王都の調査
「人を見つける前に、魔族兵と接触しないようにするのが重要になってくるね」
「魔族兵との戦闘は出来るだけ避けた方がいい」
僕達は下を向き、魔族兵に顔が気づかれないよう早足で歩く。
魔族兵は何食わぬ顔で僕達の横を通り過ぎていく。
そう思っていた……。
「おい!」
僕達は魔族兵に大声でいきなり呼び止められてしまった。
「――ヘイヘ君、殺す?」
フリジアは僕の近くにより、耳打ちしてくる。
「いや、まだ気づかれたわけじゃないと思う。いったん様子を見よう……」
僕たちは小声で耳打ちしたあと、ゆっくりと振り向く。
「は、はい。何でしょうか?」
「何でお前らは、そんなにフードを深くかぶってるんだ?」
「え、えっとどすね、自分は顔を見られたら駄目な者でして……」
――おい、自分でそんな適当な嘘を言っていいのか。もっとましな言い訳を考えておけよ。
僕はこの場をどうやって切り抜けようと頭がずっと回転しているのだが、これといった答えが見つからなかったため、自分から顔を見せられないといういかにも怪しい発言をしてしまった。
「何だ、暗部の部隊か。すまなかったな。呼び止めちまって。この先に配給所がある。そこで飯と水が貰えるはずだ。急いだ方がいいぞ。配給が間に合ってないせいか早い者勝ちらしいからな」
「あ、ああ、分かった」
魔族兵はどうやら僕たちのことを盛大に勘違いしてくれたようだった。
「はぁ、はぁ、はぁ……。よ、よかった。なんとか気づかれなかったよ」
僕は尻もちをつき、息を切らした。
「危なかったね。もし、気づかれていたら仲間を呼ばれる前に何とか息の根を止めなくちゃいけなかった。魔力の温存になったよ」
フリジアは手に溜めた魔力を鎮める。
僕たちは魔族兵に言われた通り、配給の場所を目指した。
魔族兵の話を聞けば人族がどこに行ったか、どうなったのかを知れると思ったからだ。
フィーアさんに言ったらきっと怒られるだろう。
本当ならばもう引き返すべきなのだ。
王都に人影がなくなっている時点で王都を脱出し、メイの待つエルフ国まで戻る選択をするのが今回の目的であったはずなのだが、ここまで来て人族がいなくなったという情報だけを持ち帰っても何の意味もない。
僕達が道を進んでいると魔族兵らしき集まりを発見する。
「どうやらあそこで配給を行っているみたいだ」
「私たちは出来るだけ離れた所で見てた方がいいかも」
「フリジアは離れた所で魔族兵の会話や行動を観察してほしい」
「ヘイヘ君はどうするの?」
「僕はあの中に行ってくる」
僕は魔族兵が集まっている配給所に指差す。
「え……、何言ってるの。あの中って魔族兵たちの中に紛れ込むってこと?」
「そうだよ。僕は魔族兵の話を近くで聞いて、見て、何とか情報を探れないか、試してみるよ」
「ちょっと待って。そんなの危険すぎる。それだったら私も……」
「いや、フリジアは風魔法が使えるから、遠くからでも話し声が聞こえるはずでしょ。それを使ってここら一帯の魔族兵が話している情報を集めてほしいんだ」
「もし気づかれたら……、逃げられるかどうか分からないよ。それでもやるの?」
「だから二手に分かれるんだよ。もし二人で入って魔族兵に気づかれたら、両方とも捕まるか殺される。でも、一人ずつならどちらか一方が見つかっても、もう一人は逃げられる。どちらかでも生き残れば情報を外へ持ち出すことが出来るんだ」
「そんな……、無茶だよ。危険を冒すぐらいなら、ヘイヘ君も隠れながら情報を集めた方がいいんじゃないの?」
「いや、僕にはフリジアみたいな魔法や身体能力、隠密行動が全然得意じゃない。僕がフリジアの近くにいたら絶対に足手まといになる。例え僕が隠れながら情報収集を行ったところで、対した情報は得られないと思うんだ。僕が張れるのは命くらいしかない。だから、もし僕が見つかっても、かまわず逃げてほしい」
