異形のローゲル
「な、何だあれは!?」
「魔物が宙を浮いている、それもあんなにたくさん!!」
空の異変に周りの人たちがうろたえだす。
その光景はまるでこの世の終わりを見てしまったかのようで。
そうかと思えば宙を浮く魔物の軍団がふわりと着地して、一斉に猛り狂った。
「ウオオオオオオオン!!」
「ブヒブヒブヒイイイ!!」
「クキャキャキャ!!」
ダイヤウルフにオークにゴブリンそれから僕も見たことがない魔物まで、おびただしい数の魔物たちが手近な人々から手当たり次第に襲い始める。
「はなちゃん!」
「パオーン!!」
僕の号令で言わんことを理解してくれたはなちゃんが、すぐさま魔物を蹴散らしにかかった。
「プオオオオオオン!!」
「ギャアン!?」
「ブヒッ!?」
「クギャッ!?」
その長い鼻の一振りで、魔物たちをまとめてぶっ飛ばす。
「ここは僕たちに任せて、皆さんは避難してください!!」
魔物を払い除けながら人々を避難させたところで、僕は次の指示を出した。
「ブレスブリザード!」
「ズオオオオオン!!」
僕の指示ではなちゃんが鼻から吹雪のような冷気を放ち、魔物たちをまとめて凍りつかせていく。
「グランドインパクト!」
「パオオオオオ!!」
即興で頭に浮かんだ魔法の名前を叫ぶなり、はなちゃんが足踏みで地面に衝撃を伝え、凍りついた魔物を一気に粉砕した。
「ふーっ、ここはなんとかなったみたい。――はなちゃん!?」
ほっと一息つく間もなく駆け出すはなちゃんが向かったのは、街の騎士団と魔物たちがちょうど交戦してる真っ只中。
その中にはベイルガードさんたちも混ざっている。
だけど戦い慣れてるはずの騎士団も、狂気に満ちた魔物たちに押されていた。
「怯むな! 所詮は魔物、街を守る我らが衛兵の敵ではない!!」
「うおおおおおおお!!」
騎士団長のベイルガードさんが率先しての号令で騎士団の士気を底上げしてるけど、それでも五倍以上の数を誇る魔物たちには苦戦しているみたいで。
「ストーンショット!」
「プオオオオオオン!!」
はなちゃんの鼻から機関銃のように放たれる石の弾丸を皮切りに、僕たちも騎士団に加勢する。
「おお、ユウキ君にはなちゃん殿! 助太刀感謝する!」
「困ったときはお互い様です!」
「パオ!」
気合い十分に僕がぐっと腕を構えると、ベイルガードさんは豪快に笑ってのけた。
「ハハハ! 君たちが来てくれれば百人力だ! ――騎士共よ、ユウキ君たちに負けるなよ!」
「おおおおおおお!!」
僕たちの加勢で騎士団のみんなが闘志をさらに燃やして、魔物たちと戦う。
ふと感じた異様な気配に頭上を見上げると、何て言ったら分からないような異形の存在が空を飛んで王宮の方へ向かっていくのが目に飛び込んだ。
「何かが王宮に向かってます!」
「なんだって!?」
僕の言葉でベイルガードさんが後ろを振り向くなり、ギリリと歯を噛み締める。
「奴がこの騒動の主犯か! もしや陽動作戦に嵌められたというのか!?」
陽動作戦、つまり敵の狙いはがら空きになってるはずの王宮にあるということ。
王宮には国王陛下だけじゃなくロゼちゃんたちもいる!
「ベイルガードさん、ここを任せてもよろしいでしょうか!?」
「――いいだろう。必ず国王陛下を守り抜くのだぞ!!」
「はい!! ――はなちゃん!」
僕の指示ではなちゃんが踵を返すと、魔物たちが行かせまいとこっちに向かってこようとする。
「邪魔はさせんぞ!!」
それをベイルガードさんたちが盾になって食い止めてくれた。
「ありがとうございます!」
「いいから早く行け!」
ベイルガードさんの発破で僕たちは王宮に急ぐ。
*
一方王宮は避難してきた人たちでごった返しており、その中にはもちろんルナたちの姿もあった。
「一体何が起きているんでしょうか……?」
「父ちゃん、大丈夫かな……?」
ぎゅっと握った拳を胸に押し当てるルナとワイツに、ローゼンメイルはこう諭す。
「今は騎士の皆様とユウキちゃまを信じましょう」
「そうですね、ここにいないユウキくんも今戦ってるんです……!」
騒然とする人々の前に歩み出たのは、豪華絢爛な装いをした国王陛下だ。
「皆の衆! 非常事態ではあるが落ち着いていただきたい、騎士団が魔物共を速やかに片付けてくれるであろう!」
国王陛下の号令で、避難してきた人々のざわめきが瞬時に収まる。
「すげえ、ざわついてた人たちが一瞬で……!」
「さすがは国王陛下ですわ……!」
しかしそれもつかの間、王宮の窓ガラス全てが一気に砕け散った。
「な、何事だ!?」
再びパニックに陥る群衆の目前には、異形の存在が宙を浮いて不敵な笑みを浮かべている。
「オ久シブリデス、国王陛下」
「この声はまさか、ローゲルなのか……!?」
ボロ布のような翼に大バサミと化した右腕と鋭い槍のように尖った左腕。
ローゲルと呼ばれた存在は、もはや人としての原型をとどめていなかった。
「ろーげる?」
「お父様から聞いたことがありますわ、確か禁断の技術に手を染めてアル・デ・バランから追放された科学者がそんな名前でした。しかしあれは……!」
「ローゲルよ、何故そのような変わり果てた姿に……!?」
「ククク、ソレハ愚問デスゾ。私ハ魔物ヲ操ル技術ヲ極メテキタ、愚カニモ自分ヲ追放シタコノ国ニ復讐ヲ果タスタメニナア!」
そう宣言するなりローゲルが、国王の隣にいた第一王女のリリエンスを念力で自分の元に引き寄せる。
「か、身体が勝手に……きゃあっ!?」
「リリー!!」
引き寄せるなりリリエンスの華奢な身体を大バサミで挟んだローゲルがこう持ちかけた。
「コイツヲ返シテ欲シクバ国王ノ貴様ノ首ヲ差シ出セ! サモナクバドウナルカ、分カルナ……?」
「う、くぅ……っ!」
ローゲルの大バサミで締め上げられる愛娘の苦悶の表情を前に、国王はその要求を飲まざるを得なかった。
「……分かった、我が首一つで娘が助かるなら喜んで差し出そう」
「いけないわお父様!!」
リリエンスの制止も聞かずに国王は王宮からローゲルの前に出る。
「フハハハハ、ソレデヨイ!」
「お父様ああああああ!!」
ローゲルが国王陛下を左腕の槍で貫こうとした次の瞬間、どこからか飛んできた矢が大バサミの付け根を射抜いた。
「グッ!?」
「きゃっ」
その途端に解放されて落下しようとしたリリエンスを、ちょうど猪突猛進の勢いで駆けつけてきた巨大なゾウが受け止める。
「もう大丈夫ですよ、リリエンス様」
「あなたは平民の……!?」
リリエンスを取り返したのは、他でもないユウキだった。
その彼は反対側で弓を構えていたセレナに声をかける。
「セレナさんも来てくれたんですね!」
「もちろんだよ! アッシュたちに国王陛下たちを任されたからね!」
誇らしげに指を立てるセレナと共に、ユウキとはなちゃんもローゲルと相対することに。




