リーシャとラーシュ
「なんとかここまで来ましたね…。リーシャさん…」
「ええ、でも…すっごくピリピリしてるわ…。気を付けていきましょう」
人族と魔族の戦争が始まる数日前…。
ラーシュとリーシャは王国内に無事避難していた。
王国内に避難した2人は別方向から避難してきた、多数の避難民中に紛れこんでいる。
人の姿をしたラーシュは、周りの人間に誰一人ばれていないようだ。
実際の見た目よりラーシュは大分変化している。
主に、大きなふさふさの耳は小さな人の耳に、ヘイヘを見るといつも振っていた尻尾は無くなっている。
その為、ラーシュは獣人の姿と全く違うため人にバレることは無さそうだが、一応フードを被り他人にバレないよう心掛ける。
フードを被る理由は万が一魔法の効果を失い、ラーシュの大きな耳が出現したとき、他人から獣人だとバレないようにするためである。
「それにしても…凄い人の数ですね…。こんなにいっぱい人を見るのは初めてです…」
「そうね、きっと王国外からの避難民が殺到しているのね。このまま行くと…まだまだ増えそうね」
王国内で多くの施設が避難民の為に開放されている…。
しかし、それでも王国内で人込みを作っている状況を察するに、施設は全く足りていない状況なのだろう。
最悪道端で夜を明かさなければならない可能性もある。
夜外を子供と女の2人で過ごすのは、相当危険な行為である。
空は青く晴れているというのに…不安と心配でリーシャの心は暗いなにかに押しつぶされそうだ。
「大丈夫ですか…。リーシャさん」
「ええ、大丈夫よ。私はちょっと人混みが苦手なだけ…すぐ慣れるわ」
リーシャたちは運よく王国の避難施設に入ることが出来た。
周りを見ると…女性…子供ばかり。
「なるほど…親子又は女性、子供はこのような施設に送られるのね」
だが、すでにリーシャたちの居る施設も避難民で溢れかえっている。
誰も足を伸ばして眠ることは、できないだろう。
壁を背にしてもたれ掛かる…。
王国まで来るのに結構歩いたため、疲労は相当溜まっている。
「ラーシュちゃんは大丈夫? 疲れてない?」
「はい…大丈夫です。多少の疲れはありますが、我慢できないほどではありません」
山の様に曲げているラーシュの足はプルプルと震えている…。
座っていても、相当足は辛いのだろう。
元は獣人族の体力が有ったため、余裕だった長距離移動は、人の体になってから出来なくなっている。
人の体となったラーシュにとって、森から王都までの道のりは相当辛い移動だった。
「いい、ラーシュちゃん。無理しちゃだめよ、休める時にはしっかりと休む。それが大切…」
ラーシュを引き寄せ、リーシャは豊満な胸の中で抱きしめる。
「リ、リーシャさん…。く、苦しいです」
「無理しなくても良いのよ…ラーシュちゃんはまだ子供なんだから。何も心配いらない…大人の私が守ってあげる…」
「リーシャさん…」
するとラーシュは大きく開いていた目を閉じ…、リーシャの胸の中で眠り始めた。
移動で相当疲れていたのだろう。
リーシャは持参したブランケットをラーシュの肩に掛け、2人でくっ付きながら眠る。
リーシャは瞼を閉じて考える。
いつ王国も戦場になるか分からない…。
もしかしたら、あっさりひ弱な人族が戦闘能力の高い魔族に勝ってしまう可能性も、考えられるのだ…。
だが、今しなければいけないのは、もしかしたらでは無く…もっとも最悪な事態を想定し行動すること…。
そうすれば、どういった状況に陥っても最善の判断を取れる。
多少強引な手段を取っても仕方ないだろう。
リーシャは、約束を守らなければならなかった。
ヘイヘがラーシュを迎えに来るまでなんとしてでも生き延びなければならなかった。
ラーシュの命を守らなければならなかったのだ。
避難所に移動してから1日が経った。
兵士が配給を持ってきた…。
しかし…、配給というには、あまりにも少ない食料だった。
「一切れしかない小さなパン…水は小さなコップ一杯分だけ…これで一日分の配給なの…」
「う…ううぅ…」
今までになくラーシュは絶望している。
「仕方ないわね…。まだいっぱい避難民が居るんだもの。これだけの避難民を保護するなんて…普通出来ないわ。きっと王国の食料を全て配ったとしても…足りないのでしょうね。持って3日と言った所かしら…」
「3日経ったら、食べ物も水も配られなくなるってことですか…」
「そうなる可能性は高いわね…。そうなると、王国も安全な場所ではなくなるわ」
――あと数日でここを離れたほうが良さそうね。その間に少しでも体力の回復、食料の調達をしないと…。
リーシャの持っている麻袋の中には革製の水筒…少量の干し肉…ブランケット、着替えなどが入っている。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます!
もし少しでも、面白い、続きが読みたいと思って頂けましたら、差支えなければブックマークや高評価、いいねを頂ければ幸いです。
毎日更新できるように頑張っていきます。
よろしければ、他の作品も読んでいただけると嬉しいです。
これからもどうぞよろしくお願いします。