「何言ってるのそんなことできるわけないでしょ。それにメイちゃんはどうするの? そんな簡単に死にに行くような言い方は止めてよ」
「安心してよフリジア。僕は死なない。例え見つかっても全力で逃げて絶対にメイの待つエルフ国に戻って見せるから。だから構わず逃げてほしい」
フリジアの表情はフードによって見えないが頭を縦に小さく振った。
「それじゃあ、ちょっと行ってくるよ。もし気づかれず、情報を集められたら、もう一度あの服屋で落ち合おう」
フリジアは頭を縦にもう一度小さく振る。
「ありがとう、フリジア。ここまでついてきてくれて。凄く嬉しかった。じゃあ、また後で合おう」
僕は魔族兵の集まる配給所へ向かおうとした時。
「……」
フリジアは僕の後ろから抱き着いてきた。
「な、フリジア、魔族に見つかるよ……」
「どうか、汝にエルフ神の加護が有らんことを……」
「フリジア……」
フリジアは僕から離れ、即座にその場から消えた。
「おまじないか。僕にもそう言うおまじないがあればな……」
僕は顔を一度強く叩き、気合いを入れる。
「よし、行くぞ」
僕は小さく呟くと、震える脚を何とか前へ一歩、また一歩と進めていく。
魔族兵との距離は次第に近くなっていき、配給所に並ぶ魔族兵たちの最後尾へと僕は位置付けた。
――ここまでは何とか気づかれずに到着したぞ。それにしても魔族兵はいったい何を食べているんだ。動物の肉か、それとも以外に野菜とかかな。
僕の後ろからも魔族兵が並び、もう逃げだすことは出来ない。
僕は配給を受け取ってこの場を去るしか逃げ道はなくなったのだ。
だがそう思った途端に足の震えが止まった。
どうやら僕の腹が括ったらしい。
「なぁ、どうだよここの王都は?」
「ああ、結構広いし、魔力も満ちてる。中々住みやすい土地だと思うぜ」
僕の後ろに並んだ魔族兵たちが喋り出した。
「だよなぁ、俺たちの魔族国とは全然違うよな。ほんと人族はこんなにいい土地を独り占めしてやがったと思うと腹が立ってくるよ」
「ほんとだよな、俺たちがどれだけ厳しい環境で生きてきたか、逆に人族に味わってもらいたいぜ」
――魔族国と王国は結構な違いがあるらしい、だからって人族の国土に攻め入るなんて……。
「あ、そう言えば聞いたか? ここにいた人間の大半は魔族国の奴隷にされるんだってさ」
「ああ、聞いた聞いた。何でも男は労働者、女は性奴隷にされるんだろ。確か老人は皆殺しだったか。子供は保存食兼ペットみたいな扱いになるんじゃねえの。俺ならすぐ食っちまうかもしれねえな」
「女なら肉付きが良くなるまで育てて体を味わってから丸ごと戴くって言う乙な食べ方もできるんじゃねえか? 俺は結構楽しみなんだよね」
「おいおい、お前は人の女に欲情できるのかよ、気持ち悪い奴だな」
「いやいや、そいう訳じゃない。食べる前に味見するのは当たり前のたしなみだろ。欲情というかそう言う話じゃない。だけどよ、ただで性欲を解消できるペットが手に入ったら結構お得だろ」
「まぁ、そうだな、あいつらにどれだけやっても子供は出来ねえからな。そう考えたら大金払って店に行くよりはマシか」
――何を言っているんだ。この魔族兵たちは、人をなんだと思ってる。ペット、食料、僕たち人間を家畜みたいに……。
僕は震える手を魔剣へと次第に伸ばしていると気が付いた。
最後までお読みいただき、ありがとうございます。
続きが気になると思っていただけましたら、ブックマークや評価をぜひお願いします。
評価はこのページの下側にある【☆☆☆☆☆】をタップすればできます。
これからもどうぞよろしくお願いします。




