実践練習
「ああ、そうしよう。その方が僕の中にある不安が解消される気がするよ…」
朝になり昨日と同じように木の上に登り魔力操作を行う。
そして少し足裏に魔力が溜まったら、他の木に飛び移る。
足裏の魔力を付けたり放したりする魔力操作は今まで一向にやってこなかった。
そもそも、魔力操作をするだけでも精一杯なのだが、維持する部分と維持しない部分を混ぜ合わせるのは僕にとって途方もない練習だと思っていた。
…初めは失敗ばかりだった。
木の枝から落ちかけて何度もフリジアに助けてもらった。
ちょっと…いや、大分悔しい…弱音なんて吐いている余裕ないと、この時やっと感じた。
それと同時に遅かった魔力操作は少しずつではあるが、早くなってきたのだ。
失敗するたびに自分を卑下していたが、失敗する自分を受け入れたことでもっと上達の速度が上がったと思う。
たんたんと、枝から枝へ移動出来るようになっていく。
「はぁはぁ…良し…少しずつだけど…移動できるようになっているんだよな。僕…成長しているのかもしれない」
自分の成長を少し感じてきた矢先…。
先に森の状態を確認しに行っていたフリジアが弓を持ってこちらに戻ってきた。
「近くに魔物がいる…少し練習を止めて耳を澄ませてみて…」
僕は魔力操作を中断し、耳を済ませてみた…。
「ほんとだ…何か音が聞こえる。この音はいったい…」
僕にも音は聞こえた。
「聞こえたら次は魔物の位置を確認してみて…」
どうやらフリジアは僕に魔物と戦わせたいようだ。
「それじゃあ…僕は下に降りて…」
僕が下に降りようとすると、フリジアは僕を止め『このまま行こう』と言い出した。
「え…でも、逃げられちゃうよ」
「ここまで基礎をちゃんとやって来たんだから。後は実践で試すのみ。実践で使えてやっと自分の力に出来たって言えるからね」
「確かにそれも一理あるけど…僕がそんな上手くできる気がしないよ」
「まぁまぁ、とりあえずやってみよう。実践で使えばどこがダメでどこが出来ているのかをちゃんと理解できるんだから」
「まぁ…それもそうだけど」
僕は何とか魔物を木の上から見つけ…その場から魔物の居る木の上まで移動した。
僕の真下には魔物が木の実を食べている、頭が下がっている為こちらには気づいていない。
木の上から跳躍し真上から魔剣を振りかざす。
魔物は音によって気づいてしまったらしくはらりとよけ、こちらに向ってくる。
僕はすかさず、後方へ回避し、木の上へと上がる。
ヘイヘを見失い、何処にいるか確認している様子だが…。
すでに僕はそのまま上空から魔剣を切りかけ首を両断した。
「はぁはぁ…何とか倒せた…」
倒せたものの、一度失敗してしまっていた為、もし強敵と戦っていた場合は自分の命は無かったと感じる。
「ヘイヘ君大丈夫だった?」
「うん、何とかね…。一度目で仕留めておきたかったんだけど…出来なかった」
「まぁ、初めは仕方ないんじゃない。これからだよこれから」
フリジアはそう言うと倒した魔物から魔石を取り出し、ヘイヘに渡した。
その後も、数体の魔物と戦う事となり、上手く進むことが出来なかったが…その分、実践経験を積むことで比較的楽に移動することが出来るようになっていた。
「はぁはぁ! っと、危ない…。ふ!」
10日目には、フリジアと木の上で戦えるくらいにはなっていた。
フリジアの矢を回避し、放ってきた場所に移動して攻撃をするといった感じだ。
勿論フリジアには手を抜かれている。
それでも、10日ほど前の頃に比べたらものすごい速度で成長したはずだ。
「ふ~、いや…。まさか10日でここまでできるようになるなんて思っても見なかったよ。普通にもっと時間が掛かると思ってた。何なら練習しながら王都まで付いちゃうんだろうなって思ってたのに。ヘイヘ君、何処かで習ったことあるんじゃない?フィーア叔母さんに習ったとか?」
「いやいや、フィーアさんに会ったのはもう大分昔だし、たった一回しかちゃんと話したことないよ。この前だって特にそんな練習を教えてもらったわけじゃないし」
「やっぱりそうだよね…。それじゃあ、ヘイヘ君が天才ってことなのかな?」
「いやいやいや…それの方が無いかな…。僕の何処に天才の要素が含まれているのさ。どっちかと言えば凡人又は無能の方が僕に合ってる…痛て」
フリジアは下を向く僕のおでこにデコピンを食らわせた
「もう、自分をそんな風に言ったらだめだよ。一番自分の言葉を聞いているのはヘイヘ君自身なんだから。もっと気持ちの上がる言葉を言わないと、本当にそうなっちゃうよ」
フリジアにデコピンされた部分を摩りながら、僕は答える。
「はは…確かにそうだね。それじゃあ…僕なら出来る。きっと皆のもとへ帰れる。もっと強くなれる。死なない。何があってもきっと僕なら乗り越えていける」
一通りポジティブな言葉を連ね、少し頬が赤くなりそうな気持に襲われるが、フリジアが笑って頷いているのでそれを見れただけでも十分かも知れない。
少しずつだが森を移動する速度が増して行った。
既にもう半分を超え、そろそろ何か知らの跡が残っているんじゃないかと思う。
それに戦争をしているのなら、ここら辺で戦っているのだと予想していた。
「フリジア、どう?何か見える?」「いや…何も見えない。ん…」「ん?どうかしたの…」
フリジアは一度その場に止まった。
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