣で防ごうと考えるも、先ほどのように吹き飛ばされてしまうと考えた僕は、さらに身を低くして二撃目の攻撃も避けられた。
――良し。見えているぞ……。魔力操作のお陰で体が良く動く。
二撃とも回避された魔族は勢いのまま跳躍し、僕と距離をとった。
「ほう、生き残っているだけあって中々やるな……。その恰好から見るに人族の兵士ではないように思えるが、どうしてこんな所に居る。まさか近隣住民とは言わないよな」
「そうだったら……」
「わざわざ捕まえて人族の国に運ばなきゃならない。そんな仕事、面倒だろ。だから、お前は見なかった事にしよう」
魔族は口笛を吹き、僕から視線を一瞬そらした。
「どういう意味だ」
「そのままの意味だ、ここで殺してしまえば、誰にも見つかることもないだろう。死体が転がっていることなんて普通だしな」
「そうかもな……。それより、どうしてここに居る。さっき別方向に走っていただろう」
「ああ、あれは嘘だ。俺は優秀だから、いち早くお前らに気づいた。暇だったから誰が相手をするか決めてたんだ。そして俺が相手をすることになった。安心しろ他の二人はこっちに向ってこない。俺だけで十分だからな」
「相当な自身があるみたいだな……」
「そりゃあもう、ガキと一体のエルフに負けていたんじゃ、魔族軍なんてやっていられないから……な!」
魔族は話している途中にも拘らず地面を蹴って、間合いを一気に詰めてくる。
――やっぱり早いな。僕があの攻撃を真面に食らったら骨が折れて剣が持てなくなる。そうなったら終わりだ。出来るだけ回避するしかない。その間にカウンターを繰り出せればいいけど、別の場所から二撃目が飛んでくる。カウンター対策なのか、斧の隙を無くしているのかはわからないが、こちらからの攻撃を与えるのが難しい。




