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消えた女の子の捜索

 長老の家に入ると、中心に囲炉裏のようなものがあって床には毛皮が何枚も敷かれているのが目に写る。


「ブロロロ……」

「待っててねはなちゃん、すぐに終わると思うから」


 不満げに喉を鳴らすはなちゃんをなだめた僕は、セレナさんたちと同時に床に腰を下ろした。


「皆様に来ていただいたのは他でもありません、村の娘が一人行方不明になっているのです。セッタという名前なのですが前日にアイン山に立ち入ったきり帰ってこず、長老としてとても心配なのです。村の者も捜索してはおりますが……」

「それで俺たちは行方不明の小娘を見つけ出せばいいんだな?」

「ちょっとアッシュ、物言いが悪いよ」


 少し粗暴な物言いをセレナさんに咎められるアッシュさん。


「あの、はなちゃんの力が必要というのはもしかしてその嗅覚で探しだして欲しいってことですよねセレナさん?」

「そうだね。はなちゃんのよく利く鼻があれば子供たちもきっと見つかるよ」

「はなちゃんってあのデカブツだよな、本当にそんなことができんのかあ?」

「できるってば! アッシュは黙ってて」

「はいはい」


 このアッシュさんって人、ずいぶん気難しい人だなあ。


「とにかく、早いところ小娘を見つけて王都に出発しようぜ」

「自分も同感っす」

「セッタという女の子も心配だルン、早く見つけ出すことに越したことはないルン」

「それじゃあ早速行ってきます長老様。ゆー君とはなちゃんも来てくれるよね?」

「もちろんです。ね、はなちゃん」

「パオ」


 壁の向こうではなちゃんが返事したところで、僕とセレナさんたちは早速行方不明になってる子供たちの捜索に出ることになったんだ。


 そのことを他の場所で待っていたルナちゃんたちに伝える。


「ルナも行きます」


 即答で自分も同行すると言い出したルナちゃんを、セレナさんが腰に手を添えて反対した。


「ダーメっ。お姉ちゃんたち遊びに行くんじゃないんだよ?」

「山の中も危険が一杯っすからね。嬢ちゃんは大人しく待ってるっす」

「でも知らないところで待っているのは不安です……!」


 顔面包帯のクーガさんも加わっての説得で、うつむいてむくれるルナちゃんに優しく諭したのはとんがり帽子のラルンさんだった。


「セレナとユウキ君ならボクたちがいるから大丈夫だルン。心配することないルン」

「ラルンさん……」

「それにボクとしても君には後でお話ししたいことがあるルン。それまで待っててルン」

「……はい、分かりました」


 ルナちゃんを説得できたところで、僕たちはアイン山に向かうことに。


「ユウキくーん、お姉ちゃーん! 無事に戻ってきてくださいね~!」


 はなちゃんの背中に乗った僕とセレナさんは、後ろで見送るルナちゃんに振り向いて手を振る。


「そういえばセッタちゃんに繋がる手がかりって何かありますか? はなちゃんが匂いを嗅ぎ当てるにしても、元になる匂いが必要ですから」

「それならこれがあるよ、ゆー君」


 セレナさんが取り出したのは、赤色の小さなポシェットだった。


「さっきわたしたちがアイン山で見つけたものなんだ。きっと何かの手がかりになるはずだよ」

「ありがとうございます。――はなちゃん、匂い分かりそう?」


 僕がそう口にすると、はなちゃんが頭上に長い鼻を伸ばしてポシェットを嗅ぎ始める。


「それにしても不思議な獣っすね、鼻が長いだけじゃなくてそれを自在に動かせるなんて」

「ボクもこんな珍獣、見たことがないルン」


 そう言うのは隣を歩くクーガさんとラルンさん。


「はなちゃんは僕の大事な家族なんです。――ほら、匂いが分かったみたい」


 僕の思った通り、はなちゃんは地面に伸ばした鼻の先をかざして金属探知機みたいに匂いを探ろうとし始める。


「やっぱ頼りになるよね~」

「わぷっ、だから抱きつかないでください~」


 背後からセレナさんにむぎゅ~っと抱きつかれて、僕はちょっぴり苦しいようなドキドキするような。


 そんな僕をアッシュさんが殿(しんがり)でギロリとにらんでいる。


 うわあ……あれはちょっと怖いなあ。


 そんな僕の思いを察してなのかどうなのか、セレナさんがさらに抱きしめる力を強める。


「アッシュのことなんか気にすることないよ。お姉ちゃんが守ってるからね」

「それがまずいような気もするんですけど……」


 アッシュさんのあの目、絶対嫉妬だよね!?


 そんな彼の視線から気をそらして僕ははなちゃんの動向に従う。


 少し歩いたときだった、はなちゃんが急に足を止めた。


「ブロロロ……」


 鼻を地面から離して耳を大きく広げるはなちゃん。


「はなちゃん、何かいるの?」

「そうみたいだね……」


 セレナさんも背後で背中の弓を取り出して警戒を始める。


 すると藪から飛び出してきたのは小さな人みたいな生き物の集団だった。


「ゴブリンっす!」


 ゴブリンって、ファンタジーでも雑魚敵としてお馴染みのあれ?


 緑色の肌で小柄な身体の割にはせりだしたお腹、確かにそれっぽそう……!


 それに額には結晶みたいなのもついている、ということは魔物の一種なんだ。


「クキャキャ!」

「クキャキャキャ!!」


 木の棒を振りかざして耳障りな金切り声をあげるゴブリンたち。


「どうやらボクたちをこの先に通したくないみたいだルン」

「それなら実力行使だよなあ!」


 そう声を張り上げるなり僕たちを追い抜くように突進したのはアッシュさん。


「サンダー・セイバー!」


 そう叫ぶなりアッシュさんの抜いた剣に電気みたいなのがバチバチと音を立ててまとわれる。


「せやあっ!!」


 その剣を横になぎ払うように振るうと、前衛のゴブリンの上半身が切断された。


「クギギ!?」

「クキャアアア!!」


 仲間を殺されて激昂するゴブリンたちを前に、セレナさんたちも戦いに加わる。


「ストライク・ショット!」


 セレナさんの射った矢が、ゴブリンの脳天を次々と射抜き、


「クイック・スラッシュ」


 ゴブリンの大雑把な攻撃を楽々かわすクーガさんが目にも止まらないナイフ捌きでその腹を切り裂き、


「アイス・ニードル!」


 後方で呪文を唱えたラルンさんが鋭く尖ったつららを射出してゴブリンを貫き、


「す、すごい……!」


 僕とはなちゃんの出番がないままセレナさんの仲間たちがゴブリンたちを一掃してしまっていた。

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