巨大ローゲルの災厄
「な、なんて大きさだ……!?」
「まさか奴の奥の手がこれだとは……!!」
見上げるほどに巨大化したローゲルを前に、騎士たちはみんな目を見開いている。
「フハハハ! ドウダ、コレガ私ノ真ノ力ダ!!」
重低音として周りの空気を揺るがすローゲルの高笑いに、僕たちも唖然とする他なくて。
そこへ一声あげたのが騎士団長のベイルガードさんだった。
「とにかく国王陛下と街の皆を避難させるんだ! 奴の攻撃に巻き込んでなるものか!!」
「おおおおおお!!」
ベイルガードさんの号令で騎士たちがみんな揃って応える。
「フフフ、逃ガスト思ウカ……?」
それを逃がさまいとローゲルの巨大なハサミが国王様に迫るのを、僕とはなちゃんが庇うように躍り出た。
「ナニ?」
「国王様! ここは僕とはなちゃんに任せてください!」
「何を言うか! そなたたちだけにこの場を任せることなどできようものか!」
「――とにかくお逃げましょう! あなた様の命が守られることが最優先です!」
ベイルガードさんの言葉で、国王様も避難を始める。
もちろんセレナさんたちも街のみんなを避難させようと必死だった。
ここは僕が時間を稼がないと!
そう決意したのも束の間、食い止めていたローゲルのハサミにはなちゃんが払い除けられてしまう。
「はなちゃん!!」
四本の足を踏みしめながらも地面を滑るように押し退けられてしまうはなちゃん。
「大丈夫、はなちゃん!?」
「ブロロロ……パオ!」
僕の確認にはなちゃんは鼻で力こぶを作るように応えてくれた。
「貴様ノヨウナ小サキ者ニ何ガデキル?」
そんな僕たちを嘲笑うように巨体を揺らすローゲル。
確かに体格で有利をとれないこの状況じゃ、僕たちに分が悪すぎるのは確かだよ。
そんな僕の脳裏をよぎったのは、セレナさんに連れられて避難するルナちゃんの心配そうな顔だった。
ルナちゃんたちを守るためには、ここを引き下がるわけにはいかないんだ!!
「うおおおおおおお!!」
「パオオオオオオオオン!!」
二人揃って雄叫びをあげる僕たちに、ローゲルの巨大なハサミが再び迫る。
「マトメテ潰シテクレルワア!!」
「はなちゃん、走って!」
「パオ!」
それをはなちゃんがかわし、とにかく走って奴の気を引こうとした。
「グヌヌヌ、チョコマカト……!!」
ローゲルのハサミと槍が交互に迫るのを、僕たちは懸命に走ってかわしていく。
この大雑把な攻撃なら、はなちゃんの足でも十分かわせるよ!
「ヌオオオオオ!!」
今度はローゲルが口から光の玉を天に打ち上げたかと思うと、それは無数の光の矢に分かれてまるで雨のように降り注いだ。
「うわああああ!!」
「プオオオオオオオ!?」
降り注ぐ光の矢が周りの建物を爆破し、降りかかってきたその破片に僕たちは埋もれてしまう。
「フハハハ! 所詮ハコノ程度、私ノ敵デハナイ!」
瓦礫越しに奴の高笑いが響いてくる。
はなちゃんが庇ってくれたおかげで僕はなんとか潰れずにいるけど、揃って身動きがとれないんだ。
「サテ、逃シタ国王ヲ探ストシヨウ」
ローゲルの足音が次第に遠退いていくのを感じて、僕は敗北感で瓦礫を叩く。
僕たち何もできなかった……!
*
一方ルナたちはお姉ちゃんに守られながら国王陛下と一緒に街の外れにある隠れ家に避難していました。
「ここならそう簡単には見つからないだろう……」
ワイツくんのお父さんはそう言いながらも、警戒を少しも緩めていません。
ルナも疲れてしまったので、その場で腰を下ろすことにしました。
「ふう……。一体ルナたちどうなってしまうんでしょうか……?」
あの時ユウキくんはルナたちを逃がすために、あそこに残りました。
大丈夫なんでしょうか……? ルナとても心配です……!
うつむくルナを励ましてくれたのはお姉ちゃんとワイツくんでした。
「ゆーくんなら心配することないよ。きっとまた合流できるよ」
「認めたくねえけど、……あいつら強いからな。そう簡単に死んだりしねえって!」
「お姉ちゃん、ワイツくん……」
お姉ちゃんもワイツくんも強いです、だってこんなことになっても全然くじけてないんですもん。
ルナよりも小さいはずのロゼちゃんだって、不安に押し潰されそうな街のみんなを懸命に励ましてる。
ルナだけです、何もできなくて恐怖に押し潰されようとしてるのは……。
膝を抱えて塞ぎ込もうとしたその時でした、突然どこからかとんでもない爆音がしたんです。
崩れ落ちる建物を目の当たりにして騒然となる街のみんなをどうにか落ち着かせようとする騎士団の皆さん。
ルナもそれを見て思わず悪い予感を感じてしまいました。
もしもユウキくんがあの巨大で恐ろしい敵にやられてしまったら。
気がつくとルナは立ち上がってがむしゃらに駆け出していました。
「待ってルナ! どこ行くの!?」
お姉ちゃんに手を掴まれたけど、ルナは止まりません!
「離してくださいお姉ちゃん! ユウキくんが、ユウキくんがーーー!!」
お姉ちゃんの手を強引に振り払ったルナは、ユウキくんとはなちゃんが戦っている場所へと駆けつけようとしました。
周りで崩れて土煙をあげる瓦礫を駆け抜けながら、ルナは怖いのを胸の奥に押さえ込んで駆け抜けます。
ユウキくん、どうか無事でいてください……!
そう願ったのも束の間でした、突然頭上から瓦礫が崩れ落ちたんです。
「へ……?」
突然のことにルナの足は止まってしまいました。
ルナ、ここで死んじゃうんだ。
ごめんなさいお姉ちゃん、ユウキくん……!
迫る死の恐怖から目を背けたその時でした、どこからか聞き覚えのある声が届いてきたんです。
「ピイイイイイイイ!!」
この声はもしかして……!?
気がつくとルナは虹色の鳥に掴まれて空を飛んでいました。
「ピッピちゃん、ですか……!?」
「ピィ!!」
やっぱりそうでした、直前でピッピちゃんが飛んで来てくれたんです!
「ありがとうございますピッピちゃん、あなたはルナの命の恩人です……!」
「ピィ~!」
ルナが見上げて感謝すると、ピッピちゃんは誇らしそうに一声鳴きました。
ずいぶん大きくなったんですね、ピッピちゃん。
「ピッピちゃん!」
「ピィ?」
「ルナを、ルナをユウキくんの元に連れていってください!」
「……ピ!」
ルナのお願いを聞き入れてくれたのか、ピッピちゃんはルナを掴んだまま遠くで暴れてるローゲルの方に飛んでいきます。
待っていてください、ユウキくん!




