魔族兵からの誘い
――は! まて、落ち着くんだ。ここは冷静にならないといけない。こんな所で魔族を切りつければこの二体は倒せるかもしれない。けど、他の魔族兵が僕を絶対に殺しに来る。この情報を持って帰れれば、魔族国にいる人族を助けに行くこともできるんだ。
僕は魔族兵を切りたいと言う衝動を何とか堪え、震える唇を噛み締めながら感情を押し殺す。
魔族兵たちはすぐ目の前で人が話を聞いているとも知らずにべらべらと色々喋っていた。
「これからどうなるんだろうな。このまま、東国にでも攻めるんだろうか。それともどこかで魔族兵を魔族国から出来るだけ集めて兵力を強化して違う国を責めるのか。まぁどちらにせよ、今の魔族軍に勝てる国はどこにもないだろうな」
「そうだな。残りの人族を綺麗に処理するのが先か、他国を責めるのが先かはよく分からんが、きっと今回の戦いで世界中に魔族軍の恐怖が知れ渡っただろう。次は手っ取り早く落とせそうな獣人国にでも攻めるんじゃねえの」
――魔族軍の進行先はまだ決まっていないのか。出来ればどこが狙われるのか知りたかったけど、決まっていないのなら仕方がない。でも王国内に魔族兵がいるということは、どの国も絶対に安全とは言えない状況になっているということだ。
後ろの魔族兵が様々な情報を吐いてくれているが重要そうな事柄は今のところない。
感情が揺さぶられるような発言はあるが、今は感情を抑えなければならないため、僕は無に徹する。
「おい、前が空いてるぞ。さっさと歩けよ」
僕は後ろにいる魔族兵に指摘されてしまった。
「あ、ああ、すまない」
――しまった。後ろの話に夢中になりすぎて前に進むのを忘れていた。出来るだけ言葉を発さないようにしたかったんだけど。
「はぁ、こっちは腹が減ってしかたねえんだわ。小さい体は少量の食料で済むだろうから羨ましいぜ」
「は、はは……、そうかもしれないな」
「なぁ、何でそんなにフード深く被ってるんだよ。前が見にくいだろ」
「い、いや、これでいいんだ」
「そうか、なら良いんだ。それにしてもお前ホントに小さいな。何センチメートルだ?」
一体の魔族兵は僕の頭に手を置こうとした。
「俺の体のここら辺だと……一六五センチメートルくらいか。身長低いな~お前。魔族国の平均身長は二〇〇センチメートルくらいだろ。まるで人族みたいな身長してるじゃねえか」
「確かに、こう後ろ姿を見ると何となく人族に見えるな」
二体の魔族兵は僕の正体に気づき始めた。
「い、いや、ただ背が伸びなかっただけだ」
「そうか……」
魔族兵の疑いの目は晴れない。
――まずいな。一回疑われたら、僕が魔族兵だって証明できないと疑いの目をはらしてはくれなそうだ。でも僕には自分が魔族兵だと証明が出来ない。早くこの場を去らないと……。
「おい、次のちっさい奴。配給だ。さっさと受け取って持ち場に戻れ」
「あ、ああ。すまない」
僕は配給所で何かが布で包まれている物と革製の水筒を手渡される。
僕はすぐさまその場を立ち去ろうと横にはけていったのだが……。
「おい、チビ、俺たちと一緒に食おうぜ。お前どうせ今から一人で食べる気だろ。今は戦争中だ、仲間との交流を深めておくことは結構情報収集でも役立つんだぜ」
「ああ、せっかく食べるなら多い方が楽しいだろ。ほら、こっちにちょうど座れる所があるしな」
僕は二体の魔族にいきなり食事を共にしようと誘われた。
――これは奴らの作戦か。この魔族兵たちは僕の正体を疑って確かめるために誘ってきたのか。それともほんとに善意でやっていることなのか。全然分からない。ここは断わ……っつ!!
僕の脳裏を頭痛が襲った。
――頭痛……。誘いを断ろうとしたら頭痛がするなんて。まるで言うとおりにしろと言っているみたいじゃないか。
「ああ、分かった。一緒に食べよう」
僕は二体の魔族兵の後ろについて行く。
「ここがいいんじゃねえか?」
「そうだな、結構広い場所だ」
二体の魔族は、飲食店だったであろうテラスに置かれていた椅子と机を綺麗に並べていき、丁寧に整頓した。
「はぁ、飯がやっと食える。一日一食はさすがにキツイな。あれだけ人間がいるんだから一人や二人食べさせてくれてもいいだろうによぉ」
「まぁ仕方ないって、まずは選別から始めないといけないんだからな。優秀な奴隷に慣れるのにすぐ食べられたら勿体ないだろ。待ってれば次第に回ってくるはずだ」
どうやら、魔族兵にとって人族は食料の動物という認識が強いらしい。
「なぁ、チビは人間のどこの部位が好きだ? 俺は断然太ももだ。筋肉の付きが一番いいからな。食べ応えがあって一番うまい」
一体の魔族は自分の太ももを指さして答えた。
「へ……、人間の好きな部位? そ、そうだな……」
――なんて答える。いや、なんて答えたらいいんだ。僕は人間を食べた覚えなんてないのに。もし変な回答を言ったらさらに怪しまれるぞ。
「む、胸とか……、かな」
僕は心臓が張り裂けそうな程緊張していた。
「胸か。なかなか上品な部位が好きなんだな。だが雌の胸には脂肪しかねえだろ、もっと筋肉質な所を食わねえと体が持たないぞ。だからそんなに小さいのか。というか、お前 肉食っているのか?」
「あ……、いや、家が貧しくて肉何て食べれなかった」
「ああ、そうか。そりゃあ、そうだよな。それだけ小さいんだ何となく想像できるぜ。だが喜べ。もう食料に困る日はない。なんせ食い放題なくらい人族は多いからな。ほらさっさと座れよ、休憩時間がなくなっちまうだろ」
魔族兵の一人が椅子を引き、僕を座らせようとしてくる。
「そ、そうだな」
僕は恐る恐る、椅子へと座った。
包まれた何かを机の上に置き、嫌な予感がして手を付けられない。
二体の魔族は包みを無造作に開けていき、中から何か……得体の知れない……、いや見た覚えがある物体だった。
魔族兵が持っていたのは、どう考えても……人の肉だった。
「あ~、今回は腕か。外れだな、骨は比較的細いから食べやすいのがいい所だが、肉が少ない」
『バギ、グチュ、バギ……。バギ、バギ……、グチュグチュ』
魔族兵が女性の腕を無造作に貪り食う。
「こっちは脹脛だ、俺は結構食べやすくて好きな部位だぜ当たりだな。ん? どうした食べないのか?」
魔族兵は僕の方を見て聞いてくる。
――人の四肢を食ってる……。見覚えないどころか僕にも付いている部分じゃないか。駄目だ。人族の肉なんて食べられる訳がない。
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