野盗との取引
「おい…おい! 俺の手足を縛っている縄を魔法で切れねえか?」
「そんな上手くコントロールできねえよ。腕と足を吹っ飛ばしちまうかもしれねえぞ」
「それも困るな…」
――しかし…このままじゃ全く動けないままここに貼り付け状態にされるしかねえのか…ふざけんなよ。
「あきらめるかこんちくしょう!」
しかしリーシャの結んだ縄は一向に解けず、野盗達は朝を迎えてしまった。
「皆さんおはようございます。せっかく小さな武器を返して上げたのに。そんなに木に縛られているが心地よかったですか?」
リーシャは煽るような口調、見下すような眼で罵る。
「ふざけんなよ…わざわざ…とどかかないところに置きやがって…」
「何を言ってるんですか? これであなた達は自由です。好きな所に行ってもらって構いませんよ」
「ならさっさと俺達を縛っている縄を解きやがれ! いったいどんな結び方をしやがった! どうして動けば動くほど閉まってくるだよ! …お前…素人じゃねえだろ!」
「いえいえ…私はド素人中のド素人ですよ。ただちょっと体の構造に詳しいだけです。人が動くには関節を動かさなければなりませんし。例え関節を動かせる方はいらしても木が邪魔で動かなかったのではないでしょうか」
「クソ女…いい気になりやがって、この縄が無ければ一瞬で殺してやるんだが…」
「そんな怖い…脅さないでくださいよ」
リーシャは腰に付けていた中型ナイフを鞘から抜き出す。
日の光を反射する銀の刃を野盗の首元へ『ヒトッ…』とくっ付けた。
「お…お前、何する気だ…こちとら身動きが取れねえんだぞ! 卑怯じゃねえか」
「卑怯…? 何が卑怯なのか分かりませんね…。動物たちだって罠に掛かっていたら、そのまま殺すでしょ」
「俺たちは動物じゃねえよ! 人間だぞ。どいつもこいつも、アホずらかいて逃げてきやがるから仕方ねえだろ。俺たちも奪わないと生きてけねえんだよ!」
「本当ですか…」
「ああ…本当だ、俺たちはすべて奪われてきたんだ。なら俺たちが奪ったって、何も文句を言われる筋合いはねえ! さっさと開放しろ!」
「この先にも野盗や山賊は今すか?」
「あ? そりゃいるだろ…何当たり前のこと言ってやがる」
「貴方は元冒険者ですよね。その恰好からして…」
「ああ、元冒険者だが…Cランク止まりだったがな…それがどうした」
「あなた達は、他の野盗より強いと思いますか…」
「俺たちが農民上がりの奴らに負ける訳ねえだろ」
「私は素人でした…。しかし、あなた達はこうして捕まって居ますが…」
「グ…不意打ちだから仕方ねえだろ。いきなり眠らせやがってよ!」
「卑怯ではありませんよ。野盗とはこういう者でしょ。」
「それで俺たちをどうする気だ……」
「このまま殺してあげても良いんですけど…東国まで護衛を依頼できないでしょうか?」
元冒険者は目を見開き、リーシャの言葉が信じられないといった表情で聞き返す。
「何言ってんだ…お前」
「だから、私達を東国まで護衛してほしいと言ったんですよ」
「いや…だから、俺たちは野盗だぞ。野盗に向かって『私達を護衛しろ』とか…なに頭沸いた発言してんだよ。俺たちは今にもお前をぶち殺したいんだぞ! 今までだって何人も殺してきたんだ!」
「嘘ですね…」
「何で分かる…」
「この剣…貴方のですよね」
「ああ…俺が使っていたものだ…、それがどうした」
リーシャは鞘から剣を抜くと、ボロボロになった剣身が姿を現す。
「この剣を見れば、貴方が人を殺していない事くらい分かりますよ。逆に多くの魔物を殺してきたのでしょう。人を切ってこんな剣身が欠けることもボロボロになる事もありません。どうしてあなた達が野盗の真似事をしているのか知りませんが…普通の冒険者に戻られてはどうですか」
「知ったような口ききやがって…。知らねえぞお前を後ろから刺しても」
「私たちはあなた達の後ろ側を歩くので、刺す行為は出来ませんよ」
リーシャは野盗の1人を縛っている縄をナイフで切り裂いた。
手が離れた瞬間、その野盗はリーシャの首元へと手を伸ばす。
しかし…
「な…何だこれ…体が、動かない…」
リーシャの首元へ手は届かず、野盗の動きは一瞬で岩のように硬直した。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます!
もし少しでも、面白い、続きが読みたいと思って頂けましたら、差支えなければブックマークや高評価、いいねを頂ければ幸いです。
毎日更新できるように頑張っていきます。
よろしければ、他の作品も読んでいただけると嬉しいです。
これからもどうぞよろしくお願いします。




