報告書
僕は報告書を提出するために、冒険者ギルドに来ていた。
「さて……。報告書をさっさと提出して仕事に戻ろう。でも今日は雰囲気がいつもと違う気がする」
――いつもは男臭いような、獣臭が強いギルドなのに、今日はいつも以上に熱気を放っているような。
僕は気にすることなく、報告書を受付嬢に提出する。
「お久しぶりです、ヘイへさん。今回は報告書の件ですね」
「はい、そうです」
「では、報告書を拝見いたします」
そういう彼女の顔はあまり乗り気ではなかった。
「確認いたしました。報告書に問題ありません。引き続き、依頼を頑張ってください」
「集金は払わなくていいんですか?」
「はい、ドワーフからはいただかない決まりとなっております」
「そうなんですね……。失礼します」
――集金を払わなくてうれしい気持ちと、エルツさんがのけ者にされているのが悔しい気持ちがどちらも押し寄せてくる……。
僕はじっと我慢してその場をやり過ごした。
「それにしても今日は、人が多い気がするな。何かあったのかな?」
そう思い、年の近そうな人に聞いてみた。
「すみません、今日は何かあるんですか?」
「え! お前、知らないのかよ、今日はこのギルドに有名な冒険者が来るんだってよ」
「そうなんだ」
――有名な冒険者って誰なんだろ? 僕は冒険者のことを全く知らないから、有名な冒険者がこの場所にやってきても、気づけるかどうか不安だな。
そんな不安の必要はなかった。
「来たぞ! ルークス王国で五名しかいないSランク冒険者のリーン・フィーアさんだ!」
とある男性が叫ぶと周りの人が歓声を上げ、ギルドの入り口から受け付けまで一直線に通路が開いた。
僕はギルド内に鎮座する人々に押し流されながら部屋の壁側に移動する。
「すごい盛り上がりよう、そんなにすごい人なのか?」
「すごいも何も、彼女がいるところは魔物の被害が起きないんだよ。それは全て彼女が脅威となる魔物を排除しているからだって噂があるんだ。足音もせず静かで風のような方なんだって」
「へぇ、すごい方なんですね」
――そんな人がいるならぜひ見てみたいな。話が出来たら少しでもいいから強くなる方法を教えてくれないだろうか。
二枚の木製の扉が外側に開き、視界が広がる。入口に立っている有名な方を初めて目にした。
「あ、あれ? なんか小さいな……」
有名なSランク冒険者の方は、僕が思い描いていた姿と全然違った。
姿や顔はフードによって見えにくくなっている。
身長は一四〇センチメートルくらいなのではないだろうか。背負っている大きな弓が冒険者さんよりも大きいと錯覚してしまうほどだ。
ただ、周りの人の反応を見ると僕と違う反応をしていた。
「な、なんて綺麗な人なんだ。まるで天使だ……」
「美しい……。これほどの美女がいるなんて……。女神の化身だ」
「かっこいいわ、あんなに逞しい体をしているなんて……」
これほどまでにばらばらの印象を持っている。
まず僕は冒険者さんの顔すら見えていない。でも周りの反応からすると、顔を見ることができているみたいだ。
「これは……いったいどういうことなんだ?」
僕が疑問に思っていると、小さな冒険者さんは受付の前に立つ。
「すみません、依頼の報告書を持ってきました」
小さな冒険者さんはつま先立ちになり、大人のようにふるまおうと努力していた。
「はい、かしこまりました」
受付係の女性も表情が緩んでいる。
僕は何か違和感を覚えたが、報告書を提出してしまったのでギルドにいる意味もない。話しかけられるような雰囲気では到底ないので、ギルドを足早に後にした。
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