王都からの脱出
「ヘイヘ、私の考えだけど、このまま王国外に出て東国を目指すのはどうかな?」
「え……どうして? どうせなら獣人国に向ったほうが」
「多分、獣人国も今は人の受け入れを拒否するんじゃないかな。東国に向えば王国の人たちが逃げているはず。きっと魔族軍は人族の国を襲うだろうから、東国の人たちに逃げてもらうように忠告しないと。もしかしたらまだ戦っていると勘違いしているかもしれない……」
「うーん……、それは無くもないけど、ここから東国に行くのも大変な道のりだよ。そもそも僕たちが言って動いてくれるかどうかわからない。まず、この王国から脱出しないと……」
「そうだね。とりあえずは王国を脱出しないと前に進まないし、今日の夜にでも王国を脱出した方が良い。きっと魔族は私たちの存在に気づいて探し始めていると思う」
「どれだけ王都が広いからって、僕たちはいつか見つけられてしまうだろうから、早く逃げ出さないと……」
僕たちはその場で夜になるのを待った。
日が沈んで王国全体が暗くなり、ぽつぽつと見張りをする魔族兵が持つランタンの明かりだけが王国の土地を照らしている。
どのようにして逃げるのか、僕とフリジアは話し合い、決めた。
なぜ朝ではなく夜なのかと言うと、単純に魔族の数が減るからだ。魔族と言っても生き物であることは変わらない為、睡眠をとる。
夜なら判断が鈍った魔族兵が少なからずいる。だから真夜中に脱出を試みる。
辺りは暗く、魔法を使用しないと真面に歩けないためフリジアの放つ小さな光たちが、僕たちにとって唯一の道しるべだ。
光虫のように空中を漂うその靄は他の魔族からしたら美しい光景に見えるかもしれない。でも僕たちにとっては命を握る大切な明かりだ。
「この光に沿って行けば……、出口があるはず……」
ゆっくりと着実に足を前に踏み出し、前に進む。
僕が先頭、フリジアは後ろだ。後ろの警戒をフリジアに任せて僕は前だけに集中する。
昼間の一〇〇分の一にも満たない明かりは魔族の体を闇に沈める。
僕たちが着ている黒いローブによって同じような事は出来ているが、僕の瞳とフリジアの瞳の色は黒じゃない。
暗い空間に明るい色が浮いて見えるように、僕たちの瞳も浮いて見えてしまうのではないかと言う緊張感と、このような状況でも光を失わず美しいエメラルドグリーンに輝く彼女の瞳に吸い込まれてしまいそうになるのもまた事実だ。
光虫を辿りながら、出口を見つけようと試みる。だが、先に見つけたのは出口ではなく、見たくないの光景だった。
人々が鎖に繋がれ、魔族に誘導されながら歩いて行く。そのまま魔馬車に乗せられていき、それ以上乗れないだろうと思うほどに、人を詰め込む。
子供だろうが女性だろうが関係なし、圧死してしまうのではないかと言うくらい積み込まれたころ、魔馬車は真夜中にも拘らず動き出す。魔族が明るいランタンを持ち、魔馬車の通り道を示し、王国の出入り口まで進んでいく。
「お母さん~~!! お父さん~~!!」
音がしない空間に、突如として悲鳴と思われる大声が僕たちの耳を劈いた。
「うるせえぞクソガキ!! そんなに殺されたいなら、今すぐ殺してやろうか!!」
「お、お願いです。この子だけは、この子だけは助けてください……。私は目が悪いのでどうなっても構いませんから……、うぐ……」
「だとよクソガキ、お前が早く載らねえとこいつの首が無くなるぞ……」
「う、う……」
その光景は隠れている僕たちには見えない。でも、酷いことが行われているのは確かなのだろう。
「フリジア、落ち着いて……」
声が聞こえた方向に向かって矢を放とうとしているフリジアを止め、落ち着かせる。冷静になったのか、頭に登った血流を元に戻すように、深呼吸を行い、集中する。
「ごめん、取り乱してた。まだまだ子供だね……」
「いや……。誰でもそうなると思うよ。種族関係なしにそう感じ取れるフリジアは綺麗な心を持っているんだ」
その後も暗闇からの悲鳴はやむことなく僕たちの耳を劈き続けた。頭がおかしくなってしまいそうな感覚……。これだけ人の憎悪と恐怖が混ざった声を聴くと常人ならすぐ、狂ってしまうだろうが僕たちは残念ながら常人ではなかったらしい。
不快に思いながらも僕の感情が変わることは無かった。フリジアも怒りを覚えていたが、今は至極冷静に対処し、全てを呑み込む漆黒の森を感じさせる。
急いでいるにも拘らず、中々進まない。焦りが前に出すぎてしまい、行動が疎かになる。こうなってしまっては何もかもが上手くいかなくなるのは至極同然。
1つの行動が狂わせられると連鎖的に全てが狂ってしまう。
僕は一度立ち止まり、何とか狂った部分を正常に戻す。戻せたかどうかは僕にもわからない。周りから見てもわからないだろう。
でも、明らかに立ち止まる前と感覚が変わった。前に進んでいる感覚が小さいにも拘わらず、冷静に物事を進められている自覚があった。
――良し。このまま行けば、出口につくはずだ。
僕達は魔馬車が通る道を避け、ランタンの火が照らさない建物の裏側を通りながら出口に向かう。王国の門は固く閉ざされており、開けることは容易ではない。魔族が常に見張っているからだ。
でも、門が元から空いているのであれば、脱出も可能。そこで問題になるのが、やはり魔族の存在である。
「やっぱり魔族はいるよな……。ただ、入る時みたく検査されることは無いみたいだ。どこかで下に潜り込めればいいんだけど、難しそうだな……」
「そうだね。朝にはこれだけ魔族が立ってなかったから出来たけど、今回は難しそう。暗闇からいきなり何者かが現れたら凄く目立つし……」
――考えろ。どうにかして魔族がこちら側を意識しなくなるような状況はないか。
「この魔石を使おう。音と爆発で一瞬でも魔族軍の集中を集められるんじゃないかな。この魔石をフリジアの矢に結び付けて、遠くの広場で爆発させるんだ。一瞬の隙をついて魔馬車の下に隠れる……。どうだろう」
「そうね、出来なくは無さそう。立っている魔族兵を見ても、虚ろ気な顔をしている魔族が多い印象だし……」
フリジアの了解も得ることができた。
僕は魔石を取り出す。事前に僕の魔力を溜めておいたため、既に淡い光を放っている。段階的には二段階目の光だ。
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