魔族と人族の戦い方
「殺せ!!目の前の魔族を殺すんだ!!…え…あれ、魔族が消えた…」
「目の前の人間を殺せ!1人残らず血祭りにあげろ!…何…人間が消えた…」
人族軍…魔族軍共に、自身の意識を取り戻し、自分たちが行っていた行動を思い出そうとするが…その一定期間の記憶がすっぽりと頭から消えてしまっているため、思い出すことが出来ない。
両者とも、仲間が何故地面に倒れているか分からず…記憶の手掛かりとなるものを探した。
すると、自身の持っている剣に大量の血液が付着していることに気づく。
両者共に何が起こったかを頭の中で想像すると、人族は冷や汗が止まらず、魔族は震えが止まらない。
「皆の者!ここが最終局面じゃ!今こそ、剣を持ち、立ち上がれ、敵の首はすぐそこだ!!」
シモンズ王は、兵士の指揮を下げまいと、現状に困惑する事なく、その身を振るい立たせた。
それに感化された、魔族軍総司令のブロードもまた、魔族兵に檄を飛ばし…人族と魔族、両者の殺し合いが再開される。
「ブロード様、ただいまの結果、全体の半数ほど魔族兵が負傷いたしました…」
「なるほど…それはあちらも同じ事だろう…。何者かが、我々に魔法を掛け、そしてその魔法を誰かがまた解いた。こう解釈することもできる。魔法を掛けたのが魔族なのか、人族なのかは分からないが、魔法が解かれたという事は、既に戦闘不能である可能性が高い。攻めるなら今か…」
メルザードは魔族軍の先頭に立ち、皆へ指揮を出すために魔馬を走らせる。
魔族から流れ出した、血液によって、地面は黒く染まっており、ブロードの体には、無数の切り傷や刺し傷…が一瞬で分かるほど増えている。
剣には魔族兵と人族の血液が、べっとり付いているため、銀の剣身は赤黒く変色していた。
「皆の者、今こそ我らの攻め時である。こちらも疲弊しているが、それは人族も同じこと。魔法が解かれた以上、攻撃を開始するしかない。先ほどの魔法をもう一度使われれば、我々魔族は、攻め時を失ってしまうのだ!行くぞ!」
メルザードは魔馬を走らせる。
多くの魔族兵を引き連れて。
大地を踏みつぶし、草花を無に変えてゆく。
「王様、魔族兵が全軍動き出しました!」
「奴らも仕掛けてきたか…先ほどの魔法を、よっぽど警戒していると言える。しかし、それはこちらも同じ。残りの兵の数は少ない。だか、催眠が解かれたと言う事は、術者が倒された可能性が高い。つまり…近くにジャスが来ている、ということか…。ならば、ジャスが来るまでの時間を我々が作り出せばいいだけの話だ…」
シモンズ王は人族兵の前に立ち、声を荒げる。
「皆の者、最終局面じゃ。良くここまで共に戦ってくれた、感謝する。お主らの栄光は、今後続く人族の歴史に深く刻み込まれることだろう。死ぬことを恐れるな、殺すことを恐れるな。すべては国の為、愛する者のために、自身の剣を振るい魔法を使用する。しかし、どんな武器や魔法より、強い者を人族は持っている。それは心だ!心は、どんな者より強い。何があろうとも折れない心は、強靭な体を作り出し、一撃必殺の一撃を繰り出す。心とは、そういうものだ。例え、心が折られようとも、皆で支え合い元に戻せばいい。例え、強靭な肉体が無くとも、心さえ強靭であれば肉体までもが、強靭にな体となる。敵の体はデカイ。魔力量も、けた違いだ。しかし、我々には、魔族を凌ぐほどの心を持っている。これで対等…いや、それ以上の戦いを繰り広げることが出来たのだ!」
シモンズ王は剣を掲げ、王らしい合図を出す。
磨かれたその剣身は、光を反射し、皆の心を照らす一筋の光となった。
「行くぞ!我に続け!」
「皆、行くぞ!!』
人族軍、魔族軍ともに、大きく動き出す。
魔族軍の魔法部隊が放った、轟音の爆発と共に。
爆風が髪をなびかせるも今は気にしていられない。
目の前に集中しているため、周りの景色が歪んで見えるのだ。
走る…走る…走る…人族も魔族もタダ前の敵だけを見て、全力で地面を蹴り付ける。
魔族兵が魔法を放ち人族は、剣を前に突き付けた。
両者共に、衝突まで残り数10メートル、最後の戦いが始まろうとしていた。




