避難
「こんな子にまで危険が及ぶなんて…戦争はほんと酷いものよね…」
リーシャ自身も眠りに落ちる。
避難所について初の睡眠だった。
――夢を見た…豪炎の中に泣き叫ぶ子どもたち。容赦なく振るわれる銀の剣身は鮮血の色へと染まり、剣身の奥深くへと吸い込まれていく。見渡す限りの血痕…。鮮血の大河と化した大地には人類の作りだした物は何もない。すべて無に帰した…。私の目の前にはギラリと光る剣身。これほど剣が光っているというのに、奴らの眼は死んだように真っ暗だ。剣を心臓に突き刺された私は…。
発作を起こしたかの用に目を覚ます。
「はぁはぁはぁ…いったい今のは何…。こんな夢…気持ち悪い」
――悪夢を見るなんて久しぶりだ。こんな所で悪夢に襲われるなんて思っても見なかった。どうせ見るならもっといい夢を見させてほしいんだけど。今の状況とか、役立つ情報とか…。私が見るのはいつも悪夢ばかり…。子供の頃からそうだ。いつもいつも悪夢ばかり見るから、夜寝つくことが出来ず暗い顔をして日々を過ごしたいてのだ。しかし、ある少年に出会ってから悪夢を見ることが無くなった。その子と遊んでいると楽しくて時間を忘れる。夜はぐっすり眠ることが出来、表情も明るくなった。どうして悪夢を見なくなったのかは分からないがその少年が関係しているのは間違いないだろう。
「ん…ん…あ…おはようございます。リーシャさん…」
「ええ、おはよう。王国の朝は冷えるわね」
…息が白くなり、眠気が一気に覚める。
体を丸めて眠る者、くっつきながら眠る者、立ちながら眠る者…。
人数が多いお陰かある程度密集しているため体温が体から逃げず、体調を維持できているのだろう。
外はまだ暗いが、リーシャは外へ出ることにした。
「すみません…外に行きたいんですけど…」
避難所の入り口を守る兵士の1人に、リーシャは話しかけた。
「なりません。外は危険です。民草を守るのが我々の使命、今戦場で戦っている同志たちの為にも、我々はあなた方を守らなければならないのです」
「そうですか…分かりました」
――やっぱり駄目か…今どいう状況か外に出て、王国の様子を見たかったんだけどな。
「このまま外に出られないと…逃げるとき人々に飲まれちゃうわね…」
リーシャは考えをまとめる為ブツブツと呟きながら、ラーシュの元へ戻る。
「どうかしたんですか…」
「いえ、ちょっと考え事をしていたの。ラーシュちゃんは何も気にしなくていいわ」
2日目…3日目…他の出口をリーシャは探してみたが…、一つも見つけることは出来なかった。
――そろそろ…ここに居る人たちの限界は近そうね…。選択するときは刻々と近づいて来てる。そりゃあ、3日間も監禁されてたら不満も溜まってくるでしょう。そうね…作戦は決まったわ。
リーシャは周りの人に聞こえる小さな声で在らぬ嘘を喋っていった。
「ここに居る人たちは、王国の民を逃がすための囮らしいよ。ここから出したくないのも、囮が逃げたら大変だからなんだって…」
狭い空間に埋まるほどの人間が存在している為、リーシャの流した偽情報は一瞬で人々に広がる。
叫び出したり、暴力行為に陥る、極限状態の人もいるのだ。
極限状態、また周りの同調圧力に押され冷静な判断は誰も出来ない。
人々は次第に兵士たちへぶつかって行くようになった。
1人が動くとその他多数の者が動く。
人というのは誰か1人が動き出したとき、先頭に出た者から勇気をもらい他の者は後を追うように動き出す。
しかし、言うなれば誰かが動くまで待ち続けるといった頑固さ…。
誰かが動き出すのを持っているという他人任せな点を持っている。
だが…動き出したのら流れる水のように、だれにも止めることは出来ない。
兵士たちは避難民を押し込めることが出来ず、外へとはじき出されてしまった。
ぞろぞろ、と避難所に閉じ込められていた人々が流れ出していき、もう収拾はつかなかった。
「よし、ラーシュちゃん。今のうちに外へ出よう!」
「は、はい!」
外に出ると、王都の時間が止まったかのように、とても静かだった。
逃げている人以外、王国に居る人は誰も見当たらない。
辺りを見渡すと様々なものが地面に、散乱していた。
屋台の食べ物、武器…服…
――王国の人たちはどこに行ったのだろうか…。




