服装の感覚
「フリジア、よかった。無事だったんだ」
「ヘイヘ君も無事でよかった。それにしてもここが王都なの? 人気が全くないよね……」
「そうなんだよ。僕が前来たときにはどこもかしこも沢山の人で溢れてたから、おかしいと思ったんだ。人はどこに行ったんだろう。逃げたのかなか、捕まったのか……」
「とりあえず情報を集めよう。その為には服装をまず変えないとすぐに気づかれちゃう」
「そうだね。どこかの民家に入って何か借りようか?」
「民家に入るのは危険だよ。もし家の中に魔族兵がいたら私たちが侵入したと気づかれてしまう。そうなったら一巻の終わり」
「そうだよね……。それじゃあ、この近くにあった市場に行こう。確か服も売っていたはずだからさ」
「うん。そのの方がいいと思う。出来るだけ身を隠しながら行こう」
僕とフリジアは民家と民家の隙間を進んでいく。
民家に囲まれている為か、周りの状況が分かりにくい。
逆に言えば見つかり難いとも言える。
僕達は民家地帯を抜け出し、市場のあった大通りへ向かう。
だが、そこにあったのは無残にも破壊された屋台のみ。
既に商品は一つも見当たらなかった。
「どうしよう。これじゃあ、僕たち目立ち過ぎちゃうよ。何か身を隠せるものがないと一瞬で気づかれる」
「あっちに服のお店があるみたい。とりあえず行ってみよう。急がないと魔族兵に見つかるかもしれない」
「わ、分かった」
フリジアの進む先には冒険者用の服を売る店があった。
お店の中はそこそこ綺麗な状態で保たれている。
僕達はお店の中に滑り込むように入ると、冒険者用のレインコート、黒いローブ、水に濡れても心配ないブーツなどと言った冒険者御用達の衣類や靴が陳列されていた。
「ここで着替えていこう。この黒いローブがいいと思う、魔族たちも似たようなものを着てたから、顔を隠せば凝視されない限り気づかれない。もし、気づかれるとしたら私たちの大きさや体格だろうけど魔族にも子供時代があるはずだから、魔族の子供に間違ってもらえるように振舞った方がいいかも。この王国に魔族の子供がいる可能性が低いかもしれないけど……」
フリジアは不安そうな顔で黒いローブを身にまとったていた。大きさが合わず、元に戻している。
「とりあえず、この黒いローブを身にまとって行動すればいいんだね」
「その方が今、私の着ている服よりめだたないでしょ、多分……」
「多分って……。でも、今のところそれしか方法がないかな」
僕たちは陳列されている黒いローブを手に取り、体に合うか試着する。
「これとかどうかな。フードも付いていてちょうどいいと思うんだけど」
僕はフリジアに自分の服装を見せた。
「いいんじゃない。足元もちゃんと隠れてるし、靴で気づかれる心配もなさそう。私の方はどうかな?」
フリジアも僕に着ている服を見せてきた。
「フリジアもいい感じじゃないかな。どこか清潔なエルフっぽさが消えたというか。大人っぽく見えるというか。とりあえずいい感じだよ」
「そう? 私、大人っぽく見える?」
フリジアは鏡の前で様々な方向から自分の姿を見る。
フィーアさんに似た顔立ちなのに身長がフィーアさんよりも高いため、大人っぽい。
「うん、人間だったら二〇歳くらいに見えるよ」
「それじゃあ、大分大人っぽく見えてるんだね。どうしよう、ちょっとうれしい……」
フリジアの白い頬が少し赤みを帯び、体温が上がっているのが分かる。
「とりあえず使えそうなものは一通り魔法の袋に入れて行こう」
「そうだね。何か役にたつ物があるかもしれない」
僕はとりあえず、レインコート、ロープ、ネット、予備の黒いローブを魔法の袋に入れた。
「これも使えるんじゃない?」
フリジアが持ってきたのは下着類だった。
「確かに……。清潔に保たないと病気になる可能性も上がるし、着心地は大切だよな。よし、数枚持って行こう」
僕達は店内を回り、いろんな商品を魔法の袋に入れていった。泥棒だが、店主がいないし、今は非常事態なので多めに見てほしい。
置いてある品は冒険者用の店だけあって、中々いい物が揃っていた。
魔法の袋に入れた品を全て買っていたらいくらになっていただろうか……。
店主には申し訳ないが、僕体が生き残るために使わせてもらう。
靴もボロボロになってしまっていたので自分の足に合う新しい靴を見つけた時は少しうれしかった。
いきなり履くと靴擦れや走り難さが出てくるため、今は履かない。
でも万が一、今はいている靴が使用不可能になった時の予備として確保しておく。
「フリジアは何かいいのあった? あったら魔法の袋に……って、何してるの……」
フリジアの立っている床上には様々な服が散乱しており、鏡の前で自分の姿を見て気に入った品を選んでいるらしい。
今は下着を絶賛試着中だ。
僕の目のやり場に困るので早く終えてほしいのだが、一向に終わる気がしない。
フリジアは恥ずかしがることもなく堂々と下着を着ている。
何か不自然さを感じながらも、フリジアの綺麗な曲線美に視線が引かれた。
「あの……フリジア、あまり大人っぽすぎるのもよろしくないんじゃないだろうか」
「え? この服って大人っぽ過ぎるの。そうなんだ。人の慣性がよく分からないから、適当に試着してたんだけど、これとかどうかな。結構自信あるんだけど似合ってる?」
フリジアは僕の方を向いて色気たっぷりな姿勢をとっていた。
「いや……、その、あまり凝視するのもよろしくないと思って、見れないよ」
僕はフリジアから視線をあからさまに背けてしまった。
「ん? ああ~、大丈夫大丈夫。これくらい普通だから。エルフの服って無駄に表面積少ないものが多いし」
――服? いや、それはどう見たって下着なんだけど。
「いや……、フリジア。それは服じゃなくて人の女性が着る下着だよ……」
「へ?」
フリジアは白い肌を一気に赤く染め、瞳が潤みだす。
少しすると体がプルプルと震えだし、僕の方に右手の平を見せてきた。
「ちょ! ちょっと待ってフリジア。僕は何もしてないよ!」
「さっさと言え! ヘイヘの馬鹿! 『ウィンド!』」
「ぐわっ!」
フリジアはいきなり店内で風魔法を使い、僕は壁に叩きつけられた。
生憎、大量の服が壁となってそこまで痛くはなかったけれど……。
「あの、フリジア……、怒ってる?」
「別に!」
フリジアは僕から盛大に視線をそらし、頬をパンパンに膨れさせており、今にも破裂しそうだった。その姿はリスのようでちょっと愛らしい……。
僕たちは服屋を後にすると人がいそうな場所をしらみつぶしに捜索することにした。
「ここからだとどこが一番人集まるかな……」
フリジアは辺りを見渡し、人のいそうな場所を探す。
「そうだなぁ……。人は水と食料さえあれば大抵の場所では生きていけるから、どこにいてもおかしくない。身を隠しているんだったら、大きな倉庫の中とかで集まってると思うけど……」
僕達が辺りを見渡していると、道の前方から魔族兵らしき生き物が歩いてくるのを発見する。
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