街の様子を見に
薪を追加し、火を絶やさない。
「そろそろ良いかな…」
被せていた草をどけると、水蒸気が一気に立ち昇る。
「うわ! 凄いく良い匂い。ここまで香ってきたよ」
フリジアも駆け寄ってくる。
僕は葉っぱに包まれたワイルドボワの肉を何とか取り出すと、大きめの葉に乗せる。
ちょっとしたお皿変わりだ。
「良し…中身を確認してと…」
包んでいた葉を開けると、さらに白い水蒸気が目の前を覆う。
視界はすぐ元に戻り薄い赤色だったワイルドボワの肉に熱がしっかりと通ったらしく赤色に少々黒が混ざったような、食欲をそそる色へ変化していた。
「うん…問題ない。フリジアもう食べられるけどどうする」
「勿論いただくよ」
ワイルドボワの肉を食べやすい大きさに切り分ける。
フリジアに肉の乗った葉を渡す。
フォークが無いため、拾った木の枝を使い、肉へ刺しこみ口まで運ぶ。
「刺した感触が、焼いた肉とはまた違うのね…凄く柔らかい」
1つ…また1つと、口に運んで行き一瞬で1つの塊を平らげてしまった。
「凄い食べっぷり…そんなにお腹空いてた」
「え、ああ…私結構食べられるタイプなのよ。まだまだ食べられるけど、勿体ないし今日はこのくらいでとどめておくよ。蒸し焼きも美味しいのね、こうなると色々な食べ方で食べてみたくなっちゃった…」
フリジアは一度大きな伸びをして、後ろの木にもたれ掛かる。
「今日は僕が焚火の番をするから、フリジアは先に寝ててもいいよ」
「そう…ならお願いしようかな」
そのままフリジアは眠りについてしまった。
寝るのも起きるのもフリジアは凄く早い。
僕は魔法の袋から毛布を取り出すと寒そうな肌にそっと掛ける。
僕は焚火の前に戻ると、1本、2本…少しずつ薪を加えていく。
一気に入れるとすぐ薪が無くなってしまうため、しっかりと見極めながら確実に燃やしていく。
「こうやって…火を眺めている分には平和なのにな…」
僕は火に言葉を入れ込むように話しかける。
誰も聞いていないのだから火と一緒に燃やしてしまおうという訳だ。
心の内を火に向って語りかけると、なぜか気持ちが楽になった。
「今頃…大丈夫かな…ジャスも無理してないといいけど…。人族が負けてたら…どうしよう。僕とメイは…ずっと逃げ続けないといけないのかな…」
少しの弱音を火に投げ込み、一気に燃やす。
「うん…やっぱり気持ちが楽になるな…」
僕は気持ちを落ち着かせ、空を見上げると散りばめられた星が息を呑むような美しさを放っていた。
「あの星は…いつ何があっても同じように光り輝いているんだろうな…」
僕は先ほど聞いたおまじないを試す。
掌を星に向け、願いを思う。
星の数ほどある願いのうち1つを選ぶのは至難の業だった。
ただ…この願いさえ叶えば僕はもう他の願いなんてどうとでもなると思う。
掌を握りしめ自分の胸まで持って行くと、願いは体に染み渡るようだった。
「これできっと僕も願いの為に動けるようになるよね」
エルフの国を出発して3日。
僕たちは街の様子をうかがいに向かった。
「それにしても、エルフ国に行く時よりも短く感じたんだけど…どうしてなんだろう」
「あ、それはね、エルフ国の周辺に生えている木が原因なの」
「木?」
「そう、エルフ国への侵入を防ぐために幻覚を見せるトロントって言う木なんだけど、悪意を持っている者がいると絶対にたどり着けないようにしちゃうの」
「はぁ…つまり人によって距離が変わるの?」
「そう、来るときはまだ審査対象だったヘイヘ君も国を出るときにはすっかりトロントに認められたから、早く移動出来たんだよ」
笑顔で話すフリジアをよそに街まであと数㎞の所まで迫った時。
「!」
僕は咄嗟にフリジアに覆いかぶさり茂みに隠れる。
「な…!」
声を出そうとするフリジアの口を手で抑え込み、僕は目にしたものを指さしながら教える。
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