狂ったダイヤウルフ
水遊びを終えたところで、はなちゃんは馬たちに混じって草を食べ始める。
「……それにしてもよく食べるなあ、こいつ」
「さすがは巨大なゾウですわ……」
ワイツ君とロゼちゃんが目を丸くするのも無理はない。
はなちゃんが長い鼻でむしりとった草を口に運んだ後、そこらへんの草がごっそりとなくなってるんだから。
そばで草を食む馬たちも、はなちゃんの食べっぷりに目を白黒させてるし。
はなちゃんのお腹が満たされるのを待ってから、僕たちはまた王都への道を辿る。
今度は僕とルナちゃんだけじゃなくて、ロゼちゃんもはなちゃんの背中に乗せることにした。
ロゼちゃんの希望で彼女が僕の正面に座ることになったんだけど。
「……ロゼちゃん、僕なんかと密着してイヤじゃない?」
「嫌だなんてとんでもありませんわ。わたくしは望んでユウキちゃまに背中を預けているのです。それに一番前の景色は格別ですわ!」
ロゼちゃんが喜んでくれてるならいいか。
だけど目の前にロゼちゃんの髪があって、そこから漂う花のような香りが鼻をくすぐってなんだかドキドキしちゃうよ。
「――ユウキくん?」
「はわっ、ルナちゃん!?」
「ロゼちゃんばかりくっついてズルいです。ルナもくっつきます」
そう言うとジト目なルナちゃんまで背後からぎゅっと抱きついた。
ルナちゃんはルナちゃんでほのかな胸の膨らみが背中に伝わって、ドキドキがさらに加速しちゃう!
「ちっ、ユウキばかりずりーぜ。なあユウキ、そこオレと代わってくれよ~!」
「ダメです~。ユウキくんの背中はルナの特等席なんです~」
ベイルガードさんと一緒の馬に乗るワイツ君のお願いを、ルナちゃんは子供みたいに舌をべーっと出して拒む。
前ほどじゃないけど、相変わらずワイツ君への当たりがキツいなあ……。
「はっはっは、男足るものがっついても女は振り向いてくれないぞ?」
「ちっ、分かったよ父ちゃん……」
ベイルガードさんの助言で引き下がるワイツ君。
だけどその獣みたいな眼光は明らかに僕をにらんでいた。
ふとはなちゃんの頭上で青いチョウチョがヒラヒラと舞う。
「わ~、きれいなチョウチョです~!」
「サファイアアゲハですわ! わたくしも見るのは初めてです!」
「へ~、ロゼちゃんって虫も詳しいんだね!」
「わたくし生き物は何でも好きですの、だから図鑑に書いてあることは全部頭に入ってますわ!」
誇らしげに反り返るロゼちゃんが、なんだか愛らしく思えた。
「あ、あれはクロコチョウですわ! あっちのはキヌハチョウ!」
目につくチョウチョの名前を嬉々として当てる無邪気なロゼちゃんに、僕とルナちゃんは顔を見合わせてにっこり笑う。
ところがそんなチョウチョたちも何かを察したのか、一斉に飛び去ってしまった。
それと同時に茂みから飛び出したのは、ライオンくらい大きな五頭の狼。
額には白い結晶、魔物だ!
それを目撃した騎士団の皆さんが剣を抜いて臨戦態勢に。
はなちゃんも耳を大きく広げ、鼻をあげて警戒の糸を張る。
「ダイヤウルフですわ!!」
「しーっ。ロゼちゃんとルナちゃんははなちゃんから降りて馬車に戻ってて」
騎士団に守られた領主様の馬車まで後退したはなちゃんからロゼちゃんとルナちゃんを降ろしたところで、僕とはなちゃんは再び前に出る。
「ガルルルル!」
鋭い牙を剥いて恐ろしげな唸り声をあげる五頭のダイヤウルフたちは、目の焦点が合ってなくて今にも飛びかかりそうな雰囲気。
「ガウウウ!!」
そう思っていた矢先、ダイヤウルフの一頭が無謀にもはなちゃんに突っ込んできた。
「パオオ!!」
トランペットみたいなはなちゃんの雄叫びにも怯むことなく、ダイヤウルフが彼女の懐に潜り込もうとする。
だけどはなちゃんがすぐに柱のような前脚で力一杯蹴飛ばした。
「ギャアアン!?」
吹っ飛ばされて地面を転げたダイヤウルフは、当たりどころが悪かったのか途端に動かなくなる。
だけど残ったダイヤウルフは恐れを為すどころか、むしろ逆上したかのように四頭一斉に飛びかかってきた。
「ガルルルル!!」
「ズオオオオ!!」
だけど所詮は狼、それよりも遥かに身体の大きなゾウのはなちゃんの敵ではない。
筋肉の塊であるたくましい鼻で突き飛ばし、牙で突き刺し、蹴飛ばし、魔法を使うまでもなくあっという間にダイヤウルフたちをやっつけてしまった。
「さすがはなちゃん殿、我々でも手を焼くダイヤウルフの集団をああもあっさりと倒してしまうとは」
後ろで拍手混じりに称賛するのはベイルガードさん。
本来は結構強い魔物なんだね、ダイヤウルフって。
それからも少し進むごとにダイヤウルフが襲ってきて、騎士団の皆さんとも協力してその都度そいつらを蹴散しながら進む羽目になってしまった。
結局ダイヤウルフの襲撃が落ち着いた頃には、辺りはもう暗くなり始めていた。
「今日はここで野宿とする。皆のもの準備を始めるように」
「「「はっ!」」」
ベイルガードさんの号令で、騎士団の皆さんが速やかに野宿の準備を始める。
もちろん僕も少し手伝ったよ。テントの設置とか焚き火の準備とかかな。
みんなで簡単な食事を終わらせたところで、僕はテントの中に入るなり疲れてすぐに寝てしまったんだ。




