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王国に忍びよる陰謀


 それは十年前の王宮での出来事だった。


『何故ですか! この技術を使えばプレアデス王国の軍事力を格段に上げることも叶うのですぞ!?』

『だからといって魔物を意のままに操る技術など、危険すぎる上に神への冒涜に値する! それを認めることなど国王としてはできない、ローゲルよ』


 当時科学者であったローゲルだが、魔物を操る禁断の技術を国王に認められずに王都から追放されてしまう。


 なぜ自分の編み出した画期的な技術が認められない?


 その疑問と屈辱を胸にローゲルは人知れず魔物を操る技術を極め、自分を貶めた王国へ復讐するときまで力を蓄えた。


 そして十年の時を経た今、彼は王国全土に生息するありとあらゆる魔物を意のままに操る力を手に入れたのである。


 背中にはボロ布のような翼、右腕は大バサミ、左腕は鋭い槍のように尖っている。


 王都に程近い森に潜伏しているローゲル、それはもはや何者とも呼べない異形の姿になっていた。


 そんな彼のもとには、この日までに配下としたおびただしい数の魔物たちが集い、揃って(こうべ)を垂れている。


「ククク。今ニ見テロヨ憎キ国王ヨ、貴様ノ誕生日ヲソノママ命日ニシテクレル……」


 忠実なしもべと化した魔物たちの前でほくそ笑むローゲル。


 そんな彼の元に突如一閃の光が走った。


「クッ!?」


 衝撃で舞う土煙が晴れると、そこに立っていたのは一人の少女。


「竜血のフランヴェルム……!」


 露出の激しい褐色の肌に、ドラゴンのような尻尾と翼。


 この辺りで竜血と呼ばれ恐れられるフランヴェルムその人である。


「フフフ、竜血ガ私ニ何ノ用カナ?」

「貴様か。この地の魔物を手中に収め、均衡を乱す不届き者は」


 吐き捨てるように告げたフランヴェルムの目は、目の前のローゲルを敵と見なしていた。


「貴様のような奴を見逃すことはできん、わらわが始末してくれるのじゃ」

「フフフフ、ハハハハハ!!」

「何がおかしい!?」

「マサカ竜血トモアロウオ方ガノコノコト私ノ前ニヤッテクルトハ。飛ンデ火ニ入ル夏ノ虫トハ正ニコノ事!」


 高らかに笑ったローゲルは、あろうことか竜血のフランヴェルムをも手中に収めるつもりのようである。


「何を馬鹿なことを――くっ、頭が!」

「竜血トイエド所詮ハ魔物、我ガ術ニカカレバ赤子ニ等シイ!」


 洗脳による激しい頭痛に悶え苦しむフランヴェルムに、ローゲルはさらに術を強めた。


「ぐ、ああああああアアアアアア!!」


 ローゲルの術にかかったフランヴェルムの(まなこ)からは光が失せ、ついには彼の支配下に置かれてしまう。


「ハハハハハ、笑イガ止マラン! マサカ直前デ最強ノ手駒ガ手ニ入ルとは! 王国ノ最期ハ近イ!」


 人知れない間に、王国はローゲルの魔の手に侵されようとしているのであった……。



 この日僕たちはホテルの裏庭で誕生パーティーでのダンスの練習をすることになったんだけど。


「うわわっ、おっとっと!?」

「ちょっと、ユウキくん!? ――きゃあ!」


 慣れないダンスのステップに、僕とルナちゃんは揃って何度もバランスを崩してしまう。


「ごめん、ルナちゃん……」

「ううん、ルナの方こそこれではダメダメです……」

「これは課題も山積みですわね……」


 指導してくれているロゼちゃんも、これにはため息を隠せないみたい。

 はなちゃんもそばで見てくれてるみたいだけど、すぐに飽きたのか足元の草を鼻でいじくってるよ。


 一方ワイツ君は意外とコツを早く掴んだみたいで、信じられないくらいダンスが上達していた。


「まあ、ワイツちゃまはなかなか筋がありますわね!」

「へへっ、まあな! これがオレの実力だぜ!」

「ワイツ君はすごいなあ。僕も頑張らないとっ」


「――おほほ、これはこれはなんて見るに堪えないのかしら」


「だれ!?」


 聞きなれない言葉に僕たちが後ろを振り向くと、純白のドレスを着たプラチナブロンドの髪のお姫様みたいな女の子がいつの間にかいたんだ。


「貴方は、リリーお姉ちゃま!?」

「久しいわね、ロゼ」


 驚きつつもスカートの裾をつまむロゼちゃんに、リリーと呼ばれた女の子が反応する。


「リリー……お姉さま?」

「一応お初の人のために自己紹介しておくわ。私はリリエンス・フローラル・アルデバラン、この国の第一王女よ」


 自己紹介がてらにスカートの裾を上品につまむリリエンス様に、僕は口をあんぐりと開けてしまった。


 本当にお姫様だった!!


「それよりも何なの? ダンスもロクに踊れないこの田舎者たちは」


 蔑むようなリリエンス様の物言いに、ロゼちゃんはむっと頬を膨らませる。


「こちらはユウキちゃまにルナちゃま、ワイツちゃまですわ。皆わたくしの友達でしてよ」

「あら、こんな田舎者と友達だなんて。プレアデスのお嬢もそこまで落ちぶれたのかしら?」

「なっ!?」

「ちょっと待ってくださいよ! そんな言い方あんまりじゃないですか!?」

「パオン!!」


 はなちゃんと一緒に思わず割り込んじゃったけど、僕は引き下がるつもりはないよ。


「な、何なのこの巨大な獣は!? 私にたてつくだなんていい度胸ね!」

「ちょっとユウキくん! 第一王女様に意見するなんてまずいですよ!?」


 ルナちゃんが耳元に囁くけど、僕の怒りは収まらなくて。


 そんな僕を、リリエンス様は取り繕うように鼻で笑う。


「まあいいわ。せいぜい父上の誕生祭で恥を晒さないことね」


 そう残してリリエンス様はこの場を優雅に去っていった。

 はなちゃんをチラチラと見てたのは気のせいかなあ?


「ちぇーっ。なんだよあいつ、感じの悪いお姫様だなあ!」

「ちょっとワイツくん、聞こえちゃいますよ」


 ワイツ君をたしなめるルナちゃんだけど、僕も憤りを抑えられない。


「僕たちはいいけどロゼちゃんをバカにするなんて許せないよ!」

「ユウキちゃま……。わたくしを案じてくれるのは嬉しいですわ。ですがわたくしは気にしておりませんので」

「ロゼちゃん……。僕、せめてダンスで恥をかかせないように頑張るよ」


 それから僕はダンスの練習を頑張ったんだ。

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